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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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61話 リベンジ!

「メロンさんごめん! 守ってあげられないかも! 代わりにこれ使ってね!」


 そう言って、あたいは地面の岩盤から盾と剣を創り出した。メロンさんはちょっと驚いた顔をしてから、すぐにその二つを受け取る。


「そこまで迷惑はかけねぇぜ! 嬢ちゃん! 頑張ってくれ!」

「うん!」


 メロンさんが離れていくのを確認してから、あたいはゴーレムを見た。


 どうだろう。きっとこのゴーレムは、あの黒いゴーレムのお兄さんなんだろうとあたいは思う。体は一回り大きいし、動きの端々に知性を感じる。それは他ならぬ、あたいの胴体ぐらいの太さのある「指」の存在が大きいだろう。


 そう、指がある。


「すごい技術ね」


 そんなゴーレム、ブレイヌの図書館の本にも載ってなかった。まあ、あたいが探せてないだけだろうけれど。


 ともかく、ひとつわかることは、あのゴーレムはやばい。油断したら一瞬でぺちゃんこ。


「マジック・インフ・エイジ」


 あたいの体が黄色い光に包まれる。体の隅から隅までに力が満ちる。


 間髪入れずに唱える。


「シーゴ・アンシ・■■!」


 壁面が立方体の形に切り取られ、七つの四角い岩の弾が生み出された。それはあたいの杖の向けた方向へと飛んでいく。


 岩と岩がぶつかり合う、低い弾むような音。粉々になって欠片をまき散らしているのは、弾かゴーレム か……。


「うーん、やっぱりそう一筋縄じゃ行かないよね」


 準古代魔法で軽く強化はしていたけど、その強度の岩をぶつけても目立った傷がついてない。あたいは額に冷や汗が湧くのを感じた。


 ゴーレムが動く。あたいがぶつけた岩の破片。それを掴み取った。


 背筋を悪寒がかけ上る。まずい。


「しゃがんで!」


 メロンさんはあたいの真後ろだ。焦りを感じながら急いで唱える。


「◼□□◼■!!」


 地面が壁となって盛り上がる。直後、大砲のような轟音があたいの造った壁から発せられた。


 まさにその威力は大砲だった。急ごしらえとはいえ、造り出した壁にヒビが入っている。


 あたいは壁の向こう側を伺った。


「うそっ!?」


 直感的に魔力を操作。古代魔法ではない力で造られた壁は、一瞬で破壊された。それでも勢いは抑えられたようで、最初の壁は持ちこたえる。


 急いであたいは壁を生み出す。そして考える。どうしよう。めちゃくちゃ強い! 歯が立たない……。というか、黒いのを倒したルガムさんどれだけ強かったんだろ。


 ともかく、いつまでもこうしてるわけにもいかない。あたいは壁から飛び出した。


 瞬間、視界の端で壁が粉々に砕け散った。


 何事かとそちらを見れば、ゴーレムが壁を殴ったようだ。ーーって、メロンさん!


「メロンさん!」

「俺は大丈夫だ! むしろ、ここの方が安全だろうよ!」


 瓦礫の下からそう声が聞こえてきた。そう言われたら、あたいは頑張らないと!


「集中!」


 自分に喝を入れる。杖を構える。魔力にアイコンタクトを送った。


 さっきまでのはただの詠唱魔法! ここからは、本当の魔法の出番なんだから!


「コメット」


 魔力たちが集まって、ひとつの凝縮された質量の塊となった。


「ウイ!」


 あたいの掛け声と共に、弾がゴーレムへ目に見えない速さで飛んでいく。


 しかしゴーレムはただではやられなかった。人形にしてはありえない速度で両腕を動かして、盾にしたのだ。轟音が峡谷に鳴り響く。


 あたいは嫌な予感をヒシヒシと感じている。あのゴーレム、本当はもっといろいろなことができるんじゃないの?


