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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 二章 とある最強家族
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36話 ジャンの剣

 それから二週間ほど経って。


「おら、完成だ」

「おっしゃー!」


 一番最初に終わったのは、ジャンの剣の修繕だった。


 鈍色のなまくら鈍器は、すっかり元の光沢を取り戻していた。白銀色の刃の中央を真っ赤な炎のような装飾が走っていて、神々しさを感じる。……っていうか。


「ねえねえジャン。その剣から結構な魔力を感じるんだけど」

「お? やっぱりか? 俺もメロンから頼まれた素材を集めてて、うっすら気づいてたんだよ。で、どうなんだ?」

「かーっ。感謝の前に質問たぁ、良い度胸じゃねえか。お?」

「わー! ごめんごめん! じゃなくて、ありがとうな、メロンさんっ!」


 メロンさんが、ギラリとサングラスの奥で瞳を光らせて、ジャンを見下ろした。ジャンはタジタジしながらも、楽しそうに笑って謝った。


 謝られたメロンさんは、ため息を付いてから髪の無い頭をかく。


「……こういう時だけさん付けしやがって。まあいい。そうさ。そいつは、いわゆる“魔剣”ってやつだ。炎の魔法が、コツさえつかめれば誰にでも使えるらしいぞ」

「本当か?! うおー! ついに俺にも魔法が……」

「ただし、コツさえつかめば、だ。凡人にはさぞかし難しあっちいいいいい!」

「お、なんか出た」


 ジャンが平然とそう言うけれど、剣の切っ先から出た炎はメロンさんの左の二の腕をしっかりとこんがり焼いていた。って、冷静に見てる場合じゃ無い!


「メロンさん、お薬お薬!!」

「ありがとな、ヒヨちゃん。……おい、絶対に人に向けるんじゃねえぞこのクソガキが」

「ひっ……。も、もちろんだぜ!」


 あたいは火傷の薬をメロンさんの焦げたところに塗ってあげる。それにしても、すごい火力ね。一瞬だったのにしっかりこんがりだわ。


 ま、あたいのこの薬があればすぐに治っちゃうんだけれどね!


 あたいはメロンさんの腕にグルグルと包帯を巻きながら、あることを考えていた。


「それでさ、ジャン。あの橋どうする?」

「あー、それだよなぁ。メロンは通行証持ってねぇのか?」

「生憎と持ち合わせてはないな。俺は職人街生まれ職人街育ちだ」

「そっか……」


 メロンさんなら持ってるかと思ったけれど、存外そうでもないのね。


 包帯を巻き終わった頃、お店の扉に付けられたベルが景気の良い音を鳴らした。


「いらっしゃーい! おっ、キタラじゃねぇか」

「よーう! 元気してたかメロンー! ……って、どうしたよそれ?!」

「ちょっとこんがりと、な」


 やってきたのは、オレンジ色の髪をした元気な若い男性。体はそんなにがたいがいいわけじゃない。単なるシャツとズボンのどこにでもいる町民の格好。


 キタラと呼ばれた男の人が、あたいに気づいてか視線を向けた。そして、にかっと笑って歩み寄ってきた。


「おっ! 君が噂の薬剤師さんだな? 君の薬、もう職人の間では大評判だよ! 俺のとこのモノが売れなくなるぐらいにね」

「そ、それってもしかして謝った方がいい?」

「いやいやまさか! 俺も張合いがあるってものさ」


 明快に笑って、あたいの肩をポンと叩く。あたいはちょっと自分の技術を褒めた。ふふふ。あたいももう立派な賢者! ……の、弟子ね!


「俺の名前はキタラ。呼び捨てで構わない。君は?」

「あたいはヒヨ。け……旅の薬剤師……の弟子?」

「ははは! なかなか面白い言い方だな!」


 またも笑うキタラを見ながら、明るい人だなぁ、なんて間の抜けた感想を抱いていた。


 と、キタラがあたいの奥へ目をやって、その色を輝かせた。あたいも釣られて顔を向ける。


 メロンさんが、立派な金色の剣を大事そうに鞘へしまっていた。華美な装飾が施された柄をキタラへ向ける。


「ほれ、頼まれてたもんだ」

「おー! 待ってました! いいね、やっぱりメロンの腕は信用が置けるぜ」


 受け取った剣をマジマジと眺めて、キタラはメロンさんを賞賛する。メロンさんはわかりやすく照れて、頬をかいていた。


 そのキタラにジャンが近寄って声をかけた。


「なあなあ、キタラって、商人なんだよな?」

「ん、まあね」

「じゃあさ……」


 ジャンが悪巧みをするときの笑みを浮かべた。あたいは、それだけでジャンが何を企んでいるのがわかって額を押さえた。


 まあ、あたいも考えてたけどね。


「俺らも一緒に向こうに連れてってくれよ!」

「おう、いいぞ」


 あっさりとキタラは微笑みのまま承諾した。その表情は、まるでそう頼られることを待っていたよう。


 けれどあたいは不思議には思わず、かえって安心した。そろそろ出ようと思っていたのだ。だって、薬の値段をちょっとあげてもみんな買うから、儲けが余ってしょうがないもの。


 悪いことをしていた気分だったわ。


「そうなると、お前たち……あ、二人だよな?」

「そうです!」

「だよな。じゃあ、二人は馬車の箱の中にしばらく入ってもらうことになる。それでもいいか?」

「おう! 俺は大丈夫だぜ! ……ヒヨは、どうだ?」

「ん、あたいも大丈夫!」


 あたいが力強く頷いてみせると、キタラも頷いた。


「明日でいいな?」

「うん! よろしくお願いします!」

「よろしくだぜ!」

「おう! それじゃ、また迎えに来るぜ! それじゃ、メロン。俺もお暇させてもらうな」

「ああ、ありがとうな。……あと、二人を頼んだ」

「任せろ! じゃあな、二人とも! また明日!」


 キタラが上機嫌に店を出ていって、あたいたちの間にはわずかの静けさが戻った。


 何はともあれ、これでどうにか旅を続けることができそうだ。


「それじゃ、あたいは自分の部屋に戻ってるね!」

「おう。忘れ物するなよ?」

「流石にしないわ!」


 と、答えはしたけれど、気を抜いたら絶対しちゃうから、念入りに準備しなきゃ。


 あたいは自分の部屋へ戻って確認する。


 魔導書、薬、お金、ローブの替え、それと……。


「あたいの、新しい杖……!」


 ゴーレムの核の魔石から作り出した、紫に光る水晶の杖。持ち手は、思い入れのある先代の杖を加工して取り付けて、手に馴染む良い杖になった。


 これで使える魔法の幅も広がったし、これからの旅が楽しみ! まあ、割れて壊れやすいっていう重大な弱点があるから、それには気をつけなきゃ。


 あたいはそれらを新調したリュックに詰め込んで、一度背負って重さに呻いてから下ろした。


 そして、ふと思い出す。


「キタラさん、何者なんだろうな……」

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