22話 司教さんはカップル?
「わあ〜。すごい商店街!」
この街一番だという商店街を散策しながら、あたいはそんな声を漏らす。
広い一本道の左右をこれでもかと人が埋めている。二階建てや三階建ての家並木はどれもカラフルで飽きさせない。
ちなみに、この商店街はこの湖の周りを街とともにぐるりと一周しているらしい。すごい大きさね。
あたいはその中をヴェールとグローブとともに歩く。高いところの看板の内容はどれも魅力的で、あたいとジャンで来てたら延々と見て回っていたことだろう。
けれど、今は二人がいるからそんな子供らしいことはできなくて……。
「あら、チョコバナナなんて珍しいものも並んでいるのですね」
……チョコ? バナナ?
あたいちらっとヴェールの方を見ると、ヴェールは待ち構えてたかのようにこちらを見ていた。そして、ニヤリと笑った。
「興味がおありですか?」
「うっ……や、でも、材料を」
「……ここは食べ歩きも盛んだからな」
た、食べ歩き?!
あたいはここまでに読んできた様々な雑誌を思い浮かべた。
聞いたことの無い食べ物たち。綺麗な雑貨。美味しそうな食べ物にオシャレな服。それとご飯。
都合よく解読に力を尽くしていたあたいの脳みそが甘いものを欲した。
「……食べる」
「では買ってきましょうか」
「……俺が行ってこよう」
「よろしくお願いします!」
グローブさんがのそのそと歩いて行き、ちょっと並んでから紙皿に乗せられたチョコバナナというものを買ってきた。
不思議な形だ。パッと見はキュウリ。けれどクリーム色で、チョコの茶色と合わさって美味しそう。チョコは久しぶりに食べるだろうか。
「あっ、お金は払います!」
「いえいえ、構いませんよ。ヒヨ様にはやっていただくことがあるのですから」
「でも、自分のお金で買いたいの。せっかく頑張って貯めたんだもん。あと、使い所もないし」
実際、それほどお金は必要じゃない。必需品は案外安いし、滅多な時じゃなきゃ、ご飯に贅沢なんてことも出来ないから。
この街の良い宿屋に泊まるぐらいのお金はあるんだもん。
「そうですか。けれど……」
「……ヒヨ様。こいつはヒヨ様を甘やかしたいだけだ。だから、好意を受け取ってやってくれ」
「ちょっと、グローブ!」
「……真実だからなぁ」
ヴェールがグローブの脇腹を小突く。グローブは依然淡々としながらあたいを見つめた。
うう、そういうことなら……。
「じゃあ、これだけ貰う。でも、本当にあたいが欲しいものは自分で買うからね!」
「ええ、それで構いませんよ。では、どうぞ」
本当にわかってるのかな、なんて目線をにこやかなヴェールに向ける。しかしそれを気にもとめてないみたい。
渋々、けれど内心わくわくしながらチョコバナナを受け取って、パクリ。
「ーー甘い! 美味しい!」
「そうでしょうそうでしょう?」
「……なぜお前が得意そうなんだ……?」
チョコとバナナってこんなに合うのね! バナナを食べたのは初めてだったけれど、これすごい美味しい! 甘くて甘いわ!
夢中で食べていたら、いつの間にか紙皿の上は空になっていた。
「……また来たら食べるわ!」
「ええ、そうしましょうね」
残念さをなんとか押しとどめて、あたいはそう心に決める。
「あ、あと、帰る時にまた買ってもいい?」
「ええ、もちろんです」
やったぁ!
「それじゃ、エレちゃんの分も買ってかなきゃ!」
ついでにジャンの分も、ね!
そう思わず口に出したあたいを、二人は優しい目で見ていた。
「……ええ、是非、そうしましょう」
「二人もいいよ?」
「……恐れ多い、な」
そうグローブが言って、二人は顔を見合わせて笑った。
あたいはなんだか眩しいものを二人の間に感じるのだった。