02-17 剣と昼食
剣の稽古をつけてもらったことで、より剣の話がしやすくなった。
ということでゴローは、
「剣って、どういうものがよいのでしょうか?」
とストレートに聞くことができた。
「うむ、護身用に一振り持っておくこともいいからな」
モーガンが言うと、ローザンヌ王女もまたそれに合わせて説明してくれた。
「腕の力に合わせないと、剣に振られてしまうから、長さと重さが大事だな。……ですね、師匠?」
「そのとおり。もちろん剣なので切れ味も大事だが、一番は使いやすさだな」
「なるほど……」
ここでサナも助け船を出してくれた。
「ローザさんはどのような剣がお好みなのですか?」
ストレートな質問だが、この場では不自然ではない。
「うむ、私か? どちらかというと『切る』剣が好みだな」
ローザンヌ王女は言った。
「いくら鍛えても、力は男性に劣るから、真っ向から力比べ、ということはやらぬしな」
そこへモーガンも口を添える。
「姫様の剣術は『受け流し』と『撫で斬り』が本質だからな」
「つまり、剣と剣を叩き付け合うような切り結び方はしないということですか?」
ゴローも、自分の印象で質問してみると、
「おお、そうだ。そんなところだ」
モーガンは満足げに頷いたのであった。
「それから『抜剣術』というのがあってな」
モーガンはさらに説明を続ける。その語感から感じたことをゴローは口にした。
「『抜剣術』といいますと、剣を抜きざまに斬る、というような技ですか?」
「おお、そうそう。よくわかったな」
モーガンが嬉しそうに言った。
そしてローザンヌ王女を焚きつける。
「姫様、ゴローに見せてやってはいかがですかな?」
「お、そうだな」
ローザンヌ王女は椅子から立ち上がり、辺りを見回す。
「何か斬ってもいい丸太のようなものはないか?」
「あ、それでしたらこちらをどうぞ」
『屋敷妖精』のマリーが、長さ1メル、太さ5セルくらいの丸太を持ってきてくれた。
「おお、これはいい」
元は枝だったのか、ところどころで曲がってはいるが、試し切りには問題ないと、ローザンヌ王女はそれを地面に突き刺して立てた。
「では、いくぞ」
テーブルに置いていた剣を腰に提げ、右手を柄に添えた。
そして丸太に対峙すること数秒。
「えやっ!」
裂帛の気合いと共に抜剣が行われ、丸太は見事に切り落とされた。
(居合抜きと似ているな……)
ゴローの謎知識がそう言っている。
(剣の重さが知りたいが、持たせてくれというのも不自然だろうしな……)
などとゴローが考えていると、サナがローザンヌ王女に、
「ローザさん、よかったら一度、剣を持たせてくれませんか?」
と申し出てくれたのである。
「ん? いいぞ。ほれ」
申し出たのがサナだったからか、ローザンヌ王女は気軽に剣を差し出した。
もちろん鞘に収めた状態で、だ。
「ありがとうございます」
礼を言ってサナはその剣を受け取る。
「……思ったより……重い、です」
サナの力なら、軽いことはあっても、重いと感じることはないはずだが、そこはそれ、うまく演技しているようだ、とゴローは感心した。
「ちょっとだけ、抜いてもいいですか?」
「うむ。怪我をしないよう、気を付けてな」
「はい」
王女の許可を得て、サナは剣を抜いた。
「綺麗……」
手入れがよく、刃こぼれも錆もない、見事な剣であった。
「ありがとうございました」
剣を鞘に戻し、サナは礼を言って王女に返却した。
「うむ、満足してもらえて何よりだ」
* * *
それからもいろいろと雑談をしたのだが、
「そろそろ、お昼」
サナが言い出した。
「支度はできております。外でお召し上がりになりますか?」
さすが『屋敷妖精』、マリーはちゃんと昼食の準備もしてくれていた。
「うん、そうだな。外で食べよう」
「かしこまりました」
「私もごちそうになっていいのか?」
ローザンヌ王女は済まなそうに言うが、モーガンは鷹揚に、
「姫様、ここの食事は絶品ですぞ」
と、我がことのように自慢した。
「ほう、それは楽しみだ」
そこへ、マリーが分体二体と共に、昼食を持ってやって来た。
「お待たせいたしました」
「お、おおお!?」
初めてマリーの分体を見た王女はのけぞるほどに驚いていた。
だが、この日の昼食である冷スープを一口飲むと、
「美味い!!」
と、一言。あとは無言でスープを飲み、さらにパンを一口。
「美味いっ!! これは、まさかハチミツか?」
この日はトーストにハチミツを塗ったものが出されていたのだった。
さらにさらに、
「うむ!? こっちはハチミツではない……メープルシロップか!? これも美味いな……!!」
「姫様、もう少しだけ言葉を……」
美味い美味いと連呼するローザンヌ王女を見ていられなくなったか、モーガンがやんわりと窘めた。
「う、うん、……美味しい! ……これでよいか?」
「はい、まあ、結構です」
「しかし、モーガンの言うとおり、どれもこれも美味しいな。この冷スープ、トウモロコシか?」
「はい、姫様。取れたてのトウモロコシを使っています」
「ううむ……何か調理に秘密があるのではないのか?」
「秘密というほどではございませんが、煮る際に、実を取り除いた芯も一緒に煮るのがコツでございます」
「なに、トウモロコシの芯をか」
「はい。芯からもなかなかよいうま味が出るのでございます。その後に濾し取り、生クリームや調味料を入れまして味を調えております」
「ううむ、なるほど……」
感心するローザンヌ王女。
「はは、姫様、王城では芯など捨ててしまうのでしょうからな」
モーガンが笑って言った。
確かに王城の厨房でトウモロコシの芯を煮るなどということをするとは思えなかった。
「うむ。……まったくもって遺憾である」
苦笑するローザンヌ王女であった。
* * *
昼食後もいろいろ雑談をする一同ではあったが、午後2時近くなったと思われる頃、
「……そろそろ帰らないといかんな」
と王女が言い出した。
「そうですな。お送り致します」
と言ってモーガンも立ち上がった。
「今日はいろいろ楽しかった。礼を言うぞ、ゴロー、サナ、ティルダ、それにマリー」
「恐縮です」
ゴローとサナ、ティルダは椅子から立ち上がってお辞儀をした。
また、マリーはというと、ローザンヌ王女ががっしと手を握り、
「ありがとう、よき時間であった」
と感謝の意を表していたのである。
* * *
「……帰ったか……」
「うん」
「……焦ったのです」
ローザンヌ王女とモーガンが帰った後、ゴローたちは少し疲れた顔をしていた。
「でも、剣についていろいろ聞けたからな」
なぜか乗り気のゴロー。
「一丁、逸品を造ってみよう」
そんなことを言い出した。
サナとティルダはそんなゴローを少し呆れた目で見つめるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月15日(日)14:00の予定です。
20191212 修正
(誤)と、肯定が帰ってきたのであった。
(正)と、肯定が返ってきたのであった。
20191213 修正
(旧)と、肯定が返ってきたのであった。
(新)モーガンは満足げに頷いたのであった。
20220923 修正
(誤)その後に濾し取り、生クリームや調味料を入れまして味を調えております 」
(正)その後に濾し取り、生クリームや調味料を入れまして味を調えております」




