最終話 あたい、賢者になったよ
あれから六年が経った。
あたいは新しい時代の賢者として今も引っ張りだこだし、ジャンは英雄の血を引く傭兵としてお互いできることを尽くしている。
でも、絶対どっちかの遠征の時にはみんなでついて行くんだけれどね。
それと、あたいたちは新しく家を持った。
そこはお師匠様とあたいの家があったとこのすぐそばで、穏やかな森はファムちゃんの育成にうってつけだ。
何よりも、ここが好きって言うのが大きいかも。
「おはよう、ヒヨ。ふわぁ。朝は眠いや」
「もうだいぶん昼だよ? こんにちは、ジャン」
寝ぼけて目をこすっているジャンへ笑いながらそう声をかける。
と、ファムちゃんが何やら調合に成功したらしい。
「お師匠様、これ」
そう言って持ってきたのは蜂の毒の解毒剤。ペロリと舐めてみるときちんと計量がされていて、テストに出したら満点ぐらいの良品だ。
「うん、上手だね。あ、新しい杖は?」
「昨日の夜、作りました」
そう言って魔石でできた杖をあたいに見せた。夜遅くまで物音がしてたのはこの音だったんだ。
「課題の混合魔法はどう?」
「……今、やってみますか?」
「うん、そうしよっか」
あたいは調理の準備の手を休めて椅子に座った。向かい側にファムちゃんが立つ。
ジャンもなんとなくあたいの隣にやってきた。
ファムちゃんが集中し始めると、それに呼応して魔力たちが集まってきた。まだファムちゃんには見えないみたい。
それでも的確に言葉を唱えて、魔力の力を引き出していく。
「ファイア・ウォーター・ミクシー」
唱えた瞬間赤と青の魔力が輝いた。そしてあたいたちの間に火と水が入り交じった混合魔法が生み出される。
その魔力の輝きは、確かに一流のもの。
ファムちゃんは魔法を収めた。そしてあたいは口を手で隠して考えるふりをする。
だって、もう言うことは決まってるもの。
ジャンも雰囲気を察して席に着いた。
「……六年ぐらい経ったよね」
なんとなしにそう話し始める。
「ファムちゃんを弟子にとってから六年」
「そう考えると長いな」
「うん。いろいろあったね」
エレちゃんは今も大司教として頑張っているし、聖地では人間に寛容になった。ジャンはルガムさんと時折仕事をしているらしい。
別れもあった。あれから二年ぐらいでテラロアさんは死んでしまった。悪魔の力が尽きたのだ。
その立場はキタラさんが受け継いで、今も賢者と人間の橋渡しに尽力してくれている。
それと同じように、ファムちゃんは六年も修行を重ねたのだ。
「ファムちゃん……いいえ、ファム」
あたいが呼び方を変えると、ファムちゃんは背筋をピンと正した。
「六年も、よく修行をこなしてくれたね。あたいは、ここにファムが賢者となることを認めます」
あたいは杖を取り出して振る。きらきらとした光がファムちゃんに降り注いだ。
その時のファムちゃんの嬉しそうな顔は、きっと忘れることができないだろう。
あたいはふとお師匠様のことを思い出した。
あの日、お師匠様はあたいにこんな気持ちを抱いていたのだろうか。
同じ目線に立って、初めて気がついた。これが弟子を認める感動と、弟子を見送る寂しさというものなのだろう。
ファムちゃんがブレイヌへの旅のための荷造りで部屋にいる時に、ジャンが気を利かせてコーヒーを入れてくれた。
「ついに、だな」
「そうね」
感慨深いものがある。あたいがほとんど一から教えてあげたのだから、思い入れもひとしおだ。
これから果たしてあの子はどう成長するんだろう。そして、どんな出会いをするんだろう。
きっと、素晴らしい物語が待っているに違いない。
いつの日も思い出すのだ。お師匠様に宣言したあの日。ルトンさんの家からの帰り道に言った言葉を。
『あたい、賢者になる!』
あたいは熱い吐息をほうと吐く。そして感傷的なままに言った。
「ジャン」
「なんだ?」
「大好きだよ」
「俺もだ」
ジャンはファムちゃんに負けないぐらいの笑顔を浮かべて、あたいも満面の笑みで答えた。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたか?
これにて、ヒヨっ子賢者ヒヨの物語はおしまいとなります。
今回は普通に反省点が多いです。更新を優先してガバガバな内容になってしまったのが勿体なくて、本当はジャンとの喧嘩とかヒヨの得意魔法とかやるつもりだったんですけどね……。
ともかく、これにてまたひとつの物語、世界が終わりを迎えました。僕にとっては二回目です。
ヒヨの人生が誰かを感動させられたなら、僕はそれ以上の喜びはありません。
余韻を壊すようですが、よければ評価、感想等よろしくお願いいたします。
また、合わせて現在連載中の「n番目の世界でも僕は天使に恋をする」もよろしくお願いいたします。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!