59話 潜入!
「コメット・ディエ!」
あたいがそう唱えると、魔力が質量を持って十の弾丸となってゴーレムたちを撃ち抜く。ゴーレムはたちまちに土塊となってレンガの屋根の上に落ちた。
あたいはふぅと額の汗を拭った。さすがに数が多い。倒しても倒しても湧き出てくる。幸いなのはここが屋根の上で、兵士たちは手を出してこないということ。
けれどさすがにそんな余裕のある時間は続かない。
「ジャン! 登ってきた!」
「おう、人間は任せろ!」
そう言って、ジャンが人が登ってくるところへ駆けていって、無慈悲にハシゴを外した。ハシゴは反対の家へと寄りかかる。
「それとジャン! 後ろからも来てる!」
「任せろ!」
ジャンは屋根の瓦を剥がして、背後からあたいたちを射ようとしていた兵士たちへ投げつけた。
あたいはそれを見てから、新たな魔力の起こりを感じてその方向へ目をやる。
またゴーレムだ。もう、めんどくさい!
「コメット・セナナ!」
七つの魔力の弾がさらに土塊を生み出した。
さあ、検問所は目の前だ。
「ヒヨ!」
ジャンがあたいを呼んだ。横をむくといつの間にかジャンは隣にいた。
「何?!」
「このまま俺たち二人が乗り込んでもまずい! ここは俺が囮になるから、お前はメロンさんを助けてくるんだ」
あたいは少し考えた。確かにジャンが考えたにしては筋の通った作戦だ。けれど、少しだけあたいは不安になった。
あたいはいつもジャンに負担を押し付けている。だから、たまにはあたいがジャンの役に立ちたい。
だけど、あたいが囮になったところでやれることは何があるのか。人を攻撃できないあたいじゃ、すぐに捕まるのが関の山だ。
あたいは頷く。
「わかった! ……何回も大変な役目を任せちゃって、ごめんね」
「今更謝るんじゃねえよ。別に見返りなんて求めてないし、……俺はお前を助けたいだけだからな」
ジャンがそう言ってはにかんだ。あたいも少しだけリラックスして、自然と笑顔になった。
そしてお互いに表情を引き締めて方向を検問所の方から変化させる。あたいは高い時計塔に飛び移り、ジャンは見えやすい屋根の上を、検問所から自然に離れるように走る。
あたいは時計塔の壁に張り付いて、それから体を透明にした。そして再び検問所の方へ向けて飛んだ。
さすがに今日は魔力を使いすぎている。あたいも少し疲労が溜まってきたなぁ。次はいつ休めるかな。一日丸々寝られればいいんだけれど。
そんな呑気なことを考えながら、あたいは検問所の前へと降り立った。兵士たちは出払っているらしく、人の気配は少ない。
これなら簡単にメロンさんを救い出せるだろう。あたいはそう思って、手頃な窓から検問所内へ侵入。どうやらトイレだったらしい。
さあ、まずは適当な囚人に声をかけてメロンさんの居場所を探す。それから隠密にここを出て、どうにかしてメロンさんを安全な所へ移そう。
あたいはそう思ってトイレの扉を開けて、通路を進んだ。
その時、あたいはすっかり忘れていた。人はいないがーー
「……」
あたいが検問所の広間に出た時、壁に擬態したゴーレムたちが一斉に赤い目をあたいに向けた。