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01-47 工房製作準備

 翌日。

「ご主人様、朝食ができました」

 マリーの声に食堂へ行くと、

「おお!」

 今まで見なかった朝食が並んでいた。

 砂糖、卵、ミルク、バターを使った、いわゆる『フレンチトースト』。

 ベーコンで出汁を取ったスープ。

 生野菜のサラダには植物油、ワインビネガー、塩、コショウを使ったオリジナルのドレッシング。

 飲み物は温めたミルク。


「何もご指示がなかったので、朝ということで軽めにしてみました」

「いや、こういうのでいい」

「うん」

「美味しそうなのです!」

 ゴローもサナもティルダも、文句はなかった。

「わかりました」


 そして味もよかった。

「うん、美味い」

 ゴローはドレッシングの味が気に入った。

「美味しい。……この甘いパンが、特に」

 サナはフレンチトーストが気に入ったようだった。

「美味しいのです。マリーさん、ありがとうです」

 スープを味わったティルダが言った。

「いえ、お口に合いましたようで、安心いたしました」


 ゴローは、久し振りに自分ではない誰かが作った食事を摂ったような気がした。

 実際は何度かそういう場面はあったのだが、そこは『気がした』わけである。


*   *   *


「さてと、それじゃあ工房を作っていこうか」

「はいなのです!」

「うん、手伝う」

 3人がそう言って食堂の椅子から立ち上がると。

「ご主人様、どういうものをお作りになるのか、わたくしにもお教えくださいませんか?」

 とマリーが申し出てきた。

「わたくしにもお手伝いできることがあるやもしれませんので」

「うん、わかった。それじゃあ、ちょっと待っててくれ」

 ゴローは昨夜打ち合わせて決めた図面……というかラフスケッチを部屋まで取りに行き、すぐに戻ってきた。

 それを食堂のテーブルに広げる。

 スケッチは5枚ほどあった。ちなみに紙とペンはティルダの持ち物である。

 マリーはそれらをじっと見ていたあと、

「僭越ながら、北側に『流し』を設置された方がよろしいかと」

 と助言をくれた。

「ああ、流しか!」

 この場合の『流し』とは、水を使える施設、という意味である。

 手を洗ったり道具を洗ったり掃除に使ったり、また万が一に火が出た時には消火の役に立つ。

「それは思いつかなかったのです」

 さすが『屋敷妖精(キキモラ)』である。

「できますれば、一度浄化した水を流していただきたく存じます」

 排水は屋敷の外にある堀に流されることになる。

 それで汚水ではなく、浄化した水を流して欲しい、とマリーは言っているのだ。

「お屋敷の下水は、ここにある浄化設備を通してお堀に排水されていますので、配管を接続すればよろしいかと思います」

 この屋敷には下水の浄化設備があると聞いて、ゴローは驚きかつ感心した。

「おお、なるほど。凄いんだな」

 そしてここで1つ気になることが。


「そういえば、この町の下水事情ってどうなっているんだ?」

 それを、ゴローはマリーに尋ねてみた。

「はい、それはですね、放射状の大通りの下に暗渠あんきょが通っておりまして、大抵はそこに排水されます。その暗渠あんきょは地下浄水所に行きまして浄化後堀に排水されています」

「なるほど」

 思ったよりも進んだシステムだった、とゴローは感心した。

「それで、その暗渠あんきょに下水を繋いでいる家々は、下水道税を取られています」

 水の処理には費用が掛かるから、ということだった。

「ですがこのお屋敷は、独自に浄水設備を持っておりますので下水道税は取られないわけです」

「ははあ……なるほど」

 思った以上にこの屋敷は手が掛かっているようだった。


「その浄化設備って、あの西側にある池か」

「はい。汚物を沈殿させ、上澄みを『浄化(プルガシオン)』の魔法で綺麗にしています」

「『浄化(プルガシオン)』……か。サナ、使えるか?」

 初めて聞く魔法だったので、ゴローはサナに尋ねてみた。すると。

「うん」

「使えるのか!」

「あ、私も使えるのです」

「ティルダもか……」

「生活魔法なので、効果の差はあるけど、使える人は多いのですよ」

「なるほど……」

 ティルダの説明によると、風呂に入れない者はこれを使って身綺麗にするらしい。

「あと、旅をする時にも役に立つのです」

「そりゃそうか……」

 とりあえず、あとでサナから教えてもらおうと思ったゴローであった。


「と、とにかく、マリーの意見は取り入れよう。もうないか?」

「はい、ご主人様。大きな点は流しだけです。細かな点は、工房を作る際に指摘させていただきたく思います」

「うん、それでいいか」

 こうなると、材料を買いに行く必要がある。

「マッツァ商会に相談するかな」

 取り扱っている品目もあるだろうし、とゴローは言った。

 そこで、必要な素材を書き出してみた。


「木の板、角材。レンガに石材。ええと、モルタル……なんてあるのか?」

 レンガとレンガをくっつけるための接着剤的役割を果たすものがモルタルである。

 ゴローの謎知識によると、セメント、砂、水を混ぜたものがモルタルなのであるが……。

「はい、モルタルは建築材料として使われていますです。成分は火山灰に砂を混ぜたものを水で練っているのです」

 と、ティルダによると、少し違う成分であった。

(そういう特殊な火山灰があるのかもな)

 とゴローは一応納得しておく。

「あとは配管用の土管に、針金、釘……かな」

「うん、いいと思う」

「いいと思うのです」

 一応、必要な品目は洗い出せたということになった。


「……じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 それでゴローは1人、材料を手配しにマッツァ商会へと向かったのである。


*   *   *


 小走りで向かったので、20分ほどでマッツァ商会に到着。

「おはようございます、ゴローさん」

 すると、オズワルドが顔を見せた。ゴローは首尾が気になって、即聞いてみた。

「ああ、オズワルドさん、どうでしたか?」

 オズワルドは満面の笑みを浮かべた。

「ええ、ええ、上首尾でしたとも! 陛下も王女殿下も、いたくお気に召したようで、陛下よりじかにお褒めの言葉を頂戴しました!」

「それはよかったですね」

 国王から直接言葉を掛けられたというのは凄いことらしい。

 上首尾だったのはわかっていたが、オズワルドの話を聞くと、今後のマッツァ商会にとっていいことづくめだったようだ。


「そういえば、ゴローさんたちもいいお屋敷を手に入れられたようですね」

「ええ、思いがけないことでしたが」

 それでゴローは、屋敷内にティルダの工房を作りたいことを話し、そのための材料を手配しに出てきた、と説明した。

 するとオズワルドは、

「そういうことでしたら、うちで揃えられると思います。なに、うちで扱っていないものでも知り合いから取り寄せられますから」

 と言って胸を叩いた。

「でしたらお願いします」

 ゴローは買い物リストを提示した。

「ふむ、木材は大丈夫です。レンガもモルタルも。針金、釘も大丈夫ですね。配管用の土管は扱っていませんが、知り合いから仕入れてきますよ」

 全部マッツァ商会で揃えてくれることになった。


 そこでゴローはそれぞれの必要数量を説明し、オズワルドは今日中に揃えて納品する、と請け合ってくれたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月27日(日)14:00の予定です。


 20191024 修正

(誤)「いえ、お口に合いましたようで、安心しいたしました」

(正)「いえ、お口に合いましたようで、安心いたしました」


 20191025 修正

(旧)陛下よりじかにお褒めの言葉をいただきました!」

(新)陛下よりじかにお褒めの言葉を頂戴しました!」

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