02-06 ピクシー狩り?
ゴローとサナが向かった北西にある森は、なかなか綺麗な場所だった。
入口付近は、薪取りに使われていると見え、下草も茂っておらず、樹相も若々しくて、明るい雰囲気がある。
「ここを真っ直ぐ」
ゴローの肩に乗ったフロロの『分体』は、迷うことなく行き先を指示している。
踏み跡があるのでそれを踏んで進む。周囲には白や赤の夏の花が咲き始めていて綺麗だ。
「ほら、あそこ」
森の中をゴローたちのペースで30分ほど進むと、少し開けた場所に出る。そこには陸上競技のグランドくらいの広さの池があった。
岸辺には湿性の花が咲き、水面にはスイレンかハスのような花も咲いている。
「いいところだな」
「でしょ?」
分体は自慢げに言い、ゴローの肩からぴょんと飛び降りた。
そして岸辺にそびえる、カエデらしい木にもたれて座り、
「おいで、おいで……」
と優しい声を出したのである。
それを聞いたゴローは、どちらかというと怪談を連想したのだが、もちろん口には出さない。
が、その間にも分体の呼び声は続いており、
「ゴロー、何か、来た」
とサナに言われたゴローが、魔力探知を行うと、周囲は小さな魔力反応で溢れていたのである。
〈これが、ピクシーなのか?〉
〈……というより、まだ、なりかけ?〉
サナにもよくわからないようだ。
そしてそうやって念話で話している間にも魔力反応は増えていく。
〈……あ!〉
念話でサナが驚いたような声を出した。
〈どうした?〉
〈……見て〉
サナが驚いたということに驚いたゴローが、念話で理由を尋ねると、分体を見ろと言われた。
〈……あ〉
〈綺麗……〉
〈……凄いな〉
分体の周囲は、淡く発光する光の玉でいっぱいだったのだ。
〈あれが、ピクシーなのかな?〉
〈……そうだと、思う。でもまだ、多分、低級〉
その証拠に、分体はまだ呼び声を止めていない。
そしてさらに光は集まっていき……。
〈あっ〉
〈……あれが、そうみたい〉
人型に見える光が現れたのである。
赤、黄、緑、青、紫、白……。色さまざまな光の人型は増え続けていく。
いつしか分体は呼ぶことをやめていた。
ゴローとサナは黙って見つめているだけ。
30分もすると、人型の総数は減り、代わりに輪郭がはっきりしたものが目立つようになってきた。
〈あれが高位なのかな?〉
〈多分、そう〉
〈だとすると、今のところ5体か〉
〈あ、6体になった〉
そしてさらに30分。
分体の周りの高次(?)のピクシーは10体を数えるようになる。
「このくらいでいいかしらね」
分体はゴローとサナの方を見た。
「あたしも疲れちゃったし」
心なしか、分体の元気がない。本体から離れて時間が経ったからだろうとゴローは推測した。
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
「……で、そのピクシーたちはついてくるのか?」
「それは大丈夫。もうあたしの眷属みたいなものだから」
堂々と宣言する分体。
「わかった。じゃあ、帰ろう」
「……肩に乗せてちょうだい」
どうやら、自力でゴローの肩に飛び乗れるほどの元気はなくなってしまったようだ。
「わかったよ」
そこでゴローは屈んで分体を右腕に乗せ、左肩へと導いてやろうとすると、
「サナの肩がいいわ」
と分体が言うのでサナの承認を得て右肩に乗せてやった。
「ああ、らくちん。心地いいわ」
サナの肩の上で寛ぐ分体。その周囲にはぼんやりと光を放つ高位ピクシーが10体、飛び回っていた。
その状態でゴローとサナは大急ぎでシクトマへ帰る。
運のいいことに、帰路も誰にも会わず、ダミーの霊廟まで戻ってくることができた。
そこでゴローが少しだけ魔力制御を緩めると、30秒もしないうちに扉が開いた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
扉の中からはマリーが出てきた。
「急いで帰ろう」
大分元気のなくなった分体を気遣い、ゴローは家路を急ぐ。
といっても、暗い通路を100メートルほど歩くだけだ。
ゴローとサナは夜目が利く上に、高位ピクシーが放つ明かりで、かなり足下が見えるようになっていた。
そして辿り着く城壁。
今度はマリーが開けてくれたので、ゴローとサナは何もせずに自宅の庭へと出られた。
「おかえり!」
そこにはフロロの本体が待っていた。
「ただいま!」
サナの肩に座っていた分体は、本体が伸ばした手にひょいと飛び乗ると、そのまま掌に沈むように吸収されていった。
連れてきた高次ピクシーは、フロロの回りを飛び交っている。
「わあ、いいのを連れてきたわね。……サナ、ゴロー、この子たちはもうあたしの眷属よ。でも、まだまだ生まれたばかりの赤ん坊みたいなもの。ちゃんと教育して役に立てるから待っててね」
「うん、楽しみにしてる」
サナがそう答えると、フロロはにこっと笑った。
「任しておいて、ご主人様」
そして10体を連れたまま、庭の奥へと消えていったのである。
* * *
「ゴローさん、サナさん、お帰りなさいなのです」
食堂に行くとティルダが迎えてくれた。
「少しだけなのですが、お砂糖が残っていたのでラスクを作ってもらったのです」
パンとバターはまだあったので、ラスクくらいなら作れた、とティルダは言った。
「お、ありがとう」
「嬉しい」
そういうわけでゴロー、サナ、ティルダはラスクを中心とした夕食を摂ることとなったのである。
ラスクの他には庭で採れた野菜のサラダとプレーンオムレツがマリーによって用意されていた。
「そういえば、もうすぐ夜になるのにマッツァ商会は来ていないのか?」
「はい、来ていないのです」
「ちょっと遅いな」
そんな話をしていると、マリーが、
「あ、今、来たようです」
と報告をした。まさに『噂をすれば影が差す』である。
* * *
「まいどありがとうございましたー」
配達された食材の中には、砂糖10キムが含まれていた。
次回は20キムにしてほしいと告げておくゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月19日(火)14:00の予定です。
20191117 修正
(誤)
配達された食材の中には、砂糖10キロが含まれていた。
次回は20キロにしてほしいと告げておくゴローであった。
(正)
配達された食材の中には、砂糖10キムが含まれていた。
次回は20キムにしてほしいと告げておくゴローであった。




