01-42 手紙を届ける
ゴローとサナは、『教会』の前を通り過ぎ、さらに北へ。
「まっすぐ帰るの?」
と尋ねるサナに、
「思い出したことがある」
と、ゴロー。
「何?」
「ほら、ジメハーストで手紙を預かったじゃないか」
「ああ、ディアラさんに」
ジメハーストで古着屋を営んでいたディアラの世話になり、その孫ライナとも仲よくなった。
そしてシクトマへ行くと告げた際に、息子夫婦に手紙を渡してくれと頼まれていたのだった。
「手紙、持ってるの?」
「持ってない。だから一旦戻って、住所を調べてから届けにいこう」
「うん、わかった」
途中、美味しそうな匂いをさせる店でサナにせがまれて軽く食事をしたり、お菓子を売る店でゴローが『なんか、しょぼいな』と心の中で呟いてみたりと、道草を食いながらも2人は無事にマッツァ商会に帰ったのである。
「あ、お帰りなさいなのです」
2人を見つけたティルダが駆け寄ってきた。
「どうでしたか?」
オズワルドの息子、アントニオもやって来た。
「うん、それが……」
『特に問題はないよ』と報告できればよかったのだが、
「……実は……」
「ええ!? ヘルイーグルに襲われたですって!?」
正直に話したら、店の全員に驚かれてしまった。
「お、おまけに、倒してしまって、羽毛をレナートが馬車で持って帰ってくる!?」
ヘルイーグルの羽毛は、騎士団が使うような上物の矢羽根になるそうだ。
「それから、風切り羽は羽根ペンですね」
ヘルイーグルの羽の軸は硬いので、高級な羽根ペンになるという。
「あ、羽根ペンなら加工できるのですよ」
ティルダが言った。
そのくらいなら、工房がなくても可能だという。
「じゃあ、羽根が届いたら加工してもらうか」
「はいなのです」
その後、お昼はどうするか聞かれたが、ゴローとしては途中で買い食いしてきたのでいらないと言っておいた。
「それで、この住所ってわかりますか?」
ジメハーストの町でディアラに頼まれた手紙の表書きを商会の人に見せたゴロー。
「こ、これは……」
「ゴローさん、サナさん、この方とお知り合いなんですか!?」
驚いて尋ねてくる店員たち。
「知り合いというか……この手紙を書いた人と知り合いなんですが」
「そうですか……」
「何か問題が?」
「あ、いえ、そうじゃなくてですね、この方……モーガン様は前の近衛騎士隊の隊長様でして」
「えっ」
まさかあのディアラの息子がそんな地位にいるなんて……と、驚くゴロー。
「でも……『前の』?」
「はい。今は引退されて、お屋敷に籠もってらっしゃるそうですが」
「ふうん……」
そのあたりの事情を詮索するつもりはないので、屋敷の場所を聞いたゴローは、手紙を届けに行くことにした。
「私も、行く」
「よし、行くか」
サナも、ディアラさんの息子夫婦、つまりライナちゃんの両親に会ってみたいと言うので、一緒に行くことにした。
「行ってらっしゃいです」
と、ティルダをはじめ、マッツァ商会の人たちに見送られ、ゴローとサナはモーガン邸目指して出発したのだった。
* * *
「つまり、モーガンって人は騎士爵、士爵ってことか……最低でも」
歩きながらゴローが言うと、サナが訂正するように、
「多分、男爵か子爵くらいはあると思う」
と言う。
「そうなのか?」
「うん。近衛騎士、その隊長なら、最低でもそのくらいは」
時々サナはこうしたことに詳しいな、とゴローは感心している。そしてサナの出自に関係があるのかも、とも。
そんな話をしながらゴローたちは西へと向かっていた。
『北西通り第三環状路』それが宛先の住所だったからだ。
環状路というのは、王城の周囲を巡っている道路を第一とし、そこから外に行くにつれ第二、第三と呼んでいく。
その環状路と放射状道路の交差点を住所の目安にしているようだ。
その言い方で行くとマッツァ商会は『北通り北東通り間第四環状路』となる。
それはともかくとして、ゴローとサナは第四環状路を西へ向かい、北西通りと交差したところで左へ鋭角に折れ、第三環状路を目指した。
「このあたりで聞いてみればわかりそうだな」
