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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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65話 教会の守護者

 部屋の中に入ると、エレちゃんのベッドが盛り上がっていることに気がついた。そこにアーチェさんは静かに眠っていることだろう。


「今、この街は危機的な状況にあります」


 エレちゃんが語り出した内容は、あたいたちを陥れようとした偽の御者さんの語ったものと全く同じだった。賢者の信仰のために国から標的にされている。それに街の人々とともにどうにかして対抗しているらしい。


 あたいはエレちゃんの後ろに続いて、部屋の真ん中にある魔法陣の前に立った。


 エレちゃんは机に置いてあった一冊の薄い本を持ってあたいに手渡す。


「この魔法陣の話をお兄様はしてくださいました。この魔法陣は、私たちの教祖様がお作りになさったものです。過去にこの街が魔法使いに攻め込まれた時に、賢者様がこの街を守るために発動した魔法が今もこの形で残っているのです」


 あたいは受け取った本の表紙をめくった。古代文字で書かれた『賢き者へ』という見出しが眼に入る。


「わかったわ。読んでみる」


 あたいがそう言うと、エレちゃんはこくりとうなずいてベッドの方へと歩いて行った。司祭の二人もそっちへ行ってしまう。


 あたいは前にここに居たときにもよく座っていた机の椅子に腰掛けて、しっかりと読み込む。以前のあたいじゃ到底読めなかっただろうけど、今は隅から隅まできちんと読めるわ。


「ねえ、ヒヨ」


 ふとあたいの隣にエレちゃんが立った。あたいはそちらを見上げる。


「どうしたの?」

「この戦いが治まったら、またいろいろ話したいことがあるんです」


 あたいはエレちゃんが言わんとしていることを感じて、ニコッと笑顔になる。


「うん! だから頑張るね!」


 あたいがそう言って再び本に眼を落とすと、エレちゃんは右腕の木の腕輪に触れた。


 そうしてしばらくして本を閉じる。薄さの割にとても内容が濃かったから、理解するのに苦労したわ。応用を応用したような大魔法だ。


「エレちゃん、読めたよ!」

「本当ですか! では、お願いしてもいいですか?」

「うん、やってみる」


 あたいは魔法陣の前に立つ。自らを起こす新たな賢者を前にした魔法陣は、いくらかのプレッシャーをあたいに伝えてくる。


 そして、その魔法陣の前に立つあたいもまた緊張していた。


 何しろ、この魔法陣は本来あたいなんかが扱って良いものではないんだもの。


 地下に張り巡らされた無数の魔力の導線に魔力を流し込み、このリューリの街を要塞へと変化させる大魔法をあたいの手で発動させる。その緊張感はこれまでに感じたことの無いような震えをもたらす。


 何百年と眠り続けた魔法が、目覚めるーー


「きゃっ!」


 ズゴゴと地響きがして、僅かな揺れを感じ小さく悲鳴が溢れる。


 魔法の発動は成功したみたいだけど……。


「これから、どうなるんだろうね?」


 そうエレちゃんに言うと、エレちゃんは覚悟を決めたような表情で笑った。


 と、窓の外で変化が見られる。


「見て!」


 駆け寄ってみを乗り出すと、街の所々から土の壁が生えてきた。それは上にある家屋をものともせずに姿を現していく。おそらくこの壁のところまでが昔の街の大きさだったのだろう。


 家と同じぐらいまでの高さで止まったそれは、街を一周ぐるりと囲って堅固な岩の壁となった。


「すごい……」


 感嘆の言葉が口から自然と出る。魔法陣であれほどまでの魔法を保存する技術ですら未知数なのに、こんな広さまでを範囲にしてるなんて。


 さらに、あたいの目の前まで水が大きな飛沫を上げた。


「まだあるの?!」


 顔にかかった水を拭うと、そこにはーー


「ご、ゴーレム……」


 昔の人はゴーレム大好きだったのかな。って、このゴーレムは規格外すぎるわ!


 守護神と言っても過言ではないほどの大きさと、頑丈そうな体が明らかな古代の力を持って佇んでいる。


 あたいは本を捲って、オリジナルの命令文を読み上げる。


ーーー(守って)!」


 ゴーレムは重たい頭を上下に動かして、あたいに背を向けて街の外へと歩き始めた。


 そして改めてあたいは簡易の要塞と化した街を見渡す。それからエレちゃんに言った。


「エレちゃん。防衛はどうするの?」

「あのゴーレムがいる限りはあまり大きなものはできそうにないですが、大きいものと言うのは小さなものを認識できません。やはり、入ってくる兵士とは我々人間が戦わねばならないかと思います」

「そうよね……。うん。そっちは任せるわ。あたいちょっと見回りしてくる」

「はい、お願いします」


 あたいは杖の調子を確認してから、窓のふちに足をかけた。ふとエレちゃんの方を振り向く。


「エレちゃん! それが終わったらいっぱいお話しようね!」

「はい」


 ちょっぴり嬉しそうなエレちゃんの顔が見れてよかった。さあ、早く終わらせよっと!

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