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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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66話 きっとこの先

 さてと、ジャンを探さないといけない。きっと、今もどこかで戦っている最中だろうから、あたいが無理やりにでも連れて帰らないと!


 上空からそれらしき戦いの場を探す。それはあっさりと見つかった。壁から少し外のところで戦いの音が鳴っている。


 あたいはそこへと急降下していく。案の定戦いの真っ最中にいるジャンに強い視線を送っていると、ジャンの目があたいを捉えたようだった。


 ジャンは近くの兵隊を切り伏せて、あたいに右腕を伸ばす。両手でそれを掴んだ。


「遅かったな!」

「えへへ、ちょっと時間かかっちゃって。無事?」

「ん、まあな」


 そうは強がるが、溢れるため息からは相当の疲れの色が見える。


「ごめん、無理させちゃった」

「謝ることはねぇよ。これが俺の役目だし、弱音は吐いてらんねぇから」


 そう頼もしいことを言ってくれているが、しっかりと休ませてあげようとあたいは心に決めたのだった。


「なあ、あのゴーレムもあの壁も、お前の魔法なのか?」

「ううん。あれは元々ここにあった魔法よ。あたいはそれを蘇らせただけ」

「なるほどな」


 ジャンはそう言って少し黙った。それからこう言う。


「すげえじゃん」


 あたいは少し嬉しくなって、


「でしょ!」


 と、嬉々として応えた。だって嬉しいじゃない!


 そうしているうちに教会へとたどり着き、飛び立った窓と同じところから中に入る。


「お帰りなさい、ヒヨ、それからお久しぶりです、ジャン」

「ただいまー!」

「おう、久しぶりだな。エレ。……なんか大人になったか?」

「あ、ジャンもやっぱりそう思うよね!」

「あの、一応私は二人よりも年上ですからね?」


 そういえばそうだっけ? でも、今のエレちゃんは年上って感じがするなぁ。


 ごほんと仕切り直すようにエレちゃんが咳払いをして口を開く。


「ここで談笑もしていたいところなのですけれども、どうもそうはいかないようです。お二人はこれからどうなさるつもりですか?」

「あたいたちは今、アルミルティの街に向かっているの」

「アルミルティの街……? それって、魔法使いと伝説の傭兵が君臨するならず者の街ではないですか。いったいどうしてそこへ?」

「おいおいおいおい、待て、待ってくれ」


 ジャンが会話を遮って立ち上がる。どうしてかとても困惑しているみたいだけれど、それはあたいも同じ。きっと、ジャンと同じことを言おうとしている。


「魔法使いってのはわかる。だが、伝説の傭兵ってのはどういうことだ。それって、ひょっとして――メロウジスタの英雄、じゃないよな?」


 エレちゃんは、無慈悲にもうなずいた。


「ええ、その通りです。あの街は、とある魔法使いとメロウジスタの英雄が支配しています。おかげでこの街には手を出す王国軍も手を焼いているようなのです。ご存じなかったのですか?」


 ジャンはゆるゆると首を振って、ぺたんと床に座り込んだ。


 あたいの胸中は驚きで満ちていた。まさかルトンさんまでそこにいるなんて。お師匠様と、ジャンのおじいちゃん。あたいはお師匠様を倒さなきゃいけない。っていうことは……。


「ジャン」


 あたいは呼びかける。


「きっと、ジャンはルトンさんと戦うことになるよ」


 ジャンはうなずいて、だけど頭が上がってくることは無かった。がくりと頭の位置が下がったままのジャンに向けてあたいは続ける。


「今なら、引き返せる。別にあたいは賢者になれなくったって……」

「やめろ、ヒヨ」


 強い語調でジャンがそう言った。


「俺はもう、とっくに覚悟を決めてんだ。今更そんな優しいこと言ってくれんなよな? ……辛いのはお互い様だ」


 強い覚悟がビリビリと伝わってきた。あたいはふっと笑顔になる。


「ジャンとルトンさんが戦ったら、この国が大変なことになっちゃうよ? 壊れちゃうかも」

「ははは! それいいな。むしろ壊してやったほうがいいんじゃないか?」

「神様に祈りたくなるほど恐ろしい会話ですね」


 あたいたちの中で笑い声があがる。なんだか妙なツボに入ってしまって、あたいとジャンは死にそうなぐらいに笑ってしまった。


「はー! こんなに笑ったのも久しぶりね!」

「だな。ふぁあ……。なんだか安心して眠くなってきちまったよ。なぁ、今ぐらいいいよな? あのバカでかいゴーレムもいるし」

「そうだね……。エレちゃん、ちょっと休んで行ってもいい?」

「もちろんです。しっかりと体を休めて行ってください。客室がありますからそこへ。ヴェール」

「こちらへ」


 ヴェールさんが現れて、あたいたちの前に立って進む。その途中で、あたいはばっと振り返ってエレちゃんに抱きついた。


 エレちゃんは目ん玉が飛び出そうなぐらい驚いた様子だ。あたいは肩を掴んで言う。


「エレちゃんすごいよ! こんな大きな街を守ってたんでしょ?」

「え、ええ……」

「そんな忙しい中であたいたちに優しくしてくれてありがとう! エレちゃん、大好き!」


 あたいはもう一度エレちゃんに抱きつく。強く強くハグをする。エレちゃんが、優しくあたいの背中に手を回した。


 そのままじっとしているとエレちゃんが手を離した。


「ヒヨも、すごいです。私が困っていると、いつも助けてくれて。……お休みなさい」

「うん、お休み!」


 あたいは急いで螺旋階段を下っている二人に追いつく。


 並んだあたいにジャンが言った。


「俺、初めて友達になれた賢者がお前でよかったよ」

「へ?」

「本当に、大司教様が出会った賢者がヒヨ様で良かったです」

「いやいや、そんな……」


 そんなこと言われても困っちゃうわ。だってお師匠様はあたいよりも良い賢者だし、他にも素晴らしい賢者はたくさんいる。


「それに、あたいまだ賢者じゃないし」

「些細な問題でございます」


 そう言って、ヴェールさんが優しく微笑んだ。


 あたいは照れくさくなって、ジャンの脇腹を小突いた。三回ぐらい小突いた。


 その日は食料を少しだけ分けてもらって、ぐっすりと身の危険を感じずに眠ることが出来た。


 だけどやっぱり疲れは抜けきれなくてーー特にジャンのーー、最後の戦いも近いからもう一日休むことにしたの。


 そう、もう一日。

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