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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 三章 幻惑の森
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46話 メレーバクの街

 メレーバクの街。


 幻惑の森と、メリー川に挟まれたところに位置する街だ。他に特筆することといえば、王都から遠く離れているので、独自の文化が残っていることだろう。


 あたいたちは、早速その文化に触れることとなった。


「……な、なにこれ?」

「豚の内臓の詰め合わせだな! あれは海魚の頭だし、おっ、うさぎのフンのコーヒー豆もあるじゃないか! それに、あっちは干しキノコだな!」


 キタラさん、干しキノコ以外、馴染みのないゲテモノばかりなのだけれど……。


 そうツッコミを入れる前に、ファムちゃんが口を開いた。


「……魔法の素材、ばっかり?」

「あっ、確かに」


 言われてからあたいも気がついた。そしてキョロキョロと当たりを見渡してみると、確かにその通りだ。普通は売られることの無いような薬草、獣の骨、魔物のフン。


 あたいは密かに心を踊らせた。これで旅の途中で学んだいろいろなものを、作ることができる。


 あたいがおそらく目をキラキラさせていると、ジャンの興味のなさそうな「ふーん」という声が聞こえた。


「すげぇのばっかなのか?」

「当たり前よ! このあたいの目の輝きようを見てわからないの?!」

「なんでそんなにハイテンションなんだよ……」


 若干ジャンに引かれてしまった気がしたが、ジャンが目をキラキラしてるときも同じぐらいあたいも引いてるのでおあいこだ。


 あたいは、あとから何を買おうかと思考を巡らせる。


 と、キタラさんが二回手を鳴らした。


「今日は一度宿を探そう! ヒヨちゃんも、お金はあるだろう?」

「うん、大丈夫です!」

「よし、じゃあ行こうか!」


 あたいたちはキタラさんの馬車の荷台に乗り込んで、ゆっくりと談笑した。ここは街なので、警戒する必要もないからだ。まあ、旅路でも、キタラさんがポンポンと倒して行ってしまうのだけれど……。


「ファムちゃんはあたいの隣だからね!」

「わーかってるよ! 別に取るつもりはねぇんだから……」


 あたいは宿の寝る場所を先に指定しておく。ふふふ、こうすることで、ファムちゃんはあたいから逃げられないわ!


 あたいはファムちゃんに抱きついた。ファムちゃんは、特にリアクションもなく、あたいの方をチラと見ただけだった。寂しい……。


 それから、郊外にある手頃な宿を見つけて、キタラさんが馬車を置きに行くついでに、あたいたちは受付を済ませた。言われた通りに二部屋。


「ジャンはキタラさんとだからね」

「ああ、わかってる」


 ジャンが別になんともなさそうにそう答えた。


 しばらくしてキタラさんが戻ってきて、それから昼食に出かける。入ったのは、大きなレストラン。パスタが売りのようだ。


 あたいたちは四人とも違うものを頼んで、待っている間に喋りあった。その途中で、キタラさんが思い出したように言う。


「ああ、そうだ! 俺は今日は泊まっていくが、明日にはこの街を発つ。欲しいものも、すぐ手に入りそうだからな! てなわけだが、大丈夫か?」


 あたいとジャンは顔を見合わせる。ファムちゃんはあたいたちの間で水を飲んでいた。


「はい。大丈夫です! あたいたちも、目的地はすぐ近くなので、なんとかなります」

「そうかそうか! なら、安心できるな」


 キタラさんが豪快に笑っているうちに、ウエイトレスさんがあたいたちの頼んだ料理を運んできた。


 あたいには珍しい料理に、舌つづみを打ったのだった。美味しかった!


ーー ーー ーー ーー ーー


 翌朝。キタラさんは忙しなく馬車の準備をしていた。馬は背後の荷台でなる大きな音にも動じずに、ほのぼのと朝食を食べている。


 せこせこと準備のお手伝いをするジャンの隣で、キタラさんはふうと息をついて、額の汗を手の甲で拭った。


「キタラさん、魔法使っちゃえばいいのに」

「そうもいかないな! ヒヨちゃんも、街中で魔法を使うリスクは知ってるだろう?」

「うん。でも、こんな郊外だしさ、あたいだったら使っちゃうなぁ」

「賢者は、賢くなきゃいけない。それに、自分のために使う魔法なんて、なんの意味もないじゃないか」


 言われてあたいは考える。あまり共感はできないけれど、一理あるかもしれない。まあ、旅の途中でいっぱい使ってきちゃったから、なんとも言えないなあ。


 何も言わないあたいを見てか、キタラさんがまた荷物を運び始めた。そのついでに話す。


「俺は、あんまり魔法を信頼してない。いつも大切な時には効果が無いし、バリエーションも貧弱だし、ここぞと言う時に詠唱を噛むし」

「そう? でも、バリエーション、たくさんありますよ?」

「ううん。少ないよ。あまりにも少ない。だから、俺は取りこぼしたんだ」


 話すキタラさんの表情は真剣で、あたいの知らない壮絶な何かがあったことは想像にかたくなかった。


 けれど、やっぱり共感できない。あたいとキタラさんじゃ、見えているものが全く違うようだ。あたいは魔法は数え切れないぐらいたくさんあって、魔法さえあれば不便なんてないと思ってる。


 あたいは、そんなことを口に出す気はなかったから、心の中で結論付ける。


「きっと、ヒヨちゃんにもわかる時が来るさ」


 そうして、キタラさんは次の目的地へと去って行った。あたいとジャンは精一杯の感謝を込めて、その馬車へと叫ぶ。


「「ありがとうございましたー!!!」」


 馬が、ヒヒンと鳴いた。


ーー ーー ーー ーー ーー


 時間は過ぎて、その日の夕方。お昼ご飯を食べに出た帰り道のことだった。


 こんな張り紙が貼ってあった。


『注意! 魔法使い現る』

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