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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 二章 とある最強家族
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35話 帰り道

「……あいつはさ、すごかったらしいんだ」


 曇天小雨の帰り道。ジャンは訥々と語り始めた。


「ルトンの息子っていう肩書き通りの実力、名誉、成果を出して、存分に力を発揮してた。場所を選ばずね」


 含みを持たせてジャンが言って、寂しげに斜め上の空を見上げた。


「俺はそのとっちゃんを知らない。俺が知ってるのは、暴力的で自己中心的で気性の激しいクソ野郎だ。……だから、俺はあいつが嫌いだよ」


 吐き捨てるように言って、ジャンは顔を俯かせた。


 あたいは、何も言えなかった。


 あたいには親がいない。お師匠様は父親のようなもので、家族ではあるけれど血は繋がっていない。それに、ジャンの話をよく想像できないから、あたいは下手に共感するのも酷いと思って黙っていた。


 あたいたちの間を、気まずそうに蝶が通った。


 思えばいつぶりだろう。ジャンとの間にこんな沈黙が降りたのは。


 慣れない感覚に、あたいは遠くを見つめることしかできない。


 そんなあたいを見かねてか、ジャンが一歩前に出て、あたいに向けて笑った。


「ま、これ以上あいつが何もしてこないってんなら、別にどうだっていいんだけどな!」

「……そっか」


 あたいも力無い笑顔で返す。


 ーーあたいのしたことは、失敗だったのかな。


 あたいは、二人を会わせてさえすれば、何かが起こるんじゃないかって、良い方向に転ぶんじゃないかって勝手に信じてた。


 けれど、現実はもっと複雑で、あたいの考えなんて到底及ばなくて。


 あたいはちょっと後悔する。


「……それで、報酬はどうなるんだ?」


 ジャンが、俯くあたいを下から覗き込むようにそう聞いてきた。


 一瞬何を言われたのか気づかずにぼーっとしていると、ジャンが不満そうな顔で、


「こんな大仕事をしたんだ。見返りは期待しとくぜ?」


 そう言ってから、にっと笑ってあたいの横に並んだ。


 ……すっかり忘れてたわ。


「ま、まあ期待しといて! ……それなりの、報酬、払えるかなぁ」

「なんで最後不安そうなんだよ。ま、大して期待してなかったからいいけどな。……待てよ」


 ジャンが顎に手を当てて考え込む。


 あたいは緊張してジャンの言葉を待った。冷や汗を拭いたい。


 そしてジャンは答えにたどり着く。


「お前、あいつが来ることわかってたな?」

「…………さ、さぁ」

「バレバレだよ! 嘘を隠そうとする気もねぇな」


 し、仕方ないじゃない! あたいだって進行形で後悔してるとこなんだから。


 あたいは心の底から申し訳なく思って、ジャンに頭を下げた。


「本当にごめんなさい。……あたい、余計なことしちゃって」

「ん、いいよ。俺だってちょっとモヤモヤしてたんだ。ありがとうとは言えねぇけど、怒ってはないよ」


 あたいの肩をジャンがポンと叩いた。あたいが顔を上げると、明るいジャンの笑顔。


 あたいは救われた気がしてはにかんだ。こういう時に、ジャンが年上だということを思い出す。……いっつも空回りなのに、大事な時には大人になるんだから。


 あたいは背筋を正して、ジャンの手をとった。


「さ、帰ろっ! お薬売らなきゃ!」

「そうだな。俺も、おじさんに剣を貰わないと。……って、まだ出来てないか。なあ、ヒヨ。今から俺は剣の修繕に必要な素材を取りに行こうと思うんだが、手伝ってくれないか?」

「えー。あたいもお薬の素材を採取しないとなんだけれど」

「報酬の分、手伝ってくれるよな?」

「うっ……。み、耳が痛い……」


 空いた方の手で片耳を塞ぐジェスチャーをした。ジャンが笑って、今度はあたいの手が引っ張られる。


「ついでにどっか寄ってこうぜ。ぱーっとやりたい気分だ」

「なら、峡谷の向こうに渡ってみる?」

「おっ、それもいいな。じゃあそうするか!」


 あたいたちは駆け出した。


 雲の間から、明るい光が差し込み始めた。




―― ―― ―― ―― ――


「……橋を通るのに通行許可証なんているんだなぁ」

「まさかね……」


 この日、あたいたちは結局向こう側へは渡れずに、職人街でぱーっとやったのだった。

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