「……やっぱり」


 あたいは思わずそう零した。砕け散ったはずの腕が、あのわずかな間に魔力によって復元されている。


 そう、あたいには見えた。魔力によって復元されているのだ。


「コアを打ち砕くか、消耗戦に持ち込むか、逃げるか……」


 残された択は三つ。あたいはあの投擲を思い浮かべた。逃げたとして、あの死の雨から逃れることはできるだろうか。


 辞めておこう。あたいたちがバラバラになって宙を舞うことになりそうだから。


 消耗戦は? ……ダメね。兵隊が来る。ジャンにも負担がかかっちゃうから難しい。


 なら、やっぱり戦うしかないのよ!


「ああもう! これ、まだ使いたくなかったのに!」


 あたいはゴーレムの動きに注意しながら、必要な属性の魔力たちを集める。


 ゴーレムがグリンとあたいの方を向いた。


「きゃっ!」


 ゴーレムがあたいへ向けて跳躍した。強化された脚で飛び退くと、そこにゴーレムの右脚が突き刺さった。


「そんなことしても、許してあげないんだから!」


 七色七属性の魔力がかぼちゃほどの、大きさとなって宙に浮かぶ。あたいは赤い魔力に近づいた。


「@(○○☆$!」


 あたいが呼びかけると、魔力は意志を持って直線的に黄色い魔力へと向かった。二つの魔力が触れ合って、眩い光を放つ。


「<<!」


 次へ、次へと連鎖的に魔力たちがぶつかり合い、融合する。その間にもゴーレムからの攻撃は続けられる。


 幸いなのは、ゴーレムが魔力をはっきりと認知することができないこと、だろうか。ゴーレムは魔力を認識して行動するが、この圧倒的な密度の魔力によって認識が阻害されているみたい。あたいへの攻撃はことごとく外れていく。


 そうしている間に、七つの魔力がついにひとつに集まった。


「あたいの勝ちよ!」


 七色の光を放つ魔力は、周りに転がっている岩よりも大きい。


 あたいは杖を振って叫んだ!


