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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 三章 幻惑の森
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43話 幻と戦う!

「待って!」


 あたいは少女を追って森に入る。少女はどんどんとあたいから風のように遠ざかる。


 あたいはローブの中から杖を取り出す。


「マジック!」


 対象部位を選択している余裕はない。今は、早くあの子に追いつかなきゃ!


 魔法で強化された肉体は、あっという間に少女との距離をせばめた。


 周りの風景はいつの間にか見慣れない山の中に突入していた。


「待ってってば!」


 そう叫んでも、少女には届かないみたい。あたいもそろそろ疲れてきた。やけくそに肺いっぱいに息を吸い込んで、吐き出す。


「絶対に追いつく!」


 そう喝を入れて、前を向いた時、少女が、こちらを見ていた。


 その手には、まるで、杖みたいな木の棒が握られていてーー


「う、そ……」


 棒の先から煙が出た。かと思えば、その煙はぐねぐねと何かを形作るように変化する。


 そして五秒も経てば、それは立派な、真っ赤な鱗をもつ中ぐらいのドラゴンに変化した。


 しかしここであたいの頭は思考を止めなかった。


 ここは夢の世界! きっと、このドラゴンもまやかし! なら、突撃するしかない!


 あたいは、強く地面を踏みつけた。


 ドラゴンが口を開ける。


「うっ……!」


 嘘でしょ!


 あたいは驚きを隠せない。だって、今のブレス。


「熱かった……っ?!」


 確実な熱量を持っていた。今のあたいのリュックに、火傷直しは残ってたかな。まあ、それはあの炎を浴びてから見てみればいい。


「今は、集中!」


 日の目を浴びた紫色の水晶の杖は、あたいの気持ちに応えるように魔力の光を放った。ドラゴンが歩を進める。


 改めて見ると、このドラゴンは羽が小さく、また体が丸く太っていた。


 なら、素早い攻撃はないだろう。あたいは杖の先を向ける。


「ウィンド・カッター・ディエ!!」


 あたいの詠唱通りに、十の風の刃が杖の先から勢いよく飛び出す。それらは全て狙い違わずドラゴンの顔面に吸いこまれていき――文字通り、ドラゴンに吸いこまれた。


 って、なんで?!


 びっくりしたのもつかの間、ドラゴンは元の煙のように姿を変えて消えた。やっぱりあのドラゴンは作り物みたい。


 消えたドラゴンの向こう側に、走る少女の背中を見つけてあたいは焦る。もうあんなに距離をとられた! 急がなきゃ!


「待ってってばー!」


 そう叫ぶと、今度は彼女の耳に届いたのか、少女が驚いたようにこちらを振り向いた。きっとドラゴンが破られるとは思っていなかったんだろう。けど残念!


 あたいは、強くなったんだから!


 少女が杖だけをあたいの方に向けた。また杖の先から煙がのぼり、形作られたのは――


「に、人間?!」


 影のような黒いシルエットの、あたいと同じぐらいの背丈の人間だった。そして、その手には杖のような棒が見える。


 それが、あたいに向けられてーー


「ーー! ウォーター!」


 あたいの詠唱と同時に、影の杖から炎が川のように押し寄せた。それを、あたいの水が相殺していく。


 魔法まで使えるの?!


「なら、手加減しないよ!」


 さっきも、言ったでしょ! あたいはーー


「強くなったんだから!」


 杖に魔力を込めて、唱える。


「◼□□◼■!!」


 影の地面に黄色い魔法陣が浮かぶ。影は、少し動揺したように足踏みをした。


 瞬間。地面から槍のように鋭利なトゲが飛び出し、影を串刺しにした。そして、ドラゴンと同じように霧散する。


 さあ、これで進めるーーって、


「け、渓谷?!」


 リリバの街の峡谷に負けず劣らずの深さの渓谷が作られていた。しかも、渓谷だから溝の幅が広い。これじゃ、足止めされちゃう……。


 なんてね!


 そう、さらにさらに言うけどあたいは強くなったのよ! ずっっっと使いどころがなかったたくさんの古代魔法たちを惜しみなく使うわ!


 あたいは渓谷へと思いっきり跳んだ。そして唱える。


「▲▲ー。。!!」


 瞬間、あたいの体から重力の感覚が消え、代わりにふわりとした重力の反対の感覚に襲われる。


 これ、実はあたいも使うのは初めてで、無意識に瞑っていた目を開くと――


「あたい、飛んでる!」

 

 完全にあたいは空中に浮いていた。やった、成功!


 なんだか足首と手首に羽が生えているみたいな、すごい不思議な感覚だ。でも、今は純粋に楽しんでいられる余裕はない。


 あの少女を見失っちゃだめ!


 ……でも、そうだなぁ。


 ちょっと、驚かせて見ちゃったりして。


―― ―― ―― ―― ――


 少女は、ただただ走っていた。


 魔法使いが来たから、わざわざ強い幻想魔法を使ったのに、弱そうな少女だったから、過去を見せたのに、どうやら彼女には効き目がないようだった。なにより、思い出よりも自分を追ってきたその恐怖は、少女の経験の中でも屈指の恐ろしさだった。


 少女は振り向く。どうやら、あの赤髪の少女は渓谷の中に消えたか、迂回をしているようだ。少女はやっと安心して、額のあるはずのない汗を拭った。そしてここが夢の世界だと気づいて息を小さく吐く。


 あとはゆっくり歩いてこの世界を去ろう――


「ばあっ!!」

「ふぇあっ?!」


 ごちん。


 額に鈍い痛み。


 してやられた。いったいどんな魔法かはわからないけれど、でもあの少女はいつの間にか自分の目の前にいた。それに、この痛みじゃ――


 少女は、瞳を閉じた……。

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