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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 二章 とある最強家族
34/79

33話 あたいの作戦!

「帰りました……」


 あたいは倒れ込むように扉を押し開けて、覚束無い足取りで薬を広げていたスペースに倒れ込んだ。


 薬が乗った紙の角がふわっと浮き上がった。


「って、凄い売れてる?!」

「当たり前だ。お前、自分の設定した値段わかってんのか?」

「必要最低限の価格設定だけれど……」

「それが破格過ぎたんだよ! ほれ、これがお前へのチップだ」


 メロンさんが水と重たそうな袋を持ってやって来た。


 あたいの目の前に置かれた袋は、着地と同時にジャランジャランと景気のいい音を立てた。


「それで、どうだった」

「ちょっと、強い敵がいて、負けちゃいました。代わりにルガムさんに助けていただきましたけど。あ、お水ありがとうございまーー」

「ルガム?」


 その疑問符はジャンのものだった。


 あたいは言ってはいけないことを言ったような気がして、メロンさんから水の入ったコップを受け取って固まった。


 これ、ジャンには言わないでおこうと思ってたのにーー


 そう考えているうちに、ジャンはすぐ側に立っていた。


「それ、本当か?」


 ジャンが少し緊張した顔つきであたいに問いかける。


 あたいはコクリと頷いた。


「そうか……」


 ジャンは肩を落として呟いた。やはり嬉しくない話だったのだろう。剣の柄を爪でカツカツと叩くのは悩んでいる時の癖である。


「で、でも! ……なんか、楽しそうにジャンのこと、話してたよ……?」

「そうか。……ま、あいつの話なんて、俺には関係ないからな。あいつにとって、俺は家族じゃないんだ。あんな小さな頃だったからって忘れるもんか」


 柄を叩いていた手が、柄を強く握りしめた。


「何が“ジャンくん”だ。ふざけるなよ。ーー俺は他人かよ、クソ野郎」


 あ、とあたいは心の中で呟いた。声に出なくてよかった。


 そうだ。ルガムは、ジャンのことを必ず“ジャンくん”と呼んでいた。それはルガムの決意と後悔の表れであって、決して、決して悪い意味じゃない。


 けれど、どう説明しようと、ジャンには届かないのだろう。あたいの言葉じゃ。


 だからと言って、あたいはどうすることもできない。ここにあたいが関与する余地は無いのだ。


「そ、そういえば、ジャンはいっつも何をしてるの?」


 あたいは無理やりに話の方向を曲げた。


「ん? ああ、賢者様の部屋から持ち出した剣をさ、直してもらってるんだ。俺はその素材を取りに行ってるのさ」

「困ったもんだ。やっすい仕事を受けて金を稼いで、そのついでに素材を集めて、それで俺に修理を頼んでんだ。さすがの血筋だなぁ?」

「ルトンの孫だからな!」


 すぐに調子を取り戻したジャンが、誇らしげに胸を張った。あたいは思わず笑う。


 調子が良すぎて、さっきまでの悩みが吹き飛んでしまいそうだ。


 あたいは少しだけ元気と勇気が出て、身を乗り出してジャンにお願いした。


「じゃあ、あたいからも一個だけお仕事頼んでいい?」

「なんだよ、改まって……」

「ちゃんとした依頼。報酬も出すから」

「うう……。なら、言ってみろよ」


 あたいはニッコリと笑って言った。


「あたい、今日ゴーレムに襲われて荷物を置いてきちゃったから、その回収! お礼は五〇〇ペリよ!」

「安い仕事だなぁ。言っとくけど、難易度が高かったらその分上乗せしてもらうからな?」

「…………う、うん」

「なんだ今の間は?!」


 いやぁ、だってさ……。きっとあたいの意図を知ったら、五倍とかにあげられそうだし……。


「ま、まあいいわ! よろしくね!」

「いいんだな? ほんとにいいんだな?」

「も、もちろんよ! 薬屋ヒヨの財産を舐めないで頂戴!」

「最近金欠だったはずだがなぁ」


 ジャンの指摘に、あたいは思わず破顔する。そう、こういうやり取りが楽しいんだ、ジャンと一緒にいると。


 しばらく笑ってから、あたいたちは二階の部屋で寝る用意をした。


 さあ、明日はあたいが頑張らなきゃ!

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