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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 三章 幻惑の森
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47話 魔法使い

「魔法使い、か……」

「本当にいると思うか?」

「うーん、どうだろう。でも、いると思うな」

「根拠は?」

「だって、魔法の残滓をいっぱいみたもん。ねぇ、フェムちゃん」

「うん」


 あたいに聞かれてファムちゃんがこくりと頷きながら言った。可愛い。


 この街には、普通の人は気づかないだろうが、異常なほどの魔力が漂っている。それも、窓から流れ出てきていたりするから驚きだ。同類なら、「あそこね!」ってなる。


 ジャンはあまり興味がなさそうに、ふーんと適当に相槌を打ってから自分の剣の手入れを始める。あたいも荷物をいろいろと整理して、買ってきた素材で調合を始めた。


 あたいとジャンが急に真剣になったので、部屋が一瞬で静かになる。ファムちゃんがあたいの隣にとてとてと寄って来た。


 あたいは魔法辞典を読みながら尋ねる。


「読める?」


 ファムちゃんは首を横に振った。可愛い。


「でも、魔法の素材はわかるんだ」

「うん。お母さんの、見てた」

「そっか」


 ふとあたいはお師匠様の調合を見ていた時のことを思い出した。あの時は、あたいも全然文字が読めなかったから、懐かしいなぁ。


 なんて思っていると、ファムちゃんがあたいの服の袖を引っ張る。


「多いよ」

「え?」


 あたいはスプーンの上にとった粉末の量と、辞典に書いてある説明とを読み比べる。ほんとだ! スプーンの大きさが違った!


「ありがとう、ファムちゃん!」


 ファムちゃんは心なしか満足した様子で、今度はジャンの方へとかけていく。


 ジャンはそれを横目で確認しながらも、慎重に手入れを続ける。それがむっときたのか、ファムちゃんはちょいと腕を押した。


「うおっ、危ねぇな!」


 ジャンが声を荒らげて注意すると、驚いたファムちゃんが表情を強ばらせてあたいの背中に隠れる。


 ジャンは珍しく結構本気で怒っているようだ。あたいはファムちゃんの方をむく。


「ファムちゃん。それはダメ。怪我したら、どうするの?」

「治す」

「見た目は治っても、心の傷は治せないよ」

「魔法を使う。幻覚魔法」


 ファムちゃんがとんでもないこと言ってる気がする。


 でも、あたいはそれを頭ごなしには否定できなくて、頭をかいた。そして、結局人差し指をピンと立てて言う。


「それも違うの。それは、ダメ」

「なんで?」

「うーん、なんていうか……その……りんりてき? みたいな」

「道徳的に、か?」

「そう! それは、人としてあんまり良くないことだから、ダメ。魔法はもっと特別なものなんだから」

「……わかった」


 ファムちゃんはそう言って、ベッドの上に寝転んだ。あたいは気づかれないようにふうと息を吐く。子供って、こんなに大変だったっけ。


 それに、なんていうか、昔のあたいと似ている気がする。お師匠様、大変だっただろうなぁ。


「おい、ヒヨ。なんかすごい色になってるけど大丈夫か?」

「え? あっ、やばっ!」


 あたいが調合をしていた試験管は、いつの間にか真っ茶色のくすんだ色になっていた。あたいは加熱を止めて辞典を読む。よかった! 茶色がはまだギリギリセーフだ!


 あたいはほっと胸をなでおろして、また調合を続けた。


 そうして四回目の調合を終わらせた時だった。


「ーー!」


 あたいはばっと顔を上げて、窓の外を見た。窓の近くでは、ジャンがすやすやとベッドにもたれかかって眠っている。


 あたいと同じものに気づいてか、ファムちゃんも顔を上げていた。


 あたいはファムちゃんに聞く。


「感じた? 今の」


 ファムちゃんはこくりと頷いた。


 あたいたちは今、間違いなく感じたのだ。新たな魔力の流れ。魔法が発動されたということを。それも、かなり近い。


「……待って」


 それは誰にでもない、あたい自信に尋ねた言葉だ。あたいは試験管に目を向ける。


 調合をする時にも、わずかに魔力の流れが発生する。木が燃える時に煙が出るように、調合をすれば魔力が出るのだ。


 あたいは再び窓に目をやった。穏やかな風が部屋に流れ込んでくる。


「まさかーー」


 ボンッ。


 窓の外で、何かが破裂する音。それと同時にそこそこの大きさの魔力の動き。


 音でジャンが目を覚ました。


 あたいは声を張り上げる。


「ジャン! 窓の外!」

「おう!」


 ジャンが窓の外を見る。そこにいたのはーー


「やった! 魔法使いを見つけたぞ!」


 ガタイと同じガッチリとした甲冑、使い込まれた鉄の剣、銀色の髪に整った顔が映える。


 いいや、今は見た目なんてどうでもいい。ただ、あたいが気になったのはただ一点。


 ーーこの人は、魔法使いじゃない。

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