02-23 刀完成
モーガンから『抜けない刀』の話を聞いた翌々日、ゴローは単身『ブルー工房』へ向かった。
折から真夏の炎天下だが、ゴローにとってはなんということもなく、『足漕ぎ自動車』を駆って短時間で到着。
「ゴローさん、ようこそ! できてますよ!!」
すっかりお馴染みになったアーレン・ブルーが出迎えてくれる。
「さあさあ、どうぞ」
いつもの応接室に通されると、工房の職人でアーレンの秘書、ラーナが冷たいお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「どうも」
『足漕ぎ自動車』を漕いできた、という気遣いだろうが、ゴローは汗をかいていない。とはいえ、
「ああ、冷たくて美味しい。ありがとう」
と世辞を言う気遣いくらいはできる。
「さて、ゴローさんも一息ついたところで、刀を見ていただきましょう。ラーナ、頼むよ」
「はい」
アーレン・ブルーが秘書のラーナに声を掛けると、彼女は革の袋に包まれた3振りの刀を運んできた。
「できるだけゴローさんのご希望に添えるよう作らせたんですが」
3振りの拵は共通。
鍔は青銅、目貫や柄頭、縁などの金具は銀。
鞘は黒塗りだが、さすがに漆塗りではない。そもそも漆があるのか不明だ。
「ああ、いいな!」
ゴローの『謎知識』が、これぞ『刀』だと言っていた。
「研ぎも念入りにやらせてもらいました」
アーレン・ブルーはマスクを着用して、一番短い刀を抜いて見せた。
ゴローの注文通り、ほぼ鏡面仕上げになっている。
「うん、いい感じだな」
ゴローもまた、ポケットから出したハンカチでマスクをして、残る2振りを抜いてみて、その仕上がりに満足したのだった。
「試し切りをしてみますか?」
「うん、そうだな」
アーレン・ブルーの提案に、ゴローは二つ返事で乗った。彼自身、切れ味を試してみたかったのだ。
(……危ない人にならないようにしないとな)
そんな自戒を心に刻みつつ、工房の中庭に出る。
「剣を打った時の試し切り用の巻藁を使いましょう」
この工房でも剣を打っているので、こうした準備はいつも出来ているのだそうだ。
「じゃあ、これで」
ゴローは一番長い刀を手に取った。彼の体格にはちょうどいいくらいだ。重くは感じない。
抜刀術はできないので、すらりと抜いて構え、
「やっ!」
『謎知識』にあるような気合いと共に、左上から斜め右下に振り下ろした。
「うわあ」
アーレン・ブルーが声を上げる。
ほとんど抵抗を感じずに巻藁が両断された。
「凄い切れ味ですね、ゴローさん」
切られた巻藁の断面を見ながらアーレンが言った。
「ほら、藁が潰れていないでしょう? 切れ味のよくない刃物で強引に切ったらこうはなりません」
「なるほどな」
その解説は理解できた。
「じゃあ、これでアーレンも試してみないか?」
中くらいの長さの刀を、ゴローは差し出した。
「いいんですか?」
「ああ。できるだろう?」
「それは、工房をやっているわけですから」
そう言いながら、アーレン・ブルーは刀を受け取った。
今度は中くらいの刀。重さを含めると、彼にはほどよいサイズのようだ。
「では、行きます!」
アーレン・ブルーはゴローとは逆に、右上から左下へと切り下ろした。
「うわあ」
さっきと同じ声を上げるアーレン。
2本目の巻藁は、すっぱりと切り落とされていたのである。
「す、凄いです、ゴローさん! これ、今まで使ってみた中で最高の切れ味ですよ!」
「そりゃよかった。君のお墨付きがあれば、名刀と言えそうだな」
「もちろんですよ!」
そして残るは一番短い刀だ。
ゴローは、そこにいたラーナに、
「試してみるかい?」
と尋ねたのである。
「よろしいのですか?」
ラーナはアーレンの方を伺う。
「ゴローさんがいいとおっしゃるんだから、やってごらん」
「は、はい」
ラーナは一番短い刀を手にすると、抜いたあと鞘をそっとアーレンに預けた。そして試すように2振り、3振り。
かなり小柄なので大丈夫かと心配したが、そこはやはりドワーフ、膂力は相当あるようで、刀に振られてはいない。
「ではいきます」
ラーナは刀を右肩に担ぐように構えると、斜め左下へと振り下ろした。
「やっ!」
「おお、見事」
その剣筋は確かなもので、巻藁は見事に両断されたのであった。
「すごいですね、この剣……じゃなくて刀。あちしはまだ100振りくらいしか試したことないのですが、その中では群を抜いて切れ味がいいですよ!」
「……あちし?」
「……あ」
「ゴローさん、ラーナは時々方言が出るんで……」
すかさずアーレンがフォローした。
「い、いや、それはいいんだ」
ゴローも、方言や訛りをどうこう言うつもりはない。
「それより、100振りって……すごいな」
「……鍛冶系のドワーフなら普通ですよ」
アーレン・ブルーが説明してくれた。
「僕だってこれまで150振りは試し切りをしてきましたからね」
「さすがだな」
工房という職業の凄さを改めて思い知ったゴローであった。
「ええと、で、この『刀』、『切る』ことに関しては申し分なしですね!」
アーレン・ブルーが太鼓判を押してくれた。
「そう言ってもらえてほっとしたよ」
ゴローは3振り分の代金として150万シクロを取り出した。
それを受け取ったのは秘書のラーナ。
きちんと枚数を数え、
「はい、確かに」
と言って領収書を発行してくれた。これで手続きは終わりである。
「それじゃあ、もらっていくよ。いい仕事をありがとう」
ゴローはそう告げて、革の袋に刀をしまい、肩に担いだ。
「また何かありましたらどうぞ。ゴローさんは面白い仕事を持ってきてくれますので、いつでも大歓迎ですよ!」
というアーレン・ブルーの声に送られ、ゴローは『ブルー工房』を後にしたのだった。
* * *
「ただいま」
「お帰りなさいませ。モーガン様がお見えです」
『足漕ぎ自動車』で屋敷に帰ると、『屋敷妖精』のマリーが出迎えてくれた。
そして、モーガンが来ているという。
「ちょうどいいかな?」
ゴローは刀の入った袋を肩に担ぎ、庭へと歩いていく。
「おおゴロー、帰ってきたか」
そこには、日除けの下でアイスティーを飲むモーガンがいた。
「ゴロー、お帰り」
「ゴローさん、お帰りなさいなのです」
もちろん、サナとティルダも一緒にアイスティーを飲んでいる。
「モーガンさん、いらっしゃい」
ゴローはモーガンに挨拶すると、椅子に座った。すぐにマリーがアイスティーを出してくれた。
それを半分ほど飲んだ後、モーガンが口を開いた。
「献上品を『ブルー工房』で作っていたんだろう? その包みか?」
「ええ、そうです」
ゴローは、ちょうどいいのでモーガンに見てもらおうと、一番長い刀を袋から取り出した。
「これです」
ゴローはモーガンにそれを渡した。
「おおっ! これがゴローたちの作った『刀』か!?」
「はい」
モーガンはゴローに断ってそれを抜いてみると、
「ふうむ……素晴らしい出来だな」
と、讃辞を述べたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今回をもちまして、2019年の更新は終了とさせていただきます。
次回更新は2020年1月7日(火)14;00の予定です。
20200623 修正
(誤)「……鍛治系のドワーフなら普通ですよ」
(正)「……鍛冶系のドワーフなら普通ですよ」




