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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第一章 こんにちはと新生活
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見誤っていた友人

 ユーリスに言うべきことは言ったからと、いえ、ユーリスが私が伝えた暴漢の外見で心当たりを叩くと約束してくれたから、私は物凄く安心できた。

 そこで私は職員用の食堂を出ると、本来だったらもう一度昼寝中のシュウの寝顔を見に行くところを真っ直ぐに教室に戻ることにしたのである。


 シュウの安全が約束されたならば、私は勉学に励んで私こそシュウを守れる人物に育たねばいけないではないか。


「すごいな。リディアは俺が今まで出会ったどの女の子よりも格好いいよ。今気がついたけれど、君が着ているのはドレスじゃなくてハーゲン地方のチュニックとズボンという組み合わせだよね。チュニックが長いからドレスにも見えたけど。」


「まあ、褒めて下さりありがとう。それに、あなたは本当に物知りね。ええ、おっしゃる通りよ。ハーゲンの人達は働き者な上に国境近くで他国の強盗団が襲いかかってくる事もあるからと、女性も動きやすいこのスタイルなのよね。」


「うん、まあね。で、リディアが私服の時にはそういう格好ばかりだったろうとは俺も想像できるからさ、シュウを助けに暴漢に向かって行けたのも理解できる。」


「まあ、その通りよ。理解して下さって嬉しいわ。」


 私はダニエルに微笑んでいた。

 この学園は貴族専用よりも緩いようであるが、女生徒がシャツにズボンの剣の練習着の様な格好で部屋の外に出るのは許してもらえなかった。

 そこで、自宅の普段着にしていたハーゲンの民族衣装を、ここでも着ることにしたのである。


 ハーゲンの女性用のチュニックは腰から下は横幅がかなりあるもので、ウェストをベルトで縛ればギャザーが出来て、スカート部分があまり膨らんではいないドレスにも見える。

 だが、両脇を縫い合わせていないチュニックなので両脇はスリット状態であるし、中にはズボンを履いているのでその余裕のある布地を利用して足を高々と上げる事も出来るのだ。


「でね、俺が理解できないのはさ、君みたいな令嬢が、どうして貧民窟にも近いドラローシュ通りなんて行っていたの、かな?ということ。」


 私は足を止めた。


 ダニエルの人懐こそうな笑顔は無害そのものに見えたが、あの素晴らしきユーリスが私への質問を最小限にしたのは、この何でも知りたがりの弟が自分が聞かなかった質問の補完をしてくれると分かっていたからだと気が付いたからだ。


「教えてくれる?兄はスルーだったけどさ、俺は知りたい。貴族の金持ちの令嬢でもさ、お金を自由に使えるわけは無いって俺は知っている。それで隠したい自分の秘密の為に悪い事をする人もいる事も知っているんだ。」


「まあああ!」


 私は本気でダニエルを見誤っていたようだ。

 彼はとっても目端の利く賢い人だった。

 そして、友人となった私に嫌われるかもしれない事を考えた上で、ずばずばと聞きづらいであろう質問をぶつけてきたのだ。


 私と同じように、彼もシュウを守りたいから!


 これは彼が信用できるって事だわ!

 私は自分がなぜドラローシュ通りに出向いていたのか、その理由をダニエルに語ろうと決意した。


「あら、身分違い恥知らずがいるわ!」


 高慢そうな女性の声が学園の廊下で響いた。

 私とダニエルは同時にその声の方へと顔を向けた。

 勉強するには派手なバラ色のドレスを着た少女とその取り巻きともいえる少女二人という三人が、水色のドレスを着た少女を威嚇して囲んでいるのだ。

 すると、ダニエルがうんざりした低い声を出した。


「またやっている。」


「あれは何のお遊びかしら。どう見ても同じ学園の生徒のようですけれど?身分違い?」


「バラ色のお姫様が男爵令嬢のミラだ。水色が大金持ちの商家の娘のジリアン。ジリアンの兄とミラの姉の婚約が破棄されてね、そのとばっちりでジリアンがミラに虐められているって事だ。」


「まあ!婚約破棄はミラの姉の方でしょう?それなのに?」


「いや。ジリアンの兄の方が駆け落ちして逃げちゃったらしい。」


 私はそれで目の前の出来事に納得して頷いた。

 婚約破棄は女性からしか出来ないものだが、時々家名を捨てる勢いで男性側が駆け落ち婚などをして婚約破棄になることも多いのだ。


「まあ、それは納得。男爵家の名誉は泥まみれね。」


「だからってジリアンが虐められていい理由になるのかな?」


 ダニエルは騎士道精神が強い人でもあるらしい。

 あるいは、あの可憐な薄い金色の髪をしたジリアンに、恋心を抱いているからかもしれない。


「ええ、いけない行為よ。でもね、男性側から婚約破棄された貴族の娘が、今後一生結婚できなくなる事情をご存じ?相手によっては姉妹の結婚話まで台無しになることもあるのよ?」


 ダニエルはハッとした顔をした。

 そして、再びミラたちの方を見つめ直し、それでか、と呟いた。


「あいつはそれでやられる一方なのか。」


 私もダニエルと同じように見返し直し、すると、ジリアンはドレスに何かの汚れをかけられた丁度その時だった。


「下水道の匂いがぷんぷんなあなたにはそれがお似合いよ。ああ、本当にいるべきじゃない人がいるせいで、空気が淀んで息が詰まります。ここは爵位の無い者へも扉を開いている学園ですけどね、爵位が無くとも爵位がある者との繋がりがある者しかいない場所ですのよ。」


「あいつ。」


 私はダニエルの腕を掴んだ。


「あなたが庇ったら火に油を注ぐようなものよ?」


 女には女の、貴族には貴族の戦い方があるものなのだ。

 どちらも私には不得手なのだけれど。

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