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01-39 王都到着

 翌日はややゆっくり出発した。

「あと半日で王都ですから」

 と、アントニオ。

 どのみち、途中で昼食休みを取らねばならないそうだ。

 馬車が時速6キル(km)として、30キル(km)くらいか、と見当を付けるゴロー。

 風景は変わってきた。

 トゥチュ村を過ぎると、森はなくなり、明るい疎林と草原が交互に出てくるようになった。

 土地の起伏もなくなり、見通しのよい場所では山はすっかり遠くに離れ、大平原が広がっているのがわかる。

 そして2時間も進むと、平原は麦畑や野菜畑、果樹園へと変化していった。

 ぽつりぽつりと農家らしい建物もあり、大きな犬に似た動物を連れて見回っている人も見える。

「大きな犬だな……」

 ゴローがぽつりと言うと、御者のジャンが答えて曰く、

「牧場犬ですね。賢くて人なつこいですが、害獣には容赦ないですよ。小型の魔獣くらいならやっつけてしまいますし」

 何でも、5頭から10頭集まればイビルウルフも倒せるということだ。

「それで、このあたりは塀に囲まれていなくても暮らせるんだな」

「そういうことですね」

 各家には牧場犬が最低1頭は飼われているという。

 そして王都の近くなので治安もよく、野盗などは出ないらしい。

「定期的に警備兵が巡回していますしね」

「そうなんだ」

 御者も、ずっと無言で退屈だったのか、一旦口を開いたら次々に言葉が出てくる。

「先代の陛下と、今上陛下はとてもよいお方で、ずっと善政を敷いています」

「へえ」

「お子様……殿下たちも皆、領民のことを思ってくださるような方たちばかりで……」

「ふうん」

「ですが残念なのは、ごく一部の貴族が、きとくけえき? を減らされるのが我慢ならないとかで、時々王家に楯突いているらしいです」

「ふ、ふうん」

 『きとくけえき』というのは『既得権益』だろうかとゴローは想像した。

「まあそういう貴族は王都にいられなくなって領地に引き籠もっているんですが」

「そういうものか」

 ……と、聞きもしないのに王都の政情を、想像も交えていろいろ聞かせてくれたのであった。


 そして1時間も経たないうちに、王都シクトマの城壁が見えてくる。

「おお、すごいな」

「古い部分は300年くらい前に作られたそうです。その頃はまだ、周辺諸国との紛争があったので、頑丈な城壁を造らざるをえなかったのだとか」

「ほう」

「で、修復したり造り足したりして今のようになったのが200年くらい前だとか」

「なるほど」

「その際、ダングローブという設計技師に強度計算や再設計をしてもらったそうです」

「へ、へえ……」(ダングローブって、確かハカセのヒューマン姓だった気がする……)

「それ以降、城壁が崩れたり壊れたりすることはなくなったそうですよ。凄いですよねえ、そのダングローブっていう技師は」

「そ、そうだな」

 ハカセの足跡はどこにでもあるな……と感心したゴローであった。


*   *   *


 シクトマへの入場は、身分証があるので問題なかった。

 また、銀プレートの商人一行ということで、審査待ちで待つこともなく、スムーズに通れたのである。

「あそこが王城ですよ」

 とオズワルドが指差す先には、古めかしい西洋風の城があった。

「おお、あれがお城か……」

 初めて見る城に、ゴローは少し感激していた。

 文字どおり町の中心のようだ。

 そしてサナは……。

「おい、どうした?」

「……え?」

 その目に、涙を浮かべていたのである。

「泣きそうな顔しているじゃないか!」

「……わからない。あれを見ていたら、ちょっとだけ、悲しく、なった」

「ええ……?」

 そういえば、サナの前身はわからないんだったな、とゴローは思い出した。

(もしかすると、お城に関わりがあるのかな?)

