02-14 完成
今日は、『馬なし馬車』が完成する日。
「じゃあ、行ってくるよ」
朝食を済ませたゴローは、いそいそと『ブルー工房』へと出掛けていった。
「おはよう」
「あっゴローさん、おはようございます! できてますよ!!」
「うん、楽しみにしていたんだ」
「その気持ち、わかりますよ」
頷きながらアーレン・ブルーはゴローを裏庭へと案内していった。
「おお!」
そこには、ボディを取り付けられた『馬なし馬車』が置かれていた。
「考えたんですけど、『馬なし馬車』って呼ぶのやめません?」
「まあ、なあ……」
わかりやすく『馬なし馬車』と呼んでいただけで、本当は謎知識に従って『足漕ぎ自動車』と呼びたかったゴローなのである。
「それでですね、僕としては『自走車』か『自行車』というのはどうかと思っているんですが」
「ええ……」
ゴローの謎知識は、『自走車』は自動走行車、『自行車』は自転車のこと、と訴えている。
「お、俺としては『自動車』を推したい」
思わずそんなことを言ってしまうゴロー。
(……やっちまったかな?)
謎知識は『自動車』は動力付きの『馬なし馬車』をいう、と叫んでいた。
だがアーレン・ブルーは、
「自動車! うん、いいですね! ゴローさんがそれで行こうというなら、僕もそれでいいですよ!」
と、即賛成した。
『馬なし馬車』の提案者であるゴローの言うことなので、ということもあったが、なかなか響きと意味するところもマッチしていたので、アーレン・ブルーは一も二もなく賛成したのであった。
(こうなったら、少しでも早くエンジンを開発して本当の『自動車』にしないと……!)
固く決心するゴローであった。
* * *
「軽くするため軽銀でフレームを作って、薄い革を張って仕上げました」
防水加工もしたので雨の中でも平気です、とアーレン・ブルーは言った。
「なるほど……軽銀を使ったんじゃ高く付いたろう?」
ゴローの謎知識では、この世界で『軽銀』と呼ばれているのはアルミニウムである。
アルミニウムは酸化物の形で大量に存在するが、結合力が強いため、金属アルミニウムとして分離するのがとても大変なのだ。
「そこは、初代様が製錬方法を開発してくださいまして」
アーレン・ブルーは胸を反らして言った。
「『ブルー工房』秘伝中の秘伝です!」
つまり、ブルー工房では世間一般より相当安価に軽銀=アルミニウムを使うことができるらしい。
その差額は工房の金庫に入るわけだから、いい儲けになるわけだ。
「そんなこと部外者に話していいのか?」
「ああ、ゴローさんはもう半分関係者ですからね」
「いつから、どうしてそうなった?」
「この『自動車』の共同開発者じゃないですか」
「……そうくるか」
実害がなければいいやと、ゴローはその件についてはそれ以上の追及をやめた。
「じゃあ、さっそく乗ってみるよ」
ゴローは運転席へ座る。
シート高、ペダルまでの距離、ハンドル位置、ほぼ申し分ない。
それをアーレン・ブルーに告げると、ゴローはペダルを踏み込んだ。
「この前よりは重くなったかな?」
ボディが乗った分、当然車重は重くなったはずだ。が、ゴローの脚力には誤差範囲。
「うん、いい感じだ」
ギヤ比もちょうどいいくらいで、ゴローとしても、速度と力のバランスが取れている感じがした。
「そうですか。では、納品ということでよろしいですね?」
「ああ、ありがとう」
ゴローは『足漕ぎ自動車』から降りて、アーレン・ブルーと握手を交わした。
「本当に、代金はいらないのか?」
ゴローが最終確認をすると、アーレン・ブルーは笑って頷いた。
「もちろんです。あの『チェーン』のアイデアだけでお釣りが来ますよ」
「それならいいんだが、あれって目にしたらすぐ真似されるんじゃないのか?」
特許という考え方がないこの世界なので、ゴローは心配してそう言った。
「いえ、それは大丈夫ですよ」
チェーンとスプロケットで力を伝達する方式は、簡単そうに見えるが、実現は困難だから、とアーレン・ブルー。
「プレスで部品を作ることができなければ、チェーンを組むことはできませんからね。見ただけでは真似できませんよ」
そういってアーレン・ブルーは胸を張ったのだった。
「それよりも、ゴローさんが心配です。軽く作ったとはいえ、200キムちょっとありますよ、この……『足漕ぎ自動車』は」
「今漕いでみた限りでは問題ないけどな」
「……はあ、かなりの『身体強化』が使えるんですねえ……」
アーレン・ブルーは、ゴローがそうした『身体強化魔法』の使い手だと誤解している。
強化しない素のパワーで問題ないと言っているのだが、そこを説明するといろいろややこしいことになるので、弁解はしていない。
「あとは、これに搭載できる『発動機』を開発してくれよ」
ゴローはアーレン・ブルーに言う。
「そうですねえ……こっちのは、小さくパワフルにしなければいけませんからね」
「小さいのをたくさん並べて繋げれば力は強くなるだろう」
直列何気筒、というようなエンジンの考え方であるが、
「なるほど! 確かにそうですね! やっぱりゴローさんは初代様に似ているのかもしれません!」
と、アーレン・ブルーは興奮気味に言い出した。
「……今日のところは乗って帰る。発動機の方は考えておいてくれよ」
「はい、お気を付けて!」
発動機……エンジンについて、長々と話をする必要もないので、ゴローは『ブルー工房』を辞した。
「おお、そこそこ快適だ」
土とはいえ、整地された路面なので走りやすかった。
すれ違う人は皆、目を丸くして『足漕ぎ自動車』を見ている。
ちょっと気恥ずかしい気もしたが、時速20キルくらいで走れば一瞬のことなので、次第に気にならなくなってくる。
すいすいと気分よく走っていたら、いつの間にか屋敷に到着していた。
いきなりそのまま乗り入れることはせず、一応、屋敷の門の前でゴローは自動車を降りた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
屋敷妖精のマリーが迎えてくれた。
「素晴らしいお乗りものですね」
「そうだろ? いろいろ苦労したんだぜ」
そこへサナとティルダもやってきた。
「おかえりなさい、ゴロー」
「お帰りなさいなのです!」
そして『足漕ぎ自動車』に気が付く。
「あ、それが『ブルー工房』で作っていたものなのです?」
「……面白そう。それ、動くの?」
ゴローは頷いて、
「ちょうどいい。サナ、ティルダ、乗ってごらん」
「え? 乗り物なのです?」
「うん」
疑問に思うティルダと、素直に乗り込むサナ。
「よし、行くぞ」
シートベルトなどというものはないので、座ればそれで終わり。
もっとも、想定した最高速度は時速30キルくらいであるが。
ゴローはペダルを軽く踏み込んだ。
ゆっくりと『足漕ぎ自動車』は動き出した。
「わあ、動いたのです」
「うん、快適」
馬車や荷車より明らかに揺れが少なく、振動が軽いことをサナはすぐに感じ取った。
そのままゴローは環状四号を東に向かい、中央通りを南に折れ、環状三号に出合うとそこを右に曲がり、北西通りに出てそこを北西に走り、屋敷へと戻ってきた。
「……まあ、こんなものだ」
3人乗せても乗り心地はさほど変わらず、操縦性もよかった。
さすが『ブルー工房』の作だと、ゴローは満足した。
「凄いのです、ゴローさん!」
「うん、これはいい。馬がいらないのがいい」
そしてティルダとサナも絶賛してくれたのであった。
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次回更新は12月8日(日)14:00の予定です。