エ8=\\る$%♪(七色と戯れる煌めき)!!」


 光がゆっくりとゴーレムに近づいていく。ゴーレムは、まるで名画に魅入る人間のようにじっと光を見ていた。


 破滅に気が付かぬまま、ゴーレムは手を伸ばし、その繊細な指が光に触れた時。


 ゴーレムは光に飲み込まれた。


 圧倒的な質量の消失。魔力は上機嫌に飛び回り、峡谷を抜け出して、空の高い高いところまで浮かんでいく。


 そして、光だけを発して爆発した。


「……嬢ちゃん。大丈夫か」

「あ、メロン、さん……あはは、大丈夫」


 あたいはあまりの魔力の消耗に、その場に座り込んでしまっていた。やっぱり、ここで使うべきじゃなかったかな。まあ、威嚇になればって思って使ったんだけれど。


 空を見上げてあたいはふぅと息を吐く。ようやく空から魔法の名残が消えたところのようだ。


 古代上級魔力使役魔法の発動は、あたいに余程の負荷を与えたらしい。立てない。逃げるために魔法を使ったのに、これでは本末転倒だ。


「ジャーン。こっちは終わったよー」


 か細い声でジャンの名を呼んだ。なんか、来てくれそうな気がしたから。


 視界の端に、峡谷から飛び降りるような影が見える。ほら、やっぱり。


「大丈夫か、ヒヨ!」


 別れる前よりも多少汚くなったジャンが、あたいに駆け寄ってくる。


「うん、大丈夫。疲れただけ」

「なら良かった……。無事、メロンさんも助けられたんだな」

「ああ、嬢ちゃんのおかげだよ」


 そういえばメロンさん、自力であそこから抜け出せたのね。やっぱり鍛冶屋さんは強いわ。


 あたいは長く息を吐いた。


「ジャンは? 大丈夫?」

「おう、あんなやつら敵にもならねえよ。ただ不思議なのは、テラロアが来なかったことだが……。ともかく、すぐに移動しねぇと」

「そう、だね」


 あたいは重たい体を起こす。するとふわふわと魔力が寄ってきて、あたいの腕を支えてくれた。


「あはは、ありがとう」


 そう魔力に話しかけると、ピカピカと点滅して応えてくれた。ピンクの可愛い魔力だ。


「あたいはいいから、先にメロンさんを逃がさないと」

「そうだな。逃げざまに適当なやつに幻惑の森まで来るように話してあるから、俺はメロンさんを運ぶよ。ヒヨはここで隠れられるか?」

「うん。大丈夫。じゃあね、メロンさん」

「ああ、ありがとうな、嬢ちゃん。また来てくれた時には格別の杖を作ってやるぜ! お代はタダだ!」

「それは嬉しいわ」


 どんなのにしてもらおうかな。金ピカで派手なのもいいけど、シンプルな木製のも欲しいな。


 そう夢を膨らませているうちに、ジャンはメロンさんを背負って走って行った。静かになった峡谷の底で、あたいはただ目を瞑る。


「残念」


 はっとして目を開けた。


 そこには、黒衣を纏った女性がいた。


 女はあたいに杖を向ける。


「さよなら。それと、ありがとーー」

「させないっ!」


 別の男の声がした。次の瞬間、魔法使いへ白い閃光、いや、閃光のように軌跡を描く剣が襲いかかる。


 声を発して魔法使いと戦っているのは、ボロボロのルガムさんだった。


「ちぃっ! テラロアは何をしてるのよ!」


 魔法使いはそう言って黒い霧を纏って消えた。


 間髪入れずに、ルガムさんは地面を蹴って峡谷をかけ上る。まるで人ではない動き。ジャンよりも若さは衰え、だが熟練されたその動き。


「逃げるんだ!」


 峡谷の上から、そんな声が聞こえた。姿が見えなくなる。


「ルガムさん!」


 そう叫んだあたいの声は、届いたかな。


 あたいは呆然とルガムさんが消えていったところを見上げた。そして祈る。お願い、ジャン、早く戻ってきてーー


「ヒヨ!」

「ジャン!」


 しばらくしてジャンがものすごい速さで峡谷の奥からやってきた。


「ジャン! 早くるルガムさんを助けないと! 今ならあの人達にも勝てる! あたいだって手伝うから!」

「逃げるぞ、ヒヨ!」


 あたいはあたいの耳を疑った。


「どうして?! 戦わないの?! 今がチャンスなの、今しかないの!」

「逃げないとダメだ! とっちゃんが、そう言ったんだ!」


 ジャンの顔を見てはっとする。ジャンは、今にも泣き出しそうな顔で語った。


「とっちゃんが、そう言ったんだよ! とっちゃんが、とっちゃんが俺に謝ったんだよ! だから、俺は! 孝行しないと行けないんだ! とっちゃんが逃げろって言うなら、一緒に戦ってくれるなって、生き延びろって言うから! 俺は、うっ、あああ!」


 あたいは言葉に詰まった。いったい、今のジャンになんと声をかければよいのだろう。


「わかった」


 その言葉はあたいでもびっくりするぐらい素直に口に出た。


「行こう」


 あたいがそう言うと、ジャンは涙で頬を濡らしたままの顔で頷いた。


 ジャンがあたいを抱き上げて、峡谷をかけ上る。


 遠ざかるリリバの街。その全貌が丘に隠れたところで、真っ白い円形のドームが突如として現れ、ズシンという重たい音が耳に届いた。


 あたいは、それがとある古代魔法だと悟る。


 ジャンも、ほんの少しだけ後ろを振り向こうとして、それを止めて前を向いて走った。


 あたいは、ジャンの腕の中からジャンを抱き返したのだった。

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