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あたい賢者になるっ!   作者: 今野 春
一部 二章 ヒヨっ子賢者の決意
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16.5話 魔法使いになる

 ……行ったか。


 駆けていく()()の少女。自分の弟子であるヒヨが去って行くのを見て、私は安堵する。


 ずっと付けられていたこの首枷。魔法を無力化するなどと言っていたが、案外そうでもないらしい。だから、ヒヨを赤髪に変えることができた。


 これだから、人間には魔法を使わせられないのだ。


 さて、不自然には思われるだろうが、堂々と「青髪の弟子」と言ったんだ。赤髪のヒヨは誰も追わないだろう。


 だがーー


 ヒヨのあの美しいサファイアのような髪が失われるのは、いささか不本意だったが。


「おい、魔法使い。なんだ今の遺言は」


 そう若干の苛立ちを見せるのは、『魔法使い狩り』を名乗るメガルハ。


「なんだも何も、あれが遺言だ」


 私はあれを伝えたかった。それに、あれはただ観衆に向けていたんじゃなく、ヒヨただ一人に向けての遺言だ。何を聞かれようとも、どう答えるか迷ってしまう。


 ああ、そういえば彼はあの伝言を受け取ってくれただろうか……。


 他のことを考えているのに、メガルハは独り喋る。


「ふん。命乞いぐらいしてみせろ。『俺は魔法使いじゃない』みてえにな」


 けたけたと下品な笑い声をあげるメガルハに、私は不快感を覚え意識を向ける。


 そして、尋ねる。


「それは、他の魔法使いの遺言か?」


 その問いに、メガルハはすんなりと、たった一言答える。


「ああ、そうだ」


 ――ああ、やはり、こいつは。


 ただの、勘違いした可哀想で馬鹿な人間だ。


 そして諦めたように広場に目を落とす。処刑を見せびらかすために少し高くなったこのギロチンからは、皮肉だが観衆やら何もかもが見て取れ――


「メガルハ」

「ああ?」


 私は、口元をゆがめながら言う。


「警備はしっかりとしておいた方がいいぞ」

「はあ? 何言って」


 不機嫌そうに私を見るメガルハの豪華な服に――たいまつが。


「うあ? あっちいいいいいぃぃぃ!」


 そのまま火が燃え移り、メガルハを火に包む。

 が、完全に飲まれる寸前で服を脱ぎ捨て、それを放り投げる。と、下から悲鳴があがった。


「誰だ?! たいまつなんか投げやがった野郎は?!」


 半裸で怒り狂うメガルハ。そのメガルハに向けて、答えが発せられた。


「賢者に恩がある者だ」


 ああ、なんと人間とは愚かなんだろう。こんな場所、私一人が手を汚すだけでかまわないというのに――


「ジャンを助けてくれた、魔法を見せてくれた恩です。賢者様」


 それは、ルトンとその他たくさんの老若男女の姿。


 なるほど、道理でジャンの近くにいないと思ったら。そんな重武装まで。


 集まっていた観衆の半分以上。その誰もが目に怒りと、そして決意をみなぎらせている。


「……まったく」

「やれえええええ! 皆の者おおおおお! 恩返しの時じゃああああぁぁぁ!」


 うおおお、と大きな歓声とともに、剣や槍を持った傭兵たちが、対抗してくる兵士を倒す。


 金属がぶつかる音。火が燃え移る音。関係のない、人々の悲鳴。


 だが、関係ない人々には手を出さない。


「な、なんだあいつら! おい! もっと兵を出せ!」


 怒り、だが困惑の表情を浮かべたメガルハが、近くの兵に向けてそう吐き捨てる。


 そして、俺に荒々しい足音を立てて向かって、私に怒鳴る。


「てめえの仕業か!」

「いいや、違う。あんなやつらは知らない」


 なぜなら、助けた一人一人なんて覚えてられないだろう。


「じゃあなんだ! あいつらは! 魔法使いは、邪悪な存在で――」


 そうわめきちらすメガルハの前で、私はーーギロチンを、木っ端微塵に粉砕した。


「……は?」


 木と鉄の破片が飛び散る中、唖然とするメガルハの前で、私はただ告げた。


「私は、賢者だ」


 今までに人を傷つけたことはない。野菜を作れる人間を尊敬しているし、彼らがいないと私も生きていけない。


「だが、今からはーー魔法使いとなろう」


 私は、メガルハの左耳に魔法の風の刃をかすらせる。赤い液体が、耳に珠の雫を作る。


 これで、私も魔法使いか。


 どこか大切なものを失った気もするが、それよりも大切なことがあるのだ。


「今まで魔法使いと間違えて賢者を数多く殺めてきた、哀れな『魔法使い狩り』よ!」


 ヒヨは、誰にも追わせない。


「本当の魔法使いの力、見せてやろう。――さあ、殺してみるがいい」 

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