表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/503

01-46 引っ越し当日

 そして翌日、朝食を食べ終わったゴローとサナは、食料品店にやって来ていた。

「パンだろ、甘芋に小麦粉、塩、コショウ……コショウは高いな」

「砂糖に蜂蜜、お茶の葉、バター、カラシ……ゴロー、カラシって買わなきゃ駄目?」

 サナは辛いものが苦手なのだ。

「買っておくぞ」

 とゴローが言うと、サナはしゅんとしてしまった。そこでゴローはフォローをする。

「カラシは少しだけ使うと味を引き立てるんだ」

「……もっと美味しくなる、ってこと?」

「そうだ」

「……わかった。なら、買う」

「それにハム、ベーコン、卵、ミルクに植物油も少し買っておくか。あ、ワインビネガーもあるといいかもな」

 さすが王都というべきか、今まで見なかったさまざまな食材があるので、あれもこれもとゴローは買ってしまったのだった。


 そんな感じで、山のように食料を買い込んできたゴローとサナは、マッツァ商会前に用意されていた馬車に積み込んだのである。

「これで全部ですか?」

「ですね。あとは随時買いに行きますから」

「わかりました。では出発しましょう。場所は『北西通り』のどん詰まりでしたね?」

「そうだ」

 そして、アントニオが御者をして馬車は動き出した。

 アントニオ自ら御者をしているのは、ゴローが手に入れた屋敷を見てみたいからである。


「『屋敷妖精(キキモラ)』がいるんでしょう? 凄いですよねえ」

 昨日マリーの話をしたら、是非会ってみたいと言うアントニオなのである。

 そうした神秘的な存在に憧れがあるらしい。

 自分の目の前にいる2人は、その神秘学の技術の結晶なのだが……。


 一番外側の『環四』は人通りも少なく、馬車は1時間かからずに北西の隅、つまりゴローの屋敷に到着した。

「はあ、いいお屋敷ですね」

 アントニオは感嘆の声を上げた。

「静かで、落ち着いた雰囲気で……」

 そして門の前に馬車を着けると門扉が自動的に開き、

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 とマリーが出迎えてくれる。

「ただいま、マリー。この子が昨日話したティルダ。ドワーフで、ここに工房を開くつもりだ」

「えっ……と、ティルダ・ヴォリネンなのです。マリーさん、よろしくお願い致しますなのです」

「はい、ティルダ様、伺っております。『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーです。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」