 とも思ったが、サナ自身もそれ以上何かを思い出すわけでもなかったので、ゴローも追究するのはやめておくことにした。


*   *   *


「王城を中心に町ができていて、一番外側が城壁です」

 と、オズワルドが教えてくれる。

 城壁はおよそ8キル(km)四方。中心の王城が1キル(km)四方。

 王城の外側に幾重にも環状道路があり、また中心から八方へ大通りが通じているのだという。


「では、店へ向かいます」

 町を南北に貫く大通りから少し東に逸れ、やや城壁に寄った場所が、王都シクトマにおけるマッツァ商会の支店であった。

「なかなか広いな」

 少し僻地のような気がするが、その分敷地面積は広く、馬車を置くスペースやうまやもある。


「しばらくは私どもの店にお泊まりください」

 シクトマのことを何も知らないゴローたちに、オズワルドはそう言ってくれた。

「ありがとうございます。お世話になります」

 断っても何もいいことはないので、ゴローはそれを受けることにする。

 ただし、できるだけ早く家は確保したいと思ってはいるが。


「ではマッツァさん、私たちはこれで」

 荷物を下ろし終わると、ティルダの荷物とゴローとサナの荷物を運んでくれた馬車の御者2人は挨拶をし、空の馬車を牽いて去っていった。

 懇意にしている貸し馬車屋の者だという。

「わざわざ手配してくださったんですね、ありがとうございます」

 ゴローはあらためてオズワルドに礼を言った。

「いえいえ、お気になさらないでください。シクトマからサンバーまで運ぶ荷もあったのですから」

 そのあたりはさすが商人、できるだけ無駄は出さないようだな、と少しゴローはほっとした。


「では、ティルダさんはこちら、ゴローさんとサナさんはこちらの部屋をお使いください」

 商店とは別棟になっている家に案内されたゴローたち。

 ゴローは心配して、

「……ここって、オズワルドさんたちが泊まる家じゃないんですか?」

 と言ったが、それは心配ないようで、

「ああ、いえいえ、私どもだけではなく、従業員の家族や、お客様をお招きした時にも使っていますので気兼ねなくお使いください」

 と言われた。

 それならと、ゴローはその言葉に甘えることにした。


「ゴロー、何を気にしているの?」

 部屋には、既に荷物を運び込んだサナがおり、そんな質問を投げかけてきた。

「いや、あんまり借りを作るのが嫌だなあと思って」

「どうして?」

「商人相手に借りを作るのが気になるんだ」

 するとサナはくすりと笑った。

「ゴローの方が、貸しを作っていると、思う」

「どうして?」

「王家に献上する宝石の原石を提供したし、それを磨く職人も紹介、した。美味しいお菓子の作り方も教えた」

「うん、まあ、そうかな」

「それって、けっこう凄いこと。ゴローは、もっと自信を持つべき」

「あ、うん、はい」

 いつもと少し違うサナの様子に、ゴローは反論できなかった。

 こんなところはやっぱり自分より先に生まれただけのことはある、と思うゴローだった。

「……何か失礼なこと、考えてない?」

「い、いや、べつに?」

「……そう?」

 サナに睨まれ、ゴローは内心冷や汗をかいた。

(今、念話は使ってないよなあ……)

「うん、使ってない」

「!?」

「ゴローって、すぐ顔に出る、から」

「マジか……気を付けよう」

 サナに言われ、ゴローはがっくりと肩を落とす。

 それにしても、洞察力に優れてるなあと、サナに感心したゴローであった。


*   *   *


 その日の夕食はオズワルド、アントニオらと共に摂ることになったゴローたち。

「ゴローさん、明日、さっそく『金緑石』を納めに行ってまいります」

「あ、そういえば早く納めろと言われていたんでしたね」

「ええ」

 王女殿下も早く見てみたいのだろうなとゴローは思った。

「父さん、気をつけて行きなよ?」

 アントニオが気遣う。

「うちが『金緑石』を納める話はもう広まっているはずだから、狙ってくる奴がいないとも限らないからさ」

「そうだな。店の者に付いてきてもらおう」

 ここでゴローが、

「あ、それでしたら俺とサナが一緒に行きますよ」

 と発言。

「え、お2人が?」

「ええ。泊めていただいたお礼に、護衛くらいできますよ」

 同時に、往路だけでもこのシクトマの町を教えてくれるとありがたい、と言った。

「それはありがとうございます。心強いですな。では店の者2人と、ゴローさんとサナさんにも一緒に来てもらいましょう」

 そういうことになったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月8日(火)14:00の予定です。


 20200403 修正

(誤)「しばらくは私どもにお