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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 四章 賢者の聖地
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52話 魔力の神髄

 穴はあたいの思った通りに深かった。降りてもおりても果てしのない深さ。あたいはブリーさんに聞く。


「魔法でふわっと降りたりしないんですか?」

「それはできない。ここはとても魔力の流れが不安定だからね。底に着くまでは我慢だ」


 そう説明してくれたけれど、ブリーさんの周りの魔力たちはとても安定している。さすがね、ちなみに、あたいの周りの魔力はぐっちゃぐちゃで使い物にならなそうだ。


 いかに深い穴といえども終わりがある。ようやく穴の底に着いた時、あたいはもうヘトヘトだった。


 おもむろに上を見上げれば、外の光は手に持って見るリンゴのような小ささだった。またこれを登らなきゃならないのね……。


 ブリーさんが言う。


「ヒヨ。こちらへ来てくれ。ここはまだ時間の流れは大差ないからな」

「は、はい」


 あたいは重たい足腰を奮い立たせて、よろよろと歩く。体力、結構ついたと思ったんだけどな。


 ブリーさんのいる方まで来て、あたいはようやく周りにたくさんの扉があることに気がついた。ブリーさんは青い扉の前に立っている。


「ここは、知識の間という。わたしたちの学ぶことが出来るおおよそ全てのことが詰まっているし、それを試しに使うことも出来る。まあ、入ってみる方が早いだろう」


 ブリーさんの後に続いて、あたいは扉を潜った。


 扉の先は、目を見張るほど大きな図書館だった。


 あたいが潜ってきたのと同じぐらいの高さの天井、見渡す限りの棚、棚、棚、本、本、本。


 ブリーさんは語る。


「すごいだろう? 全賢者、及び人間の叡智の結晶だ。今までに存在した全ての人間の名前や役職、文字の成り立ちから物体を構成する元素、何より全ての文明と文化が事細かく書き記してある。もし、王都の博士や研究者がここを訪れたならば、卒倒するのは間違いないな」

「それは、そうですね」


 何しろ、こどものあたいですら十分に感動しているのだ。別に研究者とかに限らなくても、誰もが感動するだろう。


「こんなにたくさんの資料をどうやって集めるんでしょうか」

「それは、わたしたち上位賢者の仕事だ。わたしたちはもうやることがなくてな。こうして知識を書き留め残すことしかできんのだ」


 そうなんだ。やっぱり賢者ってすごいんだな。あたいもまだまだだ。


 と、あたいの目が緑の分厚い本の背表紙に止まった。


「あの、これ見てみてもいいですか?」

「ああ、構わないとも」

「ありがとうございます」


 あたいはその本を力いっぱい引っこ抜いた。本棚の一段一段はギチギチに詰まってるみたい。


 その本の表紙には、「魔力とその扱い方」と書いてある。


「おや、その本に興味を持つとは。やはり君は努力家のようだな」

「どうしてですか?」

「ここを訪れた賢者はまず『魔法図鑑』を手に取るからだ」


 確かにそれも気になるけど、あたいはこっちの方が重要だと思ったんだ。てことは、やっぱりあたいは頑張りやさんってことね!


 って、そんな冗談めかして考えるのはいいの。


「あたいは、天才じゃないんです。それに、前からずっと気になってたんですよね。魔力ってなんだろうって」

「それは素晴らしいことだ。天才よりも努力家の方が認められるし伸びしろもある。実は難しいことの上達も早い。誇りに思うといい」

「そうなんですかね?」

「ああ。才能は努力で伸ばせるよ」


 そんな言い方をされたのは初めてだ。というか、そもそもあたいにはそういうことをしてくれる先生が途中からいなかったから、仕方がなかったかな。


 あたいは少し嬉しく感じながら、本棚の先にある机の固まったスペースで本を開いた。


 ……あたいの知りたいことがすべて書いてある。


 あたいは夢中で本を読んだ。おしりが痛くなってくるのも構わずに読んだ。


 そうして読み終えたあと、あたいの世界は変わっていた。


「……魔力って、こんなにたくさんありましたっけ」

「ふむ。もう魔力の見方を身につけたのか」


 あたいの向かい側で本を読んでいたブリーさんが、本を閉じて驚いたようにあたいを見る。


 あたいはこくりと頷いて辺りを見渡してみた。そこら中にあたいの知らない要素の魔力が漂っている。そっか、魔力ってこんなにあったんだ。


 ブリーさんは続けた。


「ここは魔力が特別濃い。何しろ地下の深く。魔力の生成源であるとされる地脈に近いからな。そうだな……あの緑の魔力は見えるか?」


 指をさされた方には、大人の拳ぐらいの大きさの緑の魔力が空中でとどまっている。


「見えます」

「あれはシャイな魔力だな。きっと使おうとすると素直に従ってくれるが、違う属性のものと混ぜようとすると途端に縮こまるだろう」


 緑の魔力の傍に赤い魔力が近づいた。すると、魔力はみるみるうちに小さくなっていった。


 あたいは驚いた。


「あっちの青色のふわふわしたのはお調子者だ。なんの魔法の行使にでも従ってくれる。向こうの凹凸の激しいものは気性が荒い。まず使わせてはくれないだろう。それからーー」


 ブリーさんは順番にそれぞれの魔力の特性を教えてくれた。その度にあたいは思う。まるで人間じゃないかって。


 しかし、魔力とは本来そういうものらしい。ただのエネルギーの塊ではなく、しっかりと意志を持った精霊の破片なのだと。


 あたいはそれをうんうんうなずきながら聞いていた。すごい勉強になる。話を聞きながら、適当に近くの魔力を動かしてみると、反応がそれぞれ違ってとってもおもしろい。


 と、話の途中で不思議なことが起こった。


「すいません、ブリーさん。なんか青の子と赤の子が混ざっちゃったんですけど……」

「む?」


 赤の魔力と青の魔力が合わさって、白く発光し始めて――


「危ない!」


 ブリーさんが手を出すと、その魔力の周りを白い魔力が四角形に覆った。そして――ズンッ、と思い音がその白い箱の中から鳴った。


 あたいは心配になってブリーさんを見る。ひょっとして、すごく大変なことをしちゃったんじゃないかって……。


「……今、まさにその話をしようと思っていたのだ。いいか、魔力の中には仲が良くないものもある。それを組み合わせてしまうとこうなるのだ。魔力が見えないうちは、自分に従ってくれるものしか使わないから関係が無かったが、今は違う。きちんと考え、そして話を聞くように」

「はい。すみません」


 これはしっかりと反省しないといけない。あたいは頭を下げた。


 こほんとブリーさんが咳払いをする。


「ともかく、ヒヨはきちんと魔力が扱えることがわかった。さあ、授業を続けよう」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうして、あたいの新たな修行が始まった。

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