02-09 新たな住人
アントニオは宝石の原石代として、655万シクロの証文を置いていった。
「これで一年分の生活費になるな」
独りごちるゴロー。
「そういえば行商人とか言っておいて、商売をやっていない気もする……」
とはいえ、今回のように手持ちの原石を売っているので、商人であると公言できなくもない。
「いずれあの山へ鉱石採取に行く日が来るのかなあ……」
そうなったら『ハカセ』にも会えるしな、とゴローは少しその日が楽しみでもあった。
アントニオを見送ったゴローは、サナがいないことに気が付いた。
「マリー、サナは?」
そこで『屋敷妖精』のマリーに尋ねると、
「サナ様はフロロの頼みで『外』へお出掛けになりました」
という答えが返ってきた。
「そっか」
そこでゴローは庭へ行き、『木の精』のフロロのところへ行ってみる。
屋敷内はゴローとサナの魔力が豊富なので、ほとんど顕現したままなのだ。
「おーい、フロロ」
フロロの本体である梅の古木の前で名を呼ぶと、
「あら、ゴロちんじゃない。どうしたの?」
と言いながら、『ピクシー』を引き連れたフロロが庭の奥から現れた。
「サナは何しに行ったんだ?」
「ああ、サナちんにはね、あたしの『聖域』を作ってもらおうと思って森へ行ってもらったわ」
「『聖域』?」
「うん、そうよ」
そしてフロロはゴローにも『聖域』のことを簡単に説明したのだった。
「ふうん……まあ確かにあの森には危険そうな動物や魔物はいなかったしな」
「でしょ? あそこが『聖域』になったら、眷属のピクシーももっと増やせるから、蜂蜜採り放題よ」
サナはそれで行ったんだな、とゴローは内心で苦笑したが、特に文句もなかったので、
「わかったよ。じゃあ、またサナが帰ってきたらな」
と告げてその場を後にしたゴローであった。
* * *
「ただいま」
お昼少し前にサナが帰ってきた。
「お帰り……って、それ、どうしたんだ?」
サナの身体や髪には木の葉や草の葉がくっついており、それだけでなく手には何やら不思議なキノコをたくさんぶら下げているし、なんと言っても肩の上に10セルほどの小さな妖精らしい女の子を乗せていたのである。
「森で見つけた。この子が教えてくれたのでたくさん採れた」
そこに『木の精』のフロロがやってきた。
「サナちん、ご苦労様。これであの森の池付近はあたしの『聖域』になったわ」
そしてサナの肩の小さな妖精に気が付く。
「あら、『エサソン』じゃない。連れてきたの?」
「エサソン?」
どうやら小さな妖精はエサソンというらしい、とゴローは思った。
「で、何? ここに住むの?」
フロロが尋ねると、
「はい。もし、よろしければ」
とエサソンは答えた。
「あのね、このエサソンは、キノコについて詳しいわよ。食べるものも『妖精バター』って言って、キノコから出る黄色い汁だけだし」
フロロが教えてくれた。
「それに、この子がいれば、腐植質がいい感じに増えるし、時々仕事を手伝ってくれるから便利よ」
「へえ……」
ゴローはエサソンという小さな妖精をまじまじと見た。
「ええと、よろしくお願いしますね」
エサソンはそう言うと、
「名前を付けてくださいませんか?」
とゴローに頼んできた。
「俺でいいのか?」
「はい。お願いします」
もうこうした体験に慣れっこになってきたゴローは、
「そうだなあ……それじゃあ『ミュー』で」
小さくて不思議な感じがしたのでそんな名前を付けたゴローだった。
「ありがとうございます。これからよろしく。この庭で名前を呼んでくだされば、すぐに伺います」
そう言ってエサソンのミューは姿を消したのだった。
「はあ……サナちんは変わった妖精見つけてきたわねえ」
フロロが感心していた。
「エサソンは、普通人間の前には姿を現さないものだけど……まあ、サナちんもゴロちんも人間じゃないしね」
2人が『人造生命』であることはとっくの昔に説明していた。
「エサソンってそういう妖精なのか?」
「ゴロちんが知らないのも無理ないか。エサソンって、困っている人間に手を貸して親切にするけど、姿を見られると去ってしまうのよね」
「へえ……」
「でも2人は人間じゃないから、ここに住んでくれるでしょ」
きっとマリーと仲よくなるわよ、とフロロは言ったのだった。
「それならいいけどな」
屋敷の住人同士、仲よくしてほしいと思ったゴローだった。
「……そういえば、サナはどこで出会ったんだ?」
「ええとね……」
サナは、ミューと出会った経緯を説明し始めた。
* * *
……サナは、前回通った『隠し通路』を通って城壁の外に出た。
鍵はマリーの『分体』が開けてくれたし、帰ってきた時も開けてくれるという。
近頃のマリーは日に日に有能になっていくようだ、と思いながら、サナは北西の森を目指す。
距離にして3キルほどのこの森は、奥が深く、翡翠の森と呼ばれていた。
「池の周りが、いいかも」
ピクシーを捕まえた池の周辺は明るく、森の木々もまばらで、花の咲く低木も多い。
そこでサナは池の周辺、およそ1平方キルくらいの範囲に、預かった枝を刺して回ったのである。
そのエリアの一角に、黒木の森が少しだけ引っ掛かっていたのだが、そこに、ちょっと不思議なキノコが出ていた。
「……春なのに、キノコ? ……不思議な、形」
松茸や椎茸のような形ではなく、地面から生えた海綿のようにも見える。
「それは『モリーユ』ですよ」
覗き込んでいたサナに、声が掛かった。
見れば、身長10セルほどの女の子……いや、妖精だ。
ピクシーとは違い、羽はない。というより飛んでいない。屋敷妖精や木の精でもなさそうだった。
それでサナは素直に質問を投げかけた。
「食べられるの?」
小さな妖精は頷く。
「もちろん。モリーユはバターで炒めると美味しいんです」
「へえ……」
興味が湧いたサナは、そのモリーユに手を伸ばした。
「1つじゃ足りないでしょうから、生えているところ教えましょうか?」
「うん、お願い」
そんなやり取りがあって、サナは小さな妖精に連れられ、モリーユを両手にいっぱい集めたのだった。
「持ちにくかったら、柄の部分に草の茎を通すといいですよ」
「あ、なるほど」
小さな妖精に教えられたとおり、サナは手頃な草を摘んで、その茎にモリーユの柄の部分を刺していったのだった。
「持ちやすくなった。ありがとう」
小さな妖精に礼を言うサナ。
「どういたしまして」
小さな妖精はお辞儀をし、
「あなたからは優しい匂いがします。付いていってもいいですか?」
とサナに尋ねた。
「うん、別に構わないけど」
サナも、この妖精は親切だから、と思って許可を出した。
「ありがとうございます。……ええと、肩に乗ってもいいですか?」
「うん、どうぞ」
10セルと、小さな身体なので、歩いて付いてくるのは大変だろうと、サナはそれも許可した。
「重ね重ねありがとうございます」
小さな妖精はお礼を言ってサナの肩に身軽に飛び乗った。
そのままサナは屋敷へと戻っていったのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月26日(火)14:00の予定です。
20191124 修正
(誤)「それに、この子がいれば、腐食質がいい感じに増えるし、
(正)「それに、この子がいれば、腐植質がいい感じに増えるし、




