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とある伯爵家での騒動

 それはほんの偶然だった。

 馬車の窓から外を眺め、そこで私は天使を見つけたのである。

 偶然こそ神様のもたらした事であるならば、私はそれを受け取り全うしなければいけないだろう。


「許しません。救護院にお渡しなさいな。」


 私の母は私の抱える幼子を見て冷たく言い放った。

 幼子は私の中に潜り込めるなら潜り込みたいという風にして、彼を抱く私の腕の中で小さく身を丸めた。


 彼はこんな小さくて幼いのに、自分が我が家では招かれざる客どころか、彼をどうするかで私が両親に囲まれて叱責を受けている事を理解しているのである。


 薄茶色のほんの少しだけ巻き毛という短い髪に、透明な緑色の瞳は美しく、ポチャッとした幼児独特の頬の丸みも相まって、彼はとても可愛い子供だ。

 私は彼を安心させるようにして彼を抱き直した。


「大丈夫よ、シュウ。」


「ばいばい、ない?」


「ないわ。」


「ねえ、リディア。下々の子供は下々の暮らしで育ってこそ幸せになれると思わないかな。」


 父は貴族でもない子供が貴族の生活に慣れれば、庶民の生活に戻れず不幸になると私に言い聞かせて来た。

 私は顎を上げて両親を見返した。

 そして、言ってはいけない言葉を口にした。


「では、お父様、お母様、わたくしに弟を産んでくださいませ!」


 二人はぐっと喉を詰まらせた。

 悲しい事に、我が両親の夫婦仲は完全に冷めている。

 彼らは互いの顔を見合わせ、それから再び私に顔を戻すと、いいよ、と言った。


「わかった。君の熱意に負けました。では寮の手配をしましょう。貴族の子弟ならば、寄宿舎で育つものでしょう。」


「まあ、そうですわね。あなた、寄宿舎に入れるのが一番よ!」


 彼らは私に寄宿舎と言い張って、私の子供を孤児院に捨てる気だとピンときた。

 両親の夫婦仲は本当に冷めているのか?

 そんな疑いを私が抱くほどに、我が両親の息はぴったりだった。


「そうですわね。良家の子女は寄宿舎に行くべきですわね。私と弟は一緒に寮に入れる学園に転校することにします。」


「共学だなんて!そんな学園は貴族だけでなく商人の子供も通う所でしょう!」


 いつも表情を崩さない母までも顔を真っ赤にして怒鳴ったが、私は決めた事だと言って転校することを頑として譲らなかった。


 私が抱くこの子供は、私が見つけた時には何者かから走って逃げていたのだ。


 貧乏人の子供は煙突掃除人に売られて煙突掃除の仕事をさせられる、と下働きの召使は私に教えてくれた。

 だからこそ私はこの子を守らねばならないだろう。

 彼は三歳というこんな小ささで、自分の決められた人生を足掻く意思を見せた人物だ。

 伯爵令嬢ならば、領民の安寧を守る立場である。

 そんな私が、か弱くとも真っ当な領民を守れなくてどうするのだ。

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