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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メイストーム

作者: 青衛

桜の咲く頃のお話

「すみません、今晩泊めて頂けませんか?」


 暴風が窓を叩く夜、一人の女が俺の部屋のインターホンを鳴らしていた。


 世間ではとあるウイルスが流行っており、外に出ることに自粛を求められるどころか、通学することが禁止されている。

 そんななか、いきなり知らない女がやって来たのだ。


 俺は何が何だか分からなない。


 しかし、どこかその声に懐かしい気がして、俺は取り敢えず女の話をインターホン越しに聞くことにした。


「取り敢えずお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「実は家賃払えなくて追い出されてしまったんです。

 それで、途方もなくさまよっていたら、たまたまここにたどり着いて……」


「この大嵐の中でですか?」


 うん、どうも胡散臭い。

 何か隠し事の匂いがする。


「はい、この大嵐の中さまよっていたんです。

 せめてシャワーだけでもお願いできませんか?

 私はこのアパートの廊下で寝ますので」


「いやいや、この嵐だったら廊下でも濡れるでしょう」


「でも、他に行くところもないし。

 このアパートに住んでいるのあなたしか居ないし」


 俺の住んでいるアパートは、大型のマンションができる予定地にあり、入居者は次々に転居していった。

 そのため、残る住民は俺一人であり、俺も明後日に引っ越す。


 話は戻るが、もし女を俺が家に泊めることを拒否すれば、女はこの大嵐の中廊下で寝なければならない。


 俺は何か危険な気がするが、取り敢えず女を一晩泊めることにした。

 この大嵐の中、廊下で寝させるのは哀れすぎる。


「分かりました、一晩だけなら大丈夫です」


「本当ですか。

 ありがとうございます」


 女の死にそうな声がパッと明るくなった。


 俺は恐る恐るドアを開ける。

 女を一度見た後、女の他に誰も居ないことを確認してから女をもう一度見る。


 女はどこかで見覚えのある気がする色白の黒髪少女だった。

 少し肉付きの良い顔立ちだが、体は全体的に痩せているように見える。

 目は一重できりっとしており、顔立ちは非常に整っている。

 雨で服が濡れて透けている。

 そのため、肌に密着した服越しに全体的に凹凸の少ない体つきの少女だということが分かる。

 非常に目のやり場に困る。


 このような容姿故、少女を見た瞬間、俺はおそらく家出少女な気がした。

 おそらく高校生だろう。


 少女は俺を見て涙目で感謝を告げる。


「ありがとうございます」


「いいから早く入って、シャワー浴びなよ。

 俺のでよければ服貸すし」


「お願いします」


 俺は少女を風呂場に案内し、女性でも着れそうな服を用意して置いてから、夕飯を作ることにした。




 *****




 少女が風呂場から上がってきた頃、夕食は完成していた。

 晩飯は社長のご飯が1パックずつと一人用の小鍋を二人で分けることにした。

 雨に濡れて寒かったであろうから、温かいものがいいだろう。


「あの、夕食まで用意して頂き、本当にありがとうございます」


「いえいえ、ウイルスのせいで大学にも行けず、1人で寂しい生活を送っていたので、話相手が出来て良かった。

 俺は(れん)と言います。

 あなたの名前を聞いてもいいですか?」


(さくら)と言います。

 恋さん、今晩はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 俺達は食事を始めた。


 本当は話が詰まるのと気まずいので、テレビでもつけたいところだが、生憎貧乏大学生なので金がないため、テレビは家にない。


 しばらくして、桜が話しかけてきた。


「あの、恋さんはどこの大学に通っているんですか?」


「竹丘大学の商学部に通っているよ。

 桜さんは普段何をしているの?」


 俺は学校関係の話題に触れるべきではないなと思い、相手も話しやすそうな話題に変えようとする。

 高校生と知ってて泊めたっていうことは、非常に不味いのだ。


「私は暇なときはだいたい絵を描いてます。

 特に風景画好きで、よく描いてます」


「へー、絵描くのが好きなんだ。

