28話 リリバの街
「おー、見えてきた見えてきた」
「ほんとっ?!」
背伸びしたジャンの目線に合わせるようにぴょんぴょんと跳ねると、なだらかな長い坂の向こう、確かに次の目的地が見えた。
それにしても、ジャンの成長速度(主に身長)が半端じゃないのだけれど。いつの間にかあたいの頭二つ分ぐらいまで差が……。
あたいはジャンの肩に手を置いて、体重を掛けながらまた跳んだ。ジャンが嫌そうに唸った。
次の街は、大きな峡谷に跨って繁栄している街だ。地下資源が豊富で、資源の生産地であり、いろいろな武器や道具の名産地だ。
ちなみに、この街に来ることを何よりも楽しみにしてたのはジャンである。
「うおー、すっげー……。最近こいつも軽くなってきたから、新しく重いのが欲しいんだよなぁ……」
なんてブツブツ言いながら愛おしそうに自分の剣の柄を触る。
「そんなに好きなら三つ持てば?」
「いや、それは無理だろ。だってお前の荷物の半分も持って、賢者様の剣持って、愛剣持って……ゴリムキマッチョになっちまうよ!」
「それはあたいも嫌だから、二つまでにしておいてね」
ゴリゴリのジャン……。正直、キモチワルイかも……。
うげーっと顔をしかめる。ジャンもうげーって顔をしていた。よくわかんないわね。
まあ、何はともあれ、リューリの街から三十日。
「峡谷の街、リリバにとうちゃーく!」
「まだ先だけどな」
あたいは大きく両手を上げた!
ーー ーー ーー ーー ーー
大きな峡谷の両岸に跨る街。リリバ。
あたいたちが居るのは、武器や防具の生産を行う職人街。そこら中の煙突から煙が絶えず伸び上がり、熱気でローブのあたいは汗ばむ。
グレーの石畳にオレンジのレンガ作りの家々は、どこか幻想的なコントラストで、不思議な感覚だ。
そんな由緒ある街の中で子供が二人。
「あたい、この街怖い……」
「大丈夫だって。うおー、すげー!」
スキップしそうなほど上機嫌なジャンの後ろで、あたいは縮こまりながら背中を追う。
こ、この街怖いわ。そこら中、鉄の剣に鋼の鎧にサーベルにナイフにナイフにナイフ……。ちょ、ちょっと物騒すぎない?!
それに、街を歩く人々も半分は厳つい装備の男たち。……あたい一瞬で負けちゃいそう。
「俺さ、この街は知ってんだ! なんてったって、じっちゃんの装備は全部ここのだからな! もちろんこれも!」
「へ、へぇ。そうなんだ……」
「いやー、懐かしい! そうだ! あいつの家に泊めてもらおう! なあなあ、それでいいよな?」
「もう任せる……」
すれ違うモヒカンの大きな男の人をチラリと見て、あたいは勝手にすくみ上がる。そ、そろそろメンタルが持たなそう……。
こんな街中じゃ、万が一の時にも魔法なんて使えやしない。あんな鎧じゃ勝てない……。賢者の敗北ね。こうして魔法使いは討伐されるのかしら。
「よーし、おっちゃんの店に行くぞー!」
「よ、よろしくー」
あたいのか細い声はガシャガシャという鎧の音にかき消された。
早く対岸の平和な方に行きたいな……。