00-06 訓練また訓練
ハカセにその知識を説明しない時間帯には、56号は37号と戦闘訓練をしている。
ここ数日は棒術だ。
棒は、素人でも扱いやすく、また手に入りやすい武器である。
37号と56号は、ハカセが用意してくれた特別製の棒を使い、訓練していた。
「……行く」
「来い!」
人間の目には見えないほど早い踏み込みから繰り出される棒術。
無言で繰り出される疾風の如き棒を、56号は手にした棒で受け、はじき、かわす。
大分慣れた、と思った矢先。
「ちょちょちょちょ! 速い速い速い!」
37号の動きが加速した。
「第一段階、初級編終わり。第二段階、中級編開始」
「痛えっ!」
5割増しくらいになった速度について行けず、十数発を受け、吹き飛ばされる56号。
「あたた……」
そんな56号に、37号は棒を向け、
「早く、立って」
のろのろと立ち上がる56号。
「……もう少し手加減してくれよ……」
だが、37号は、
「必要ない。あなたのボディは特別製。このくらいでは傷つかない」
と、素っ気ない。
20センチくらいの立木なら数発でへし折るほどの打撃を10発以上も受け、どこも怪我をしていない……そういうことなのだろう。
だが、痛いものは痛い。
「せめて中級編はこなしてくれないと、外へ行けない」
「それは、わかるけどさ……」
この研究所周辺だけではなく、いずれは外の世界に行く予定の2人なのだ。
「あんたたちは、広い世界を見ておいで」
そうハカセが言ったので。
「それには、自分の身を守れなければならない。少なくとも、魔獣の10や20を退治できないと」
「いや、その理屈はおかしい」
10や20って、それ人間じゃないだろ、と56号は言う。
「私たちは人間じゃない」
と37号。論争は56号の負け。
「さあ、行くから」
「ちょちょちょちょ!」
今日も、容赦ない37号の訓練は続く。
疲労とは無縁の身体だけに、たちが悪い……と、56号は心の中でぼやいたのだった。
* * *
「金属光沢の昆虫の色っていうのは『構造色』っていいまして……」
「ふんふん、それから?」
「石によっては一定の方向に割れやすいものがあって、それを劈開と……」
「ふんふん、それから?」
「衛星は惑星の周りを、惑星は恒星の周りを回っていて……」
「ふんふん、それから?」
「酸っぱいものは酸性、その反対の性質がアルカリ性で……」
「ふんふん、それから?」
ハカセの知識欲は底なしで、咳が出始め、37号に窘められるまで、質問攻めが続く。
そのハカセは56号から得た知識を『光』『音』『熱』『人体』『動物』『植物』『虫』『魚』『岩石・鉱物』『地学』『天文』『宇宙』『気象』『機械』『化学』『数学』などと分類してまとめていった。
分類の仕方については、内容の統廃合もあり得るということだ。
ハカセを休ませたあとはまた訓練だ。
「……では、始める。『炎』『矢』」
『炎』の『矢』が56号目掛け飛んでいった。
「フ、『炎』『矢』!」
それを同種の魔法で迎撃する56号。
「うん、うまくなった。じゃあ、どんどん行く。……『炎』『矢』『二本』」
今度は『2本』の『炎』の『矢』が飛び出した。
「くっ! 『炎』! 『矢』! 『二本』!」
56号は、辛うじてこれも迎撃した。
「どんどん行く。『炎』『矢』『三本』」
「う、うわわわわ! 『炎』! 『矢』! 『三本』!!」
これも辛うじて迎撃が間に合いほっと一息つく暇もなく、37号の追撃がなされた。
「『炎』『矢』『四本』」
「フ、『炎』『矢』『クアド……』!! わ、わあ!」
詠唱が間に合わず、『炎の矢』の2本が着弾した。
威力は最低限。なので『熱い』くらいしか56号は感じないが、それでも焦ってしまう。
「『炎』『矢』『五本』」
「う、うわあっ!」
焦ったためイメージが不完全になってしまい、魔法は発動しないことも。
「……うう……」
「火傷もしていないはず。……56号、もう少し冷静に対処することを覚えて」
「そ、そうは言っても……」
「もう一度。……『炎』『矢』」
「フ、『炎』『矢』!」
炎の矢1本から始めて、2本、3本と増やしていく。
「『炎』『矢』『五本』」
「フ、『炎』! 『矢』! 『五本』!!」
今度は炎の矢5本を迎撃できた。
が、
「『炎』『矢』『六本』」
「わあー!」
6本で迎撃失敗。
だが、37号はまだまだ止める気はないらしい。
「もう一度。……『炎』『矢』『七本』」
「く、くそっ! 『炎』『矢』『七本』!」
結局それから何度も何度も失敗をくり返し、最終的には10本の矢を迎撃できたところで訓練は終了した。
* * *
「今回は、終わり。56号、凄く上達した」
「……そうかな?」
「そう。……じゃあ私は、ハカセの食事の用意をしに行く、から」
「食事か……」
56号は何かを思い出したかのように、
「ハカセって、何を食べているんだ?」
と尋ねた。
「いろいろ。保存食材から、私が作ってる」
「へえ」
興味が出た56号は、
「作るところ見てもいいかな?」
と、37号に聞いてみる。
「うん、かまわないけど」
と許可が出たので、そのまま37号に付いて、厨房に入った。
そういえば、ここに入るのは初めてだな、と思いつつ、56号はきょろきょろと厨房内を見回す。
「……なんとなく物足りないな」
「?」
56号の呟きを聞きつけた37号が首を傾げた。
「いや、本当になんとなく……調理道具が、少ないな、って」
「……それもあなたの、知識?」
「うーん……そうかもしれない」
56号がそう言うと、37号は少し考えて、
「私は、いつもどおりに料理をするから、気が付いたことがあったら、どんどん言って」
と56号に告げた。
「うん、わかった」
そこで56号は、37号の斜め後ろに立ち、その調理する様を観察することにした。
普通なら、そうしてじろじろ見ていられたらやりにくいのではないかと思われるが、37号は涼しい顔をして手を動かしていた。
まずは、乾燥した野菜を水に漬けて戻すところから。これは単に貯蔵庫から出して、ボウルに入れ、水を入れるだけ。
次に、塩漬けの肉を取り出し、流水にさらすことで塩抜きをするようだ。
「ここって、水は豊富なんだな」
と56号が呟くように言うと、
「違う。これは、ハカセが作った魔導具を使って、麓の泉から水を汲み上げている」
「そ、そうなのか」
思ったよりも手が加えられていることに56号は驚く。
「その水も、汚れや虫などが入らないよう、濾過しているし、下水だって汚れを分解してから捨てている」
「へえ……」
衛生観念や環境への配慮もなされていることに、再度驚いた56号であった。
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次回更新は都合により6月13日(木)14:00の予定です。
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