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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
二部 一章 リューリの街
24/79

23話 三人の子供

「ただいま!」


 よーし、エレちゃんと一緒にチョコバナナ食べるぞ!


 と、エレちゃんの部屋に駆け込んだ時。


「ふぇっ? ひ、ヒヨ。おかえ、ぐすっ、なさい……ぐすっ」


 ジャンの前でエレちゃんが泣いていた。


「ジャン? あんた……」

「いや、俺はただここまでの経緯を俺なりに話しただけだから! だから杖を仕舞え物騒な!」

「良いお話でした……ぐすっ」


 なんだ、そういうことだったのね。てっきりジャンがエレちゃんのことを泣かせたのかと。まあ、ジャンが泣かせたっていうのにかわりはないけれど。


 あたいは杖を納めて、代わりに紙のパックを差し出す。


「はい、エレちゃんとジャンにお土産!」

「ん? なんだこれ……。おお、美味そう」

「チョコバナナ、ですね! 私も食べるのは久しぶりです」


 二人はチョコのかかっていないところを持って、口に運ぶ。あたいも一緒に食べる。


「おお! 美味い!」

「でしょ〜? あたいも驚きの美味しさ!」

「私も好きなんですよ〜」


 もぐもぐと三人で頬張っていると、遅れてやってきたヴェールとグローブがあたいたちの近くに腰を下ろした。


「可愛いらしい光景でございますね。そう思いません?」

「……同意だな。ほら、三人とも口にチョコがついてる」


 あたいたちは揃って顔を突き出し、グローブは小さくため息を吐いて、けれどテキパキとあたいたちの口周りを拭いた。


「えへへ〜。あたいたちも子供ね」

「そりゃそうだろ。旅をしてるからって大人にはなんねーよ」

「わかってるよ〜」

「あ、あの。私はこの国の法的には一応成人してるんですけれど……」


 何かエレちゃんが抗議していた気がするけれどスルーして、あたいは自分のリュックの中身を取り出した。


「材料は九割買ってきたわ。とりあえず、これで作れるところまでは作っちゃうね」

「ヒヨ様。九割ということは、何か足りない材料があるのですか?」


 あたいの並べた材料を眺めながら、ヴェールが尋ねる。あたいは頷く。


「うん。あと二つだけ足りないのがある。けれど、片方は記述がおかしいから、そっちはあたいがいろいろ試すわ。問題はもう一個」


 あたいはここまでにメモをしておいた紙を取り出す。


「“ドククライの肝臓”これだけはどうにか手に入れないと」


 案の定、この国のどんな怪しいお店を巡ってもそんなものは無かった。当然だ、魔導書に書かれるような材料は、賢者にしか扱いようがないのだから。


 あたいは雑貨屋で買ったここら一帯の地図を広げた。


「ドククライが居そうなところ、なんてそうそう見つからないよね……」


 あたいたちが来た方向の森は穏やかで、毒の片鱗すら無かった。この先の方向も森ばかりで、そもそもドククライが出るようなところを通る人間はいない。よってこっちにもいないだろう。


 だとしたら、もっと遠く……。


「……これはこの街の歴史とも関係があるのだが」


 唐突にグローブが口を開いた。


「……この街の東にある岩山。そこには毒を食らう怪鳥が住むとされていた。それ故に、人々はそこを避けどうにかこの美しい地にすんでいた。幸い、毒の無いこの湖にはやつらも近づかなかった。それが、ここだ」


 グローブが指したのは、あたいたちがやってきた洞窟、その山。


「近年、ようやくやつらを回避しながらでも通れる道。この洞窟が作られて、僕たちの国への行き来は楽になった」

「へぇ……。じゃあ、ここに行けば?!」

「ええ、手に入れることも可能でしょう」


 ヴェールがあたいを肯定しながらも、難しい顔をした。


「けれど、かなり危険です。古来からその山の開拓は考えられていたようですが、何度も失敗してると、そう聞きますもの」

「でも絶対必要なんだもん。……やるしか、ないね」


 あたいはジャンに視線を向ける。ジャンは微笑みで頷き返した。きっと、久しぶりに剣を振るえるのが嬉しいのかも。


 あたいはふっと笑う。しかし対照的にエレちゃんは酷く不安な顔をしている。


「そ、そんな! ヒヨは賢者の弟子。そんな方をそんな危険な地には……」

「じゃあ、あたいがいなくて誰も怪我しない?」


 あたいはエレちゃんに聞き返した。エレちゃんは言葉を詰まらせる。


「賢者の弟子だからこそ、あたいは頑張るんだよ。賢者の弟子だから、あたいは危険に立ち向かうの」


 あたいは胸の前に杖を掲げて見せた。


「だから、任せて」

「……はい」


 あたいはぎゅっとエレちゃんを抱きしめた。


 それにきっと、お師匠様はこう言うだろうから。


『これも修行だ』

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