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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 二章 とある最強家族
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34話 親子激突

 ジャンを連れて、あたいたちは件の峡谷を下っていく。道はあたいが最初に降りたところで、二回目なのにあたいにはかなりキツかった。


 ジャンは素知らぬ顔で、深呼吸ひとつもせずに最下層まで降りてきた。解せない……。


「へー。結構深いんだな」

「あっ。あたいと同じ感想抱いてる」

「誰でも思いそうなことだけどなぁ」


 あたいたちは空を見上げる。今日はまだ快晴だけれど、遠くに分厚い雲があったから、少しぐらいは雨が降るかもしれない。


 そんなことを考えながら、あたいはジャンの先を歩いた。


「こっちだよ」


 峡谷の端。暗い別世界へと歩みを進める。あたいはまた光源を発射して視界を確保して、ネズミを遠ざけた。


 まだキュウキュウと鳴き声がするけれど、ジャンがいるからまだ安心出来る。


 そうしてしばらく歩いて、目的地にたどり着いた。


「……こりゃ、すごいな」


 ジャンが、崩れ落ちた黒いゴーレムを眼前にしてそう呟いた。そこには倒した者への敬意の色が濃く表れていた。


 あたいがゴーレムのすぐそばに光源を配置すると、ゴーレムの体を住処にしようとしていたネズミたちが散っていった。


「あ、あたいのリュックだ!」


 あたいは自分のリュックに駆け寄る。そして持ち上げようとして、


「うげっ。血でベトベトだぁ……。うーん。これはもうここでバイバイかな。結構気に入ってたんだけれど」

「それはいいんだが、お前、ネズミの死骸をそのままで運ぼうとしてたのか。猟奇的だな」

「そう言われるとあたいも否定できない……っ!?」


 た、確かに……。そう考えると、どっちにしろ街の手前でこのリュックは手放していただろう。


 底の方が赤黒く染まったリュックに、あたいは両手を合わせた。今までお疲れ様。


「それで、こいつはなんなんだ」


 ジャンが剣でゴーレムを指した。


「ゴーレム……なんだろうけど、こんなところにいるような強さじゃないのよね。あたいの古代魔法も効かなかったし」

「あの発音出来ないやつか。……ってか、もしかしてだけど、ゴーレムが生物として認識されたんじゃあるまいな」

「生物?」

「ほら、その魔法の欠陥というか、出来ないことがあるだろ。さすがに人間にポンポン撃って破壊するなんて出来ねぇだろうし」

「ああ、なるほど!」


 あたいは脳内の辞書から、この魔法の詳細を引っ張り出す。


「……物質の消滅と生成を行う。尚、魔力で加護された物体や、魔導機などには効果がない」

「なるほどな。で、ゴーレムってのは?」

「一応、物質だけれど……これは、加護と魔導機であることの両方だと思うわ」


 確かゴーレムは魔導機のひとつでもあったはずだし、そもそも魔力で動いているから、加護も受けているだろうし。


「そりゃ効かねぇわな」


 ジャンがツンツンと切先でゴーレムの岩石をつつく。その拍子にガラリと崩れ、内側から紫色の水晶が現れた。


「ゴーレムの、核」


 と、そこで思いついた。


「そうだ!」


 あたいは目の色を変えてその水晶に飛びつく。触って確認してみると、やはり強力な魔力を感じた。


「これ、杖の素材にできるわ! やっと古代魔法の種類増やせる!」

「またあの最強の魔法増えるのか……。お前、実は凄いんじゃないか?」

「へへーん。そんなことないよー」


 でも、そう言われると嬉しいわ! あたいは上機嫌になって、水晶をローブのポケットに入れた。


 加工は……メロンさんに頼んでみよっかな。自分でも出来そうだけれど大変そう。


 ……やっぱり頼りっぱなしで悪いし、自分でどうにかしてみようかなぁ。


「おやおや」


 なんて考えていたら、昨日聞いたあの優しそうな声が、背後から投げかけられた。


 あたいは自然に。ジャンは緊張か身を固くして、機械仕掛けのような動きで振り向く。


 やっぱり来るだろうと思ってた。


「どうも、ルガムさん」

「やあやあ。……それと、久しぶり、かな?」


 笑顔で佇むルガムが、顔を伏せたままでいるジャンに話しかけた。


 しかし、ジャンは強く剣の柄を握ったままでいる。


「ちなみに、なんであたいがまたここに来ると思ったのか、聞いてもいいですか?」

「簡単だよ」


 やっぱり優しそうな笑顔をして、


「君は賢者だろうから、あのゴーレムを放っておくわけないだろう?」

「……あはは、バレてますよね」


 乾いた笑いで誤魔化しても、ルガムの視線はあたいから逸らされない。代わりにあたいが首を回して、助けを求めるようにジャンを見る。


 しかし、その時ジャンはすでにそこにおらず。


 直後、金属のぶつかり合う激しい音が、左耳を突き刺した。あたいはその方向を見る。


 ーージャンが、鬼の形相でルガムに斬りかかっていた。


「俺たちの邪魔をすんじゃねぇよ、クソジジイ」

「あはは。反抗期かな、ジャンくん。成長したね。感慨深いよ」

「適当なこと言ってんじゃねぇ!」


 ジャンが剣を振り切る。ルガムが笑って飛び退いて距離を取る。ジャンが舌打ちをして、その距離を一瞬で跳んで詰める。


「いい動きだ。やっぱり、成長したね」

「嫌でもな! それが、()()()()()()()だ!」


 ジャンはまた斬りかかって、横に縦に袈裟に次々と剣撃を放っていく。


 対して、ルガムはーー


 とても、悲しそうな笑顔で、全てを捌いていた。


「そう、だよね」


 感情を剣に込めて振るうジャン。また、一歩踏み込もうとしてーー


「じゃあ、僕には勝てそうにないかな」


 ジャンが踏み込もうとした地面は、ルガムに円形に切り落とされ、ジャンの踏み込みで、水の上を跳ねる石のように飛んでいく。


 それも、あたいの右足のすぐ傍を。


 固まるあたいの視線の先で、ジャンは足場を文字通り取られて、大きく転んでいた。


「まあ、これも親父の血、だよね」

「……けっ」


 ジャンが立ち上がって、ルガムを睨みつける。子供の目線にしてはいやに鋭い。


 けれど、それを微笑ましいものを見るかのように、ルガムは目を細めていた。


「……僕は別に君たちに危害を加えるつもりはないよ」

「どの口がそれを!」

「ただ、ちょっとジャンくんと遊んでみたくってね」

「ーーまた! ジャンくんジャンくんジャンくんって……! あんたは俺のっ!」

「じゃ、またね。賢者ちゃんと英雄の孫くん」


 ルガムはひらひらと手を振って、容易く崖を跳躍で登って行った。


 あとに残されたあたいたちは、なんとも言えない雰囲気の中で、ただ二人、突っ立っていた。


 あたいの心中は複雑だ。果たして、あたいのこの行動に価値はあったのか。ジャンの傷を広げ、ルガムの後悔を掘り下げただけではなかったのか。


 ……ううん。あたいは自分の行いが正しいと。正しくはなくとも、間違いではなかったと思おう。


「クソっ、クソっ、クソっ……!!!」


 ジャンが、悔しそうに空を見上げた。


「あのクソ親父が……!」


 空から一滴の雨粒が、ジャンの額に落ちた。

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