ということで、ちょうど歩いていた、買い物帰りの侍女風の人に尋ねてみることにする。
侍女服を着て、手にはパンが入った包みを抱えている。容姿からいって30代前半くらいだろうと思われた。
身長は160セルもないくらいで、かなり小柄だ。
「すみません、このあたりに、モーガンさんっていう方がお住まいの家があると思うんですけど……」
とゴローが尋ねると、
「モーガンは、私の主人ですが」
という答えが返ってきた。
「それはちょうどよかった。実は、ディアラさんっていう方から手紙を言付かりまして」
とゴローが言うと。侍女らしい人はびっくりした顔になった。そして、
「ディアラ様からのお手紙ですか!? ……それは直接主人にお渡しください! ご案内致します!」
と言い、ゴローとサナの前に立ってずんずんと歩き出した。
道を尋ねた場所から3分ほど歩いた邸宅がモーガン邸であった。
そこそこ大きな屋敷で、門番もいる。
ゴローとサナは、侍女と一緒だったので門番に誰何されることはなかった。
「こちらへどうぞ」
と、真っ直ぐ進んで玄関から中へ。
こういう時、使用人って勝手口とか通用門とか使うんじゃないのかなあ……と考えながら、ゴローは後に続いた。
奥へ進んでいくと、いかにも執事です、といった格好をした初老の男性が立っていた。
「お帰りなさいませ、奥様。そちらの方は?」
「主人へ手紙を持ってきてくれたお客様よ」
「そうでございましたか」
などという会話を始めたものだから、ゴローは内心でびっくりしていた。
(奥さんだったのか……とすると、マリアンさんか……)
そのマリアンは、持っていたパンを執事に渡すと、横にあったドアを開いた。
「どうぞ、主人に会ってやってくださいな」
「は、はあ」
そうゴローとサナに声を掛けながら、マリアンは部屋の中へ。
「あなた、お客様ですよ」
「うん? 客?」
「ええ。お義母さまから手紙を預かってきてくださったんですって」
「おお! それは!」
そう言って執務机の向こうで立ち上がった主人、つまりモーガンは180セルを超える身長と、がっしりした体躯を持つ偉丈夫だった。
元近衛騎士隊隊長というのも頷けるな、とゴローは思った。が、その後。
「おおっと!」
正にどんがらがっしゃん、という擬音がふさわしいほどの音を立て、モーガンは執務机をひっくり返してしまった。
「こりゃいかん」
机に載っていた何枚かの書類も床に散らばってしまう。
「あなた、落ち着きなさいな」
とマリアンが窘めるが、
「これが落ち着いていられるか! 王都の空気が合わないと言って出て行った母上から1年ぶりに手紙が来たのだぞ! それで、どれだ、手紙は? 早く見せてくれ!!」
そんなモーガンの背中を、マリアンは平手で思いっきり叩いた。
ぱあんと、いい音が鳴る。
「痛いじゃないか」
「だから落ち着きなさいと言ってるでしょう! 手紙はこちらのお2人が預かってきてくださったんですよ」
「おお、そうか! 私はモーガン。モーガン・ランド・トロングスだ。一応男爵を拝領している。といっても領地のない、名だけの男爵だがね」
照れたように笑って頭を掻くその仕草は、30過ぎのごつい男なのになんとなく愛嬌があった。なのでゴローも笑って手紙を差し出したのである。
「おお、これはまさに母上の字! 感謝する、ええと……?」
「あらいけない。お客様のお名前、聞いていませんでしたね」
「俺はゴロー」
「サナ、です」
「ゴローさんとサナさんね。……こちらへいらしてちょうだいな」
マリアンは、手紙を届けてくれた恩人をただ帰すわけにはいかない、と言って2人を応接室へ連れて行くのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月15日(火)14:00の予定です。
20200426 修正
(誤)「おお、そうか! 私はモーガン。モーガン・ダグラスだ。
(正)「おお、そうか! 私はモーガン。モーガン・ランド・トロングスだ。
20210617 修正
(誤)がっしりした体躯を持つ威丈夫だった。
(正)がっしりした体躯を持つ偉丈夫だった。




