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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
三部 一章 たどってきた道
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54話 過酷な旅の始まり

 ブレイヌを飛び出したあたいたちは、メレーバクの街で脚を止めざるを得なかった。なぜなら……。


「どうして、こんなに兵士がいっぱい……」


 メレーバクの街には多くの――それも武装している――兵士が蔓延っていて、厳重な警戒が張られていた。あたいたちはメレーバクの中になんとか入り込んで、今は身を潜めているところだ。迂回するにしても、辺りは開けててちょっと大変。街の外で様子を見るにしても、後ろからはテラロアさんたちが来ちゃう。


 魔力に働きかけて、光を屈折させてどうにか姿を眩ませてるけど……。


「これ、実は横からの光に弱いの」

「なるほど。ってことは、やつらの鎧の反射は危ないか……。でもよ、あいつら俺らの見た目、知ってんのかな?」

「知ってるに決まってるでしょ。テラロアだってわかったんだから」

「ああ、そうだった」


 まったく。じゃなきゃ、兵士が見えた時あたいがあんな咄嗟に魔力を動かしたりしないでしょ。なんて言ってもわかってくれないだろう。ま、いいや。


 とにかく、ともかくこのまま行けば街はなんなく通過できるだろう。


「たぶん、このまま幻惑の森までたどり着けばどうにかなるよ。だから、それまでがんばろ」

「おう、だな」


 見慣れない路地を進む。


 兵士がたくさん出ているからか、目に付く全ての窓は固く閉ざされていて、人気が無くてどこも寂しい。だけど、今はその方がありがたい。


 しばらく進むと、あたいはあることに気がついた。


「あれ、煙突から魔力が漏れてる」


 窓が閉まっているせいで、煙突から勢いよく魔力が排出されている。ジャンがそちらに目をやった。


「なんだ? あの色のついた煙」

「え? 見れるの?」

「ああ。あれ、魔力なのか?」

「たぶんね」


 こんな時に魔法の研究とか調合をするなんて、不用心な賢者もいたものだ。


 大丈夫かと少し心配に思っていると、あたいたちの視線の先に五人の兵士たちが現れた。あたいとジャンは素早く物陰に身を潜める。


 その兵士たちはヒソヒソと色の着いた煙の出る家の前で話し合っている。そして、突然大声で叫んだ。


「魔法使いだ! 全員集合!」


 静かな街に、その声は大きく響いた。中にいる賢者にも聞こえたようで、ようやく煙は消えた。


「おいおい……」


 ジャンがそう言葉を漏らす。あたいも、どうするべきか悩んでいた。


 ここで危険を冒して前に出れば、またあたいたちは大変な目に遭うだろう。ただ、ここで見逃せば、お師匠様のような無実の賢者が殺されちゃう。


 あたいはジャンの肩を叩いた。


「助けるよ。自業自得だけど、見過ごせない」

「よし、下の兵士は任せろ。あと、お前はすぐに逃げろよ。俺が追いつくから!」

「うん!」


 ジャンが魔剣を持って立ち上がり、兵士へと向かっていく。接近に気がついた兵士が槍を構えるのが見えた。


 あたいはその間に屋根の上に飛んで、目的の家の煙突から中に入る。そこには、メガネの少女が慌てて杖を出しているのが見えた。


「ねえ、あなた! 賢者よね? 逃げれる?!」

「あ、う、うん。あの、た、戦うんですか?」

「ううん。下で戦ってくれてる友達がいるから、あたいたちは逃げるよ! 魔法使いになんかなっちゃいけない! 飛べる?」

「と、飛ぶ魔法は、まだ使えなくて……」

「じゃあ、掴まって!」


 少女があたいの腕を掴んだのを確認してから、狭い煙突をどうにか飛んで外へ出た。下ではジャンが上手いこと注意をここから離してくれたようだ。


 あたいは騒々しい方向と真逆へ翔ける。そして、街の郊外まで来たところで少女を下ろした。


「まったく、こんな時に研究なんかしちゃダメですよ!」

「す、すいません……」


 少女は涙目になりながら謝った。あたいは尋ねる。


「あの兵士たちはどうしてここにいるんですか?」

「ええっと……たぶん、魔法使い狩りのためだと思います。最近は活発らしくて、もう王都の魔の手がここまで来ているみたいで……」


 なるほど、とあたいは納得する。ここは確かに王都からとても遠い。あたいの脳裏にお師匠様とお母さんの姿がチラついた。


 そして、あたいは自分の度の難易度がさらに高まったことに気づいた。これは大変ね。


 って、そろそろ行かなきゃ! あたいは走り出しながら言う。


「ありがとうございます! それじゃ、気をつけて!」

「こ、こちらこそ、ありがとうございました! 賢者様!」


 背中からそんな言葉が聞こえて、あたいは思わず叫んだ。


「賢者の弟子です!」


 メガネの少女は、目をぱちくりと瞬いた。


 走っていると、すぐにジャンの姿が見えた。兵士たちと交戦中、かと思いきや、制圧した直後みたい。ジャンの周りにたくさんの兵士がころがっている。


「ジャーン! 殺してなんかないよね?!」

「おう! 安心しろ! 鎧の上から剣の腹でぶん殴っただけだ!」


 ほんとだ! 鎧がみんなベコベコ!


「剣は大事にしなよ?」

「わかってるよ。だが、同時に俺はこいつらに信頼を置いてるんだ。だから大丈夫だ」


 ジャンの得意げな言葉に反応するように、二振りの剣は光を浴びて輝いた。


 なら大丈夫か。とあたいは頷く。


「それじゃ、行くよ!」

「おう! 次は、あそこだな」

「うん!」


 これからはきっと、あたいたちが来た道を帰る旅。


「幻惑の森、それからリリバの街よ!」

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