表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 三章 幻惑の森
46/79

45話 新しい友達!

 あたいは少女の手を引いて走った。途中で自分に身体能力強化の魔法がかかってることを思い出して、かわりに少女をおんぶしても走った。


 別にジャンの力量を低く評価しているわけではないが、あたいが夢の中で戦ったようなドラゴンとはまた別のはずだ。だから、いくらジャンでも……。


 炎の熱を感じた。


「ジャーン!」


 大声で呼びかける。そして、炎の壁の向こうに見つけた。


 巨大な、太った翼の小さいドラゴンが一頭と、痩せこけた醜いドラゴンが一人。そして、いかにもドラゴンといった、ガッチリとした体格のドラゴン。


 合計三頭が、ジャンとキタラさんと向かい合っていた。


 二人があたいに気づく。


「やべぇ! もうきちまった! キタラさん、決めるぜ!」

「はいよ!」


 ジャンが剣をかまえ、キタラさんはーー杖を構えていた。


「うおおらぁ!」


 ジャンが地面を踏み込み、強化をかけたあたいよりも早いスピードで太ったドラゴンに迫る。その首を胴体から切り離した。


 一方、キタラさんはーー


「〜〜〜・バブル」


 そう言うと、杖の先からピンクの泡が吹き出す。前半のスペルが聞き取れなかったけれど、でもその威力は確約されたようなもので。


 泡に触れた痩せたドラゴンが、煙となって霧散した。


 残ったのは正当なドラゴン。


 ジャンが、剣を振り上げた。白い刃が赤く染まっていく。


「と、ど、め、だぜー!」


 ジャンの剣が頭蓋にめり込み、その勢いのまま顎までを切り裂く。


 顔面を真っ二つにされた焦げたドラゴンは、心做しか寂しそうな悲鳴を上げて、倒れた。


「やるじゃん!」

「へへー! まあな! それと、キタラさんもすげーよ! まさか賢者だったなんて!」

「あはは。いや、隠すつもりだったんだけどね」

「そうだったの?」


「うん」と頷いて、キタラさんが居心地悪そうな苦笑いのまま言う。


「俺は、ヒヨちゃんが賢者の見習いだってことはわかってたからな。だからリリバの街からここまで来てる」

「子供扱い?」

「んー、ちょっと心配なことと、心当たりがあったんだよ。それに、本当にこっちに来る用事があったからな」


 軽く濁されたような気がしないでもないけれど、まあ、そういうことなのだとあたいは頷く。子供扱いは嫌いなんだから!


 ……子供だっていうのはわかってるんだから。


「それで、ヒヨ。その女の子はどうしたんだよ」


 ジャンが人差し指を少女に向けて尋ねる。


「んーと、この幻惑の森の……主?」

「言い方が悪いぞ」

「適当な言い方が思いつかなかったんだもん!」

「……あってる、けど」

「それでいいのか……?」


 この子が肯定するならそれでいいの。


 ジャンが肯定に対して疑問を抱いているのを無視して、あたいは少女に尋ねる。


「ねえねえ、あなたの名前は?」


 少女はあたいの目をじっと見つめて、


「私は、ファム」

「ファムちゃん! ……えっと、これからどうするの?」


 元気に呼びかけたはいいけれど、続く言葉が見つからなかったわ。


 ファムちゃんは、例に漏れず淡々と答える。


「どうもしない。誰かが来たら、どうにかして、ご飯貰う。それだけ」

「でもよ、大事なドラゴンどもはやっつけちまったぞ」

「……それはとても困る」

「だよなぁ」


 ジャンも困ったように後頭部をかく。でも、あれは仕方がないことだったから、あたいも責めない。


 なら、あとこの子にしてあげられることは……。


「じゃあさ、ファムちゃん」


 あたいは、目線を合わせるために少し腰を曲げて、にっこりと笑顔を作って、


「あたいたちと一緒に来よう!」


 あたいの言葉に、ファムちゃんは目を丸くした。


 あたいができるのはこれくらいのことしかない。幸い、お金は意外とたくさんあるの。ちゃんと使わなきゃ勿体ないわ!


 なんて考えてみるけど、実際はただ、ファムちゃんと友達でいたいだけだったり。


 ファムちゃんは、しばし考えるように俯いて、


「……いいの?」

「うん。いいよ。それに、あたいたちは賢者の総本山へ向かってる。ファムちゃんのお母さんのこととか、わかるかもよ?」

「……そっか」


 その時、ファムちゃんか少しだけ笑った。


「じゃあ、行く」

「ほんとに?! やったあ! へへー、女の子だ! 嬉しいなぁ」


 あたいはファムちゃんに抱きついた。ふわふわの髪が気持ちいい。なんだか妹ができた気分だ。


「こら、ほどほどにしとけ。いきなり嫌われるぞ?」

「はっ! ご、ごめんごめん。ちょっと高ぶっちゃった」

「いいよ。別に」

「なんだかそっけない気がする……」


 うーん、なかなか声音と表情から感情が読み取りにくいな。気をつけないとほんとに嫌われちゃうかも。


 あたいは、ファムちゃんの顔をじっと見つめた。


 でも、


「やっぱり、明るくなったね!」

「……! うん。嬉しい、から」


 ファムちゃんが顔を背けた。頬がほんのりと赤く染まっている。


「お友達。初めて。……改めて、よろしくね」

「うん、よろしく! あっ、こっちのジャンはあんまり気にしなくていいからね?」

「なんだよその紹介の仕方! はぁ……ったく。俺はジャンだ。よろしくな」

「ん、よろしく」


 こうして、あたいたちに友達が加わった。


 なんだか、これからいい事が起こりそうな予感!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