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01-51 王都でスローライフ

 ゴローとサナは、のんびりとした日々を過ごしていた。

「ティルダの工房もできあがったしな」

「うん、いい感じ」

 材料が届いたあと、1週間ほど掛け、現場でもああでもないこうでもないと検討をし、改良を加えて作り上げた工房。

「すごく使いやすいのです! 最高の工房なのですよ!」

 とティルダも絶賛してくれた出来映えとなった。


 敷地面積には余裕があったので、アクセサリーだけではなく、包丁やナイフくらいの小物なら鍛冶もできるようになっており、ショートソードくらいまでならなんとか仕上げられるくらいだ。

 ティルダは今そこで、『マッツァ商会』から依頼された髪留め、イヤリング、ブローチ、指輪などの小物アクセサリーをせっせと作っている。

 なんでも、第3王女殿下が国宝級の『金緑石』を手に入れたことが知れ渡って以来、『金緑石』ブームが到来し、豆粒のような金緑石でも高値で売れるのだそうだ。

 しかも、王家にその金緑石を納品した『マッツァ商会』の名が売れたので、注文が殺到しているという。


「基本的に、うちはいろいろなものを扱うのがモットーですからね」

 とは商会主オズワルドの言葉。

 その点において、『商店』と少しだけ異なっているということだった。

 この世界で『商店』といった場合は、基本的には店に置いてあるものが商品の全てであるが、『商会』といった場合は、店にないものもお客からの要望に応じて扱うことになる。


 ということで、ゴローは『マッツァ商会』に、食料品の定期納入を依頼した。

 10日に1度、小麦・砂糖・調味料を決められた分量を納品する、という契約である。

 その際に、次回の納品数量を決めておくのだ。

 それ以外のもの、例えば野菜、卵、肉、酒、日用品などは随時ゴロー側が注文をすることになる。

 これで、買い物がかなり楽になった。


 そうした家事は『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーが引き受けてくれるので、ゴローとしてもとてもありがたい。

 マリーへの給金(?)はゴローの魔力である。


 庭ではハーブや野菜類、果物類が栽培されているので、かなり家計の足しになっている。

 調べてみると果樹は、本数は少ないものの、夏ミカン、リンゴ、梨、ブドウもあったのだ。

 こちらは『木の精(ドリュアス)』のフロロが担当してくれている。

 おかげで生育が早く、質もよさそうなのだった。


 食費については、ドワーフの職人であるティルダが家賃として毎月3万シクロを入れてくれており、それでまかなっている。


*   *   *


「ああ、これでなんとなくのんびりできるな」

 前庭の芝生にテーブルと椅子を置き、紅茶を飲みながらゴローが言った。

 初夏の日差しは強いので、日除けを張った、その下で、である。

 王都シクトマの初夏は乾燥した空気のため、日除けをすれば充分涼しい。

 そんな席で、サナは黙々とクッキーを食べていた。

 このクッキーは、先日モーガン邸で出されたもので、いたくサナが気に入った品である。

 その後店を教えてもらい、大量に買い込んできたのだった。


 そこに声が掛かった。

「おう、ゴロー君、いい天気だな」

 やって来たのはこの屋敷を売ってくれたモーガン・ランド・トロングス。元近衛騎士隊隊長で、男爵である。

 だが、その性格は気さくで豪快。

 週に一度くらい、こうして遊びに来るところを見ると、暇なのだろう。

 

「いらっしゃい、モーガンさん」

「サナちゃんも元気そうで何より。ほれ、土産だ」

「ありがとう」

 モーガンさんは来るたびにサナの大好物のクッキーを箱で持ってきてくれる。なのでサナも懐いていた。

(懐くというか餌付けされているというか)

 などとゴローが思っていると、

「ゴロー、何か変なこと、考えてない?」

 と、勘のいいサナに睨まれてしまった。


「いらっしゃいませ、モーガン様」

 モーガンが、屋外に置かれた椅子に座ると、さっとばかりに紅茶を差し出すマリー。

「おお、ありがとう」

 マリーも、モーガンがこの屋敷の常連客だということを承知しているので、ちゃんと応対している。

 今日は来ていないが、モーガンの妻、マリアンもまた常連客だ。


 対して、見知らぬ御用聞きなどは門前払いを喰わされる。

 マリー謹製の結界に弾かれ、門内への立ち入りができないのだ。

 この結界は、夜間には特に有用である。


「そういえば、泥棒を捕まえたんだって?」

「はい」

 マリーの結界に泥棒が引っ掛かったので、ゴローとサナが捕らえたのである。

 ずっと無人だった屋敷に人が住み着いたので、金目のものを狙って侵入しようとしたらしい。

 それがマリーの結界に捕らえられ、動きを阻害されているところへ、ゴローとサナが急行。

 あっという間にお縄にし、警備兵に突き出したというわけだ。

「あの時、モーガンさんのお名前を出したら、警備兵の態度が変わりましたよ」

 侵入未遂したその屋敷が、元はモーガンが管理していた屋敷だと知った警備兵が、モーガンとゴローたちの関係を聞いてきたのだった。

「ふん、そんなことで市民に対する態度を変えるような輩が大勢いるのは嘆かわしいことだな」

 吐き捨てるようにモーガンは言った。

 そんなモーガンを見て、

(まだ話してくれないけど、モーガンさんは何かきっと、そうした軍か貴族か、そんなやり方が馴染めなくて、近衛騎士隊をやめたかやめさせられたかしたんじゃないのかな?)

 とゴローは推測していた。


「あ、モーガンさん、いらっしゃいませなのです!」

 そこにもう1人の住人、ティルダも加わった。

「おお、ティルダちゃん。今まで仕事だったのかな?」

「はいなのです」

「そうか。商売繁盛で結構なことだ」

「おかげさまでなのです」


 モーガンはまた、ティルダが気に入ったようで、可愛がっていた。

 これもまた、我が子ライナがそばにいないので寂しいんだろうな、とゴローは想像していた。


「ティルダさま、どうぞ」

「ありがとうなのです」

 マリーはティルダにも紅茶を淹れた。


 のどかな初夏の昼下がり。

 いろいろ謎や問題はあるが、とりあえず王都で暮らし始めたゴローとサナ。


「これこそスローライフだよな……」

 ゴローが呟いた声は、白い綿雲が浮かぶ初夏の青空に消えていった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月5日(月)14:00の予定です。

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