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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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60話 真っ白いゴーレム

「それはずるいよー!」


 あたいは全速力で検問所の中を進んだ。あんなの一体一体相手してたら時間かかっちゃうもん! ここは速度優先。どうにかメロンさんを助けなきゃ!


「きゃっ!」


 階段に足を置くと、ぐねんと不気味に波打った。そのせいであたいは大きく体勢を崩す。


 転ぶところを、なんとか魔法で浮かび上がって体へのダメージを抑えた。危なかった!


 いやらしいゴーレムもいるものね。ま、あたいにかかればなんてことないわよ!


 検問所を下ると牢獄が連なるエリアに出た。生気のない顔をした囚人たちが見える。あたいには良い人と悪い人の違いがわからないから、助けることは頭から外した。


 そうして三回ほど階段を下った先。


「いた!」


 厳重な太い鉄格子の向こうに、腕を鎖で繋がれたメロンさんの姿があった。


「メロンさん!」

「……ん? お、おい! ジャンと一緒にいた嬢ちゃんじゃねえか! よくここまで……いや、なんでここまで来てんだ?!」

「メロンさんを助けるためだよ! あたいがきっかけで捕まったっていうなら、あたいが助けなきゃ! じゃないと賢者じゃない!」


 あたいは炎の魔法で鉄格子を焼き切って、同じようにメロンさんの手を繋ぐ鎖も断ち切った。メロンさんは何を言うべきか迷ったように口を開閉させたが、あたいはすぐに脱出のことを考えていたから全然見えていなかった。


 とりあえず、もう一度上へ行くのはないわね。あまりにも無謀だってあたいにもわかるもの。となると、別の出口を探さないといけない。けれど、この辺りに出口なんてあるのかな?


「……いいや」


 あたいは賢者になるの。だから、この程度の試練、軽々と超えて見せなきゃ!


 あたいはバッと杖を取り出して、メロンさんがいた方の壁へ先を向ける。


「◼️◼️●〇◽︎!!」


 壁が衝撃も音も無く消滅する。ここは峡谷に沿うように造られている。壁の向こうは外だっていうあたいの読みは当たってたわ!


 でも、地面は遙か下方。上へ飛ぶのは……やっぱりあんまり得策じゃないかも。


「メロンさん。峡谷を通って、少し離れた森まで行こうと思うんだけど、いい?」

「ああ、それで頼む。さすがにあの家には戻れねぇからな……」


 残念そうにメロンさんが言った。あたいは少しだけ兵隊を嫌いだと思った。メロンさんは、全然関係ないのに……。


「ごめんね、メロンさん。あたいのせいで」

「嬢ちゃんが謝る必要はねぇ。悪いのは全部、賢者を不必要なぐらいに嫌ってる貴族たちだ。最近の話は知ってるか?」


 あたいは首を横に振る。ずっと旅をしていたし、賢者の話はあたい自身あまり聞こうとしていなかったから、全然知らないや。


 あたいは聞く。


「何があったの?」

「ま、それは一旦ここを出てからみてぇだ」


 言われてあたいは振り向いた。ゴーレムの赤い眼がこちらを捕らえている。


 あたいはメロンさんの腕を掴んだ。


「メロンさん! あたいの近くから離れないでね! 飛ぶよ!」

「おう、お、おわあああぁぁぁぁ?!」


 覚悟、驚き、それからの絶叫が峡谷にこだました。うーん、これは見つかっちゃうかもなぁ……。あたいは苦笑いを浮かべて、地面へとゆっくりと降りていく。メロンさんは最初こそ叫びはしたが、落ち着いた様子であたりを見渡していた。


「わ、悪ぃな。でけぇ声だしちまって……」

「あはは。あんな声出るのね」

「俺もびっくりだ」


 いつもの強面はそこになくて、おっかなびっくりと緊張の張り付いた顔があたいの方を向いた。泊めてもらっていたころはこんな表情見れなかったから、おかしくて少し吹き出してしまう。


「ジャンには見せられないね」

「当たり前だ。俺の威厳がどっかに飛んでっちまうよ」


 あたいの笑い声が少しだけ反響する。


 地面に降りたって、あたいは改めてメロンさんに尋ねた。


「あたいたちが王都から離れているうちに、どんなことがあったの?」


 メロンさんはあたいの眼をしっかりと見て話し出した。


「王都が魔法使い狩り部隊なんてもんを作りやがった。それもおかしなことに、その部隊には二人の隊長がいて、片方は普通の人間だが、――もう片方は魔法使いらしい」

「魔法、使い?」


 あたいは聞き間違えかと思って口に出す。魔法使いが敵にいるの? それも、王都に、人間に認められて同じ魔法使いを殺そうとしている?


 あたいには理解ができなかった。その魔法使いが何を思っているのか、そしてその魔法使いを利用する人間たちが、何を考えているのか……。


「おかしな話ね」


 あたいはそう言った。単純な感想に、メロンさんは少しだけ間抜けな顔をした。


「驚かないのか?」

「驚いたわ。でも、あたいにはわからないもの」


 あたいはそう淡々と答える。


「わからないものを理解するのって大変なの。だから、今は別にそんなこと考えなくたっていい。目の前にそのわからないものが来たら、きちんと向き合えばいいんだもの」


 言いながら、あたいは峡谷の上へ視線を向けた。ここからでは見えないけれど、ジャンは今も戦っているのだろう。でも、ジャンは負けないだろうから別にそんなにそこそこしか心配してない。


 だから、あたいが今見ようとしたのは別のもの。


「嬢ちゃん、なんだか大人になったな」

「そうかな?」


 あたいは言われてちょっとだけ嬉しくなった。って、そんなことで嬉しくなってるうちはまだ子供なんじゃない? うーん、でもまあいっか!


 少しだけ上機嫌になって、それから歩き出す。地面はゴツゴツとしていて動きにくい。ただ、敵らしきものはいないから、安心はできそう。


 そう頭では思いつつも、無意識の部分で警戒しているあたいは杖を握ったままだ。


 その時。


「……おいおい、何の音だ?」


 あたいの耳にも聞こえたそれは、ズズンという重たい地響きのようなもの。


 あたいは立ち止まって耳を済ました。その音はーー近づいている。段々と重たくなって、パラパラと石片の落ちるような音もする。


 あたいはそこでそれが何かわかった。


「……何よ、あたいにリベンジさせてくれるの?」


 音の正体は、巨大な、真っ白なゴーレム。それはいつしかあたいがここで見た黒いゴーレムと酷似している。


 あたいは杖を向けた。


「あたい、負けないよ!」


 声に反応するように、ゴーレムが重たい両腕を地面に叩きつけた。

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