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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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56話 休憩

「これで休憩できるかな」


 あたいは地面に魔法陣を書き終えて、ふうと一息つく。ここはあたいの古代魔法で作り出した、地中の家だ。空よりも土の中の方が魔力は安定してるからね。


 そして、魔法陣は同じ魔法を展開し続けるのに最も適している。あたいが今書いたのは、形状を維持する魔法陣と、灯りをともし続ける魔法陣。


「お前はそうもいかないだろ?」


 ジャンが見透かしたような口振りでそう言う。あたいは渋々頷いた。


「うん。魔力の操作は必要だからね」


 ほぼ無意識でできるぐらいの操作とはいえ、ぐっすりと熟睡することはできない。やっぱり、わかっちゃうのかな。


「でも、ジャンが休憩できればいいの」

「そうはいかないだろ」

「できればいいんだってば! ジャンがへたばっちゃったら、あたいすぐ捕まっちゃうんだからね?」

「まあ、そうだな。……そうか? お前だけでも逃げれるだろ」

「大変になるでしょ」

「まあ、確かに」


 やっとジャンは頷いた。とにかく、あたいの旅にはジャンが必要なんだから。


 ただ、これで移動の時も魔力を使って、となると、さすがにどこかでガタがくるだろう。どうしようかな……。


「なら、移動の時は俺がお前を抱えればいいか」

「うぇっ?! な、なんかやだ……」

「何言ってんだお前」


 呆れた目でジャンがあたいを見る。うー、だって、なんか恥ずかしいじゃない。


 あたいは、ジャンは恥ずかしくないのかと聞こうとした。けれどやめた。


 ジャンはあたいから目を逸らしたのだ。


「……じゃあ、お願いしようかな」

「お、おう」


 照れていないフリはすぐにバレる。ジャンは素直すぎるわ。あたいもジャンから目線を逸らした。


 お互い黙ってしまったので、土の箱の中を沈黙が包んだ。


「……寒いね」

「そう、だな」


 あたいは壁を背にして座り込んだ。魔法陣が書いてあるから、部屋は広いようで、狭い。


 ジャンが、あたいの隣に座る。


「魔剣の炎で温めてやろうか?」

「……なんか違う」


 あたいはむすっとした顔を作った。もちろん冗談なのは知ってる。ただ、ちょっとからかいたかった。


 ジャンは少し焦ったような顔をして、それから魔剣と愛剣を置いた。そして、さらにあたいに身を寄せる。


「……しばらくゆっくりしようぜ。休憩は大切だ」

「うん。でも、すぐに出なきゃ」

「わかってるよ。それじゃ、俺はこのまま寝るぜ」

「このまま?!」

「おやすみ」


 そう言うやいなや、あたいの返事も待たずにジャンが健やかな寝息をたてはじめた。あたいは硬直する。えっ、ジャンの頭が、あたいの肩に……。


「……もう」


 急に積極的になるの、やめてくれない?


「全く、男の子なのに」


 こういうのって、女の子がするものじゃないの? まあいいや。あたいは自分の心臓の鼓動を感じながら、向かいの土の壁に目をやった。


 暇つぶしに魔力をいじる。心なしか、あたいたちの周りを漂う魔力の量が多い気がする。


 何? もう祝福ムード?


 勘弁してよね。


「それは、あたいが賢者になってからなんだから」


 ジャンの頭が少し動いた。




「ほら、ジャン! 起きて!」


 あたいはジャンの頭をゆさゆさと揺らす。しかしそれでも起きないので、えいっとジャンの頭を肩から落とした。


 ゴンッと鈍い音がして、ジャンが頭を押えて蹲る。そして、ばっと顔を上げて涙目のまま叫んだ。


「お前っ! もうちょっと優しく起こせなかったのかよ!?」

「だって起きないんだもん」

「もっと労わってだな……」


 ジャンは言葉を続けようとしたけれど、頭を振って気持ちを切り替えたらしい。まだ不満げだけれど、剣を持って立ち上がった。それから思い出したように背中へ剣を掛ける。


「あー、もういいよ。ほら、行くぞ」

「はいはい。じゃ、よろしくね?」

「わかってる」


 あたいはジャンの腕の中にすっぽりと収まって、それから魔法で天井を消滅させた。青空が明るく広がっている。


 やっぱり横になれるのは楽ね。実はさっきの姿勢、ちょっと大変だったんだから。少しは感謝して欲しいわ。


 なんて思っても、ジャンには伝わってはくれないだろうけれど。


「よし、行くか。揺れるから気をつけろよ?」

「うん。よろしくね」


 ジャンが走り出す。その速さは全速力の馬と並ぶほどだ。本当に尋常じゃない力を持ってるわね。


 景色が紙芝居のように流れていく中で、あたいは目を瞑った。眠りはしない。ただ、心地のいい揺れに身を任せて。


 そうして走って、休憩して、走って、休憩してを繰り返して、ついにリリバの街へたどり着く。


「やあ」


 その入口で、ルガムさんはあたいたちに声をかけた。

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