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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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55話 猪突猛進!

「なんでこんなにたくさん兵士がいるのよー!」

「知るかー! うおおおお!」


 ジャンがあたいの前で盾になって、猪突猛進の勢いで兵士の隊列へ突進していく。兵士は堅固な盾を構えるが、ジャンの二刀流の前では無意味……とは言い難い。


「ジャン! 無理しないで! すぐに空を飛んで逃げれるんだから!」

「いいやダメだ! 俺の力は見せておかねぇといけねぇんだ。そうしないと威圧にもならない!」


 ジャンがズパっと盾を豆腐のように斬った。兵士は驚いて腰を抜かしてしまったようで、ぺたりと尻もちを着く。


 ジャンはその兵士を見逃して、先にいる兵士を睨みつけた。すると、指示者らしき人物が叫ぶ。


「怯えるでない! たかが子供一人! 数の力で押し、消耗させるのだ!」


 残念ながら、彼らはあたいたちを見逃してはくれないらしい。ジャンは面倒くさそうに唇を噛み、あたいはジャンへ身体強化の魔法をかけた。


 魔力によってさらなる力を得たジャンは、鬼のような形相で剣を振るった。


 あたいは兵士が隠れていないか周りを見渡した。と、そこでふと気づく。


「ジャン! ここもう幻惑の森だ!」

「おう、それがどうした! ファムがいねぇんならただの森だ!」

「あっ、そうだったね」


 ひょっとしてドラゴンみたいな魔物がいて、彼らの士気を崩してらくれないかと思ったけれど、あれはファムちゃんの魔法だった。


 それに、あたいは人間を傷つけるわけにはいかないから、幻惑魔法をかけることですら躊躇っちゃう。


 だけどこのままじゃ、いくらドーピングしてるジャンといっても……。


「しゃらくせぇ! 俺は殺しはしないんだよ! だから! さっさと自分の家に戻ってくれよ!」


 半ば懇願するように、ジャンは剣を振り続けた。あたいはもうそろそろジャンを抱えて飛ぶ頃だろうと見切りをつける。


「ジャン! 飛ぶよ!」

「ダメだ! ここでこいつらを止めて……」

「ジャン! あなた戦いたいだけでしょ?!」


 あたいがそう叫ぶと、ジャンは走っていた足を止めた。あたいは隣に並ぶ。


「ジャン。あたいたちが今することは、逃げることなの! 無事にあの街へ戻ることなのよ?!」

「……そう、だな。ごめん。俺が悪かった。さあ、飛ぼう」


 あたいはこくりと頷いて、ジャンの手を握った。そして頭の中で魔法を唱える。


 あたいたちの体がふわりと浮いて、木の高さを越しーー


「ヒヨ! 降りろ!」

「え?」

「下から弓の一斉射撃が来る!」


 あたいはばっと下を見た。


 たくさんの兵士が、あたいへ向けて弓矢を構えていた。


 まずいーー


「ジャン、吐かないでよ!」

「はあ? ちょ、おいっ! うわああああ!」


 あたいは自分の魔力たちを推進力に変えて、ツバメのような速さで空を飛んだ。右へ左へ旋回し、高低差を付けて飛んだ。


 さすがにこれは、術士自身も辛いわ! ジャンはもっと辛いだろうな。


 なんて余所事を考えていたら、矢があたいの頬を掠めた。


 さすがにこの量じゃ仕方ないわね。あんまし上まで飛ぶと、魔力たちの手助けが受け取れないから、この高さでどうにか……。


 そう思っていたけれど、唐突に矢の雨が止んだ。


 あたいは下を見る。


「ど、ドラゴンだー!」


 そこにいたのは、ジャンが倒したはずの、屈強な体つきをした、いかにもなドラゴン。だけど、あれはジャンが殺して……。


 その記憶は間違っていないようで、ドラゴンの額から顎にかけて白い傷痕が残っていた。まさか、あの傷を回復したの?!


 ドラゴンは、あたいたちに目もくれずに兵士たちへ襲いかかり、火を吹いた。


「て、撤退ー! 態勢を立て直し、リリバの街にて迎え討ーつ!」


 その言葉を皮切りに、兵士たちは全力で背中を向けてドラゴンから離れて行ったり、横の茂みへ飛び込んだ。


 あたいはほっと一息つく。


「よ、よかったぁ……」


 そして、ドラゴンへ叫んだ。


「ありがとー!!!!」


 ドラゴンが、あたいの方を向いた。


『ファムを、ありがとう』


 え?


『行きなさい、賢者の弟子よ』


 ドラゴンは、大きな咆哮をあげた。


ーー ーー ーー ーー ーー


「なぁ、さっきのドラゴンってよ」

「わかんない! でも、進むしかないよ!」


 走りながら、あたいは叫ぶ。どこの誰ともわからないドラゴンのしてくれたことを、無駄にするわけにはいかない。


 でも、でも、やっぱり、そうなのかな。


「お願い、死なないでね……!」


 リリバの街までは少し遠い。

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