58話 いざ作戦開始!
「落ち着いた?」
「おう。……悪いな。かっこ悪いとこ見せた」
「全然気にしないよ。それに、あたいだって見せてるんだからおあいこ」
あたいがそう言うと、ジャンは「そうだったな」と呟いて立ち上がった。あたいも木箱から腰を上げる。そして気合いたっぷりに剣を担いだ。
「すぐ行けるぜ」
「うん、行こう」
あたいは魔力を操作して光を屈折させて、あたいたちの姿を隠す。そして路地から顔を出して街の様子を伺った。
ルガムさんが言っていた通り、街にはたくさんのゴーレムが蔓延っていた。形も大きいものから小さいものまで様々だけど、絶対に小さいヤツの方が面倒ね。
「ジャン、屋根を通って行こう」
「賛成だ」
あたいはふわりと浮き上がり、ジャンは壁を蹴って屋根まで登る。
商人の街は建物の高さがだいたい同じだから、屋根の上に出ると見晴らしが一気に良くなる。視線を峡谷の方へ向ければ、検問所が複数見られた。
その中のひとつ。真ん中の大通りから伸びる橋の検問所が、極端に大きい。
「あれだね」
「どうする? 真正面から乗り込むか?」
「まさか。それで助けても、メロンさんどうにもできないよ?」
「あー、確かに」
そもそも助けてからどうするってことも決めていないのだ。さすがに元のお家に帰すわけにもいないわ。
「やっぱり、こっそり乗り込むべきだと思う」
「ま、それが無難か。ならそれで行こう」
「……ジャン、ひょっとして戦いたかったんでしょ」
「…………いや?」
嘘がバレバレ! もう、ジャンってば……。ま、いつものことだしどうってことはないけれど。
「じゃあそれでいくよ?」
「おう、頭のいいお前に任せるぜ」
あたいとジャンは目的の建物へ向けて走った。屋根瓦がジャンの踏み込みに合わせてパキパキと割れる。
あたいは飛んだまま街の道路を見た。兵士がたくさんいる。これは、下を通らなくって正解だったわ。
あたいはほっと胸を撫で下ろす。
「避けろ!」
「え?」
あたいは前を向いた。
コウモリのようなゴーレムが空を飛んでる。そして強い魔力を発していた。
「ーーガード!」
あたいが杖を振ると、魔力たちが集まってバリアを形成した。そこへ、紫色の光線が放たれる。
バチりと大きな音がした。
まずい。これじゃ気づかれちゃう。いいや、ゴーレムがいるんだから、とっくに気づかれてた?!
あたいが焦っているうちに、ジャンはゴーレムを両断する。そして焦った顔であたいの元へ跳んできた。
「おい、どうする!? さすがにバレたぜ!」
「それ、あたいも考えてた! うーん、どうしよ、どうしよ、どうしよ……」
あたいは頭を抱えて蹲った。すでに下の方では異変に気づいた兵士が声を発している。
あたいはばっと顔をあげて、引きつった笑みでジャンへ持ちかけた。
もう、これしかないでしょ!
「ジャン! 正面突破よ!」
「おっしゃぁ! 待ってました!」
ジャンがとても愉快そうに腕まくりをした。そして二本の剣を持ち上げる。
あたいは一応忠告しておく。
「お願いだから、人だけは殺さないでね!」
「当たり前だ! 俺もそこまで非情じゃねえよ、安心しな!」
と言っているが、前回のメレーバクの街では大分危なかった気がする。まあいいわ!
頼もしいジャンの背中を見ながら、あたいは立ち上がった。
「ゴーレムは頼むぞ!」
「もちろん!」
「行くぞ!」
「うん!」
あたいたちは一直線に検問所へ、人目も気にせずに駆けていく。
なんだかあたいも楽しくなってきちゃった!