 身長はマリーの方が少し低いが、地面から少し浮いているので目線はティルダと同じくらいである。

「あ、あ、あのっ、俺、いや、私、商人のアントニオ・マッツァと申しますっ!」

 そしてアントニオはといえば、初めて会う『屋敷妖精(キキモラ)』に、ガチガチに緊張していた。


 マリーはころころと笑って、

「アントニオ様、ですね。ご主人様方がお世話になりました。これからもよろしくお願い致しますね」

 と挨拶をしたのである。


 そして馬車はそのまま屋敷内へ。今回は正面玄関へと向かう。

 普通なら商人は西側の勝手口へ回ってもらうのだが、今回のアントニオはお客様待遇なのだ。

「こちらで受け取ります」

 とマリーが言うと、馬車に積まれた荷物がふよふよと浮かび上がり、屋敷の中へと入っていった。

「おおー」

「これが『屋敷妖精(キキモラ)』の、能力……」

「す、すごいのです!」

「…………」

 四者四様の反応でそれを見つめているゴローたち。

 やがて食料は全て地下貯蔵庫に運び込まれていった。


 続いて、ティルダの荷物が運ばれていく。

「ティルダ様、これはどこへお運び致しましょうか?」

「ああ、それは外の倉庫に入れておいてもらえるか?」

 ゴローが代わって答えた。

「かしこまりました」

「ティルダも付いていって、置き場所と扱いを注意してくれ」

「はいなのです」


 そして惚けていたアントニオもようやく我に返る。

「あ、え、ええと、俺、いや、私、今日のところは帰ります!」

「あ、うん。いろいろとありがとう。また後で挨拶に行くから」

「はい…………それじゃ」

 いろいろといっぱいいっぱいになってしまったようで、また来ます、と言ってアントニオは空の荷馬車を引いて帰っていったのであった。


*   *   *


 その少し後、ティルダがマリーと一緒に戻ってきた。

「ゴローさん、ありがとうなのです!」

「工房の工具と道具を片付けたなら、あとは部屋だな」


 そういうわけで、ティルダには2階客間の1室が与えられた。

 ゴローとサナはもちろん主人の部屋だ。


*   *   *


 それが済んだあと、少し早かったがお昼にする。

 残っていたラスクと芋チップスを出した。

 お茶だけはマリーが淹れてくれる。

「うん、美味いよ、マリー」

 マリーの淹れた紅茶は絶品だった。

「美味しい」

「美味しいのです!」

 サナとティルダも褒めちぎる。

「お褒めいただき、ありがとうございます。これも、ご主人様の魔力のおかげです」

 マリーがお辞儀をして言う。

「普通なら騒霊ポルターガイストくらいにしか使えない力が、100倍以上も使えます」

 どうやら、ゴローの『オド(内魔素)』が桁違いのため、マリーの使える力も桁違いなようだ。

 それで荷物運びも楽々できたようだった。


「すごいのです! あ、で、でも、ゴローさんは大丈夫なのです?」

 オド(内魔素)が枯渇すると、体調を崩したり、最悪の場合意識を失ったりすることもあるのだとティルダは言った。

 だが、マリーは心配いりません、と言って微笑んだ。

「わたくしが使わせていただいているのはご主人様のオド(内魔素)のごくごく一部ですので」

「そうなのです?」

「はい。ご主人様のお身体には影響はございません。逆に『屋敷妖精(キキモラ)』として、ご主人様に害のあることは絶対にいたしません」


「……」

 ゴローの体内で『オド(内魔素)』を作り出しているのは『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』である。

 『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』は、理論上は無限の魔力(普段はオド(内魔素)だが、マナ(外魔素)も生み出すことができる)を発生させられるため、『屋敷妖精(キキモラ)』の魔力源としては理想的であったのだ。


「何だかよくわからないけど、ゴローさんがすごいってことはわかりましたのです」

 ティルダはそうした魔法学、神秘学には疎いのでわかっていないようだ。


「まあいいや。マリー、これからもよろしく頼むぞ」

「はい、ご主人様」


「明日はティルダの工房を調えような。希望があったら言ってくれ」

「は、はいなのです。ええと、金床を置ける丈夫な床と、魔導炉を据え付けられる場所があればいいのです」

 などと言っているが、

「少なくとも、前の工房と同等以上にしような」

 とゴローに言われ、

「え、ええと、贅沢は言わないのです!」

 とあわあわしているティルダ。

 ゴローはサナに念話で、

(なあ、ハカセの研究室みたいな設備も少し揃えたいんだが、どう思う?)

 と尋ねてみた。ゴローも少しだけ、そうした魔法系の工作に興味があったのだ。

(うん、いいと思う、ティルダには、私から説明してみる)

(お、頼むよ)

 『ハカセ』のようにはいかないのはわかっているが、『日曜大工』や『模型工作』くらいはやれたらいいなあ、とゴローは思っていた。

(『日曜大工』がなんなのかよくわからないけどな)

 何せ、この世界に曜日の概念はないのだから。


 そんなことを考えていたら、サナはティルダに説明を終えたようで、

「ゴローさんは大工仕事ができるんですね! でしたら是非! 工房を共用してほしいのです!」

 共用、ということなら広い工房にしてもティルダは気後れしないだろうというサナの目論見は大当たりだったようだ。


「……で、ここには棚を置いて」

「じゃあ、魔導炉はこっちの端に据え付けるのです」

「作業台は丈夫で大きいものにするぞ」


 ……と、夜遅くまで打ち合わせは続いたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月24日(木)14:00の予定です。


 20191022 修正

(誤)また来ます、と言ってアントニオは空の荷馬車を引いて帰っていったのであった・

(正)また来ます、と言ってアントニオは空の荷馬車を引いて帰っていったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