 俺は高校時代美術部で漫画とかアニメの絵を描いてたけど、あんまり風景画は描かなかったかな。

 誰かに教えてもらったりしているの?」


「いえ、独学です。

 でも、私は今年から梅坂大学の美術部に通う予定で、東京に来ていたんです。

 でも、あのウイルスのせいで大学は休校することになって、バイトも見つからず、アパートの家賃も学費も払えないなと思って……。

 その、これ以上考えてもしょうがないなと思って、何も持たずに散歩していたら、当然雨が降ってきて……」


 俺の家に上がる前に起こったことを思いだした桜は、とうとう泣き始めた。

 何故か分からないが、俺も涙が溢れてきて桜ほどではないが泣いた。

 そのため、晩飯の味は途中から分からなくなった。

 鍋を食べると何だか心が温まる気がすること以外、何も感じない気がした。

 そう、俺は信じた。




 *****




 桜と晩御飯を食べた後、二人で食器を片付けている。


 寝るにはまだ時間がある。

 俺はこれからどうするか考えていた。


「さて、晩飯を食べ終わった。

 しかし、まだ寝るには早い。

 何かしたいことはあるかね」


「そうですね、何しますか?

 私は何でも大丈夫ですよ」


 何だか、デートのプランを考えている気分である。


「音楽とかは好きかね」


「好きですよ。

 高校時代好きだった人の影響で、ミスベビとかよく聴きますね」


「へー、俺も結構ミスベビ好きだなぁ。

 特に『火花』と『スターになれたら』が好きかな」


 喋り方についてはスルーだ。


「私も『スターになれたら』好きなんですよ。

 地元にいるときよく聞いてたました」


「俺もこっち出てくる前よく聴いてた」


 涙目のまま、くしゃっと笑った桜に思わずドキッとする。

 それを見た俺は、思わず本音を呟いた。


「泣いてる顔より笑った方がかわいいな」


 桜は少し顔赤らめてこう言った。


「本当にこの後何しても大丈夫ですからね。

 ここまで良くして頂いたのですから」


 俺の頭の中に、一瞬邪神が降臨したが急いで追い出した。

 何故か分からないがそれをしてはいけない気がする。

 桜もそれをすることに満更でもなさそうだ。

 むしろ、誘っている節まである。

 だが、何かが引っかかる。

 しかし、それが何か思い出せない。


「取り敢えず、音楽を聴かないか」


 俺はこの問題を一旦保留にした。

 この後、俺はこの件保留にしたことと桜についての記憶を思い出せなかったことをひどく後悔することになる。




 *****




 結局、流されるままに桜を抱き、桜について何も思い出せないまま俺は寝た。

 俺は自分自身に延々と嘲笑われる夢を見て起きたとき、桜はテーブルの上に置き手紙を残して居なくなっていた。


 手紙にはこう書かれていた。



『親愛なる恋さんへ


 この度は大変お世話になりました。


 恋さんのおかげで色々吹っ切れました。


 おかげでもう思い残すことはありません。


 さようなら末永(すえなが)先輩。


 大嵐(おおあらし) 桜より


 P.S

 貸して頂いた服を洗濯して返すことができず、申し訳ありませんでした。

 貸して頂いた服は洗面所に置いてあります』



 俺はすぐに追いかけようとしたが、服を着ていないことに気づく。

 俺は洗面所にあった彼女の着ていた服を着て、外に駆け出した。

 服がほんのり温かかったので、まだそれほど遠くに行ってないことが分かる。


 アパートを敷地を飛び出して、直感的に右に曲がり、近くの公園に向かって走る。


 公園には一本の大きな桜の木がある。

 昨日の嵐のせいで、桜の花びらはほとんど散ってしまっている。

 その下で女が鮮血を流して倒れていた。


 俺は女のそばに行って女を抱き寄せる。

 その女は桜だった。

 隠し持っていたナイフで自分の首を掻ききったらしい。


 辺りは桜の花びらと血で赤く染まっていた。




 *****




 長く悲しい夢を見ていた。


 だが、起きると同時に今日見た夢がどんな内容の話だったか忘れてしまった。


 携帯で今日の天気を確認すると、どうやら夕方から雨か降り、大嵐になるらしい。


 明日には桜は散ってしまうだろう。

この話の続編であり、作者の新作である『小さな港町には天狗が住んでいた』もよろしくお願いします。


URL: https://ncode.syosetu.com/n3665gf/

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