45話 新しい友達!
あたいは少女の手を引いて走った。途中で自分に身体能力強化の魔法がかかってることを思い出して、かわりに少女をおんぶしても走った。
別にジャンの力量を低く評価しているわけではないが、あたいが夢の中で戦ったようなドラゴンとはまた別のはずだ。だから、いくらジャンでも……。
炎の熱を感じた。
「ジャーン!」
大声で呼びかける。そして、炎の壁の向こうに見つけた。
巨大な、太った翼の小さいドラゴンが一頭と、痩せこけた醜いドラゴンが一人。そして、いかにもドラゴンといった、ガッチリとした体格のドラゴン。
合計三頭が、ジャンとキタラさんと向かい合っていた。
二人があたいに気づく。
「やべぇ! もうきちまった! キタラさん、決めるぜ!」
「はいよ!」
ジャンが剣をかまえ、キタラさんはーー杖を構えていた。
「うおおらぁ!」
ジャンが地面を踏み込み、強化をかけたあたいよりも早いスピードで太ったドラゴンに迫る。その首を胴体から切り離した。
一方、キタラさんはーー
「〜〜〜・バブル」
そう言うと、杖の先からピンクの泡が吹き出す。前半のスペルが聞き取れなかったけれど、でもその威力は確約されたようなもので。
泡に触れた痩せたドラゴンが、煙となって霧散した。
残ったのは正当なドラゴン。
ジャンが、剣を振り上げた。白い刃が赤く染まっていく。
「と、ど、め、だぜー!」
ジャンの剣が頭蓋にめり込み、その勢いのまま顎までを切り裂く。
顔面を真っ二つにされた焦げたドラゴンは、心做しか寂しそうな悲鳴を上げて、倒れた。
「やるじゃん!」
「へへー! まあな! それと、キタラさんもすげーよ! まさか賢者だったなんて!」
「あはは。いや、隠すつもりだったんだけどね」
「そうだったの?」
「うん」と頷いて、キタラさんが居心地悪そうな苦笑いのまま言う。
「俺は、ヒヨちゃんが賢者の見習いだってことはわかってたからな。だからリリバの街からここまで来てる」
「子供扱い?」
「んー、ちょっと心配なことと、心当たりがあったんだよ。それに、本当にこっちに来る用事があったからな」
軽く濁されたような気がしないでもないけれど、まあ、そういうことなのだとあたいは頷く。子供扱いは嫌いなんだから!
……子供だっていうのはわかってるんだから。
「それで、ヒヨ。その女の子はどうしたんだよ」
ジャンが人差し指を少女に向けて尋ねる。
「んーと、この幻惑の森の……主?」
「言い方が悪いぞ」
「適当な言い方が思いつかなかったんだもん!」
「……あってる、けど」
「それでいいのか……?」
この子が肯定するならそれでいいの。
ジャンが肯定に対して疑問を抱いているのを無視して、あたいは少女に尋ねる。
「ねえねえ、あなたの名前は?」
少女はあたいの目をじっと見つめて、
「私は、ファム」
「ファムちゃん! ……えっと、これからどうするの?」
元気に呼びかけたはいいけれど、続く言葉が見つからなかったわ。
ファムちゃんは、例に漏れず淡々と答える。
「どうもしない。誰かが来たら、どうにかして、ご飯貰う。それだけ」
「でもよ、大事なドラゴンどもはやっつけちまったぞ」
「……それはとても困る」
「だよなぁ」
ジャンも困ったように後頭部をかく。でも、あれは仕方がないことだったから、あたいも責めない。
なら、あとこの子にしてあげられることは……。
「じゃあさ、ファムちゃん」
あたいは、目線を合わせるために少し腰を曲げて、にっこりと笑顔を作って、
「あたいたちと一緒に来よう!」
あたいの言葉に、ファムちゃんは目を丸くした。
あたいができるのはこれくらいのことしかない。幸い、お金は意外とたくさんあるの。ちゃんと使わなきゃ勿体ないわ!
なんて考えてみるけど、実際はただ、ファムちゃんと友達でいたいだけだったり。
ファムちゃんは、しばし考えるように俯いて、
「……いいの?」
「うん。いいよ。それに、あたいたちは賢者の総本山へ向かってる。ファムちゃんのお母さんのこととか、わかるかもよ?」
「……そっか」
その時、ファムちゃんか少しだけ笑った。
「じゃあ、行く」
「ほんとに?! やったあ! へへー、女の子だ! 嬉しいなぁ」
あたいはファムちゃんに抱きついた。ふわふわの髪が気持ちいい。なんだか妹ができた気分だ。
「こら、ほどほどにしとけ。いきなり嫌われるぞ?」
「はっ! ご、ごめんごめん。ちょっと高ぶっちゃった」
「いいよ。別に」
「なんだかそっけない気がする……」
うーん、なかなか声音と表情から感情が読み取りにくいな。気をつけないとほんとに嫌われちゃうかも。
あたいは、ファムちゃんの顔をじっと見つめた。
でも、
「やっぱり、明るくなったね!」
「……! うん。嬉しい、から」
ファムちゃんが顔を背けた。頬がほんのりと赤く染まっている。
「お友達。初めて。……改めて、よろしくね」
「うん、よろしく! あっ、こっちのジャンはあんまり気にしなくていいからね?」
「なんだよその紹介の仕方! はぁ……ったく。俺はジャンだ。よろしくな」
「ん、よろしく」
こうして、あたいたちに友達が加わった。
なんだか、これからいい事が起こりそうな予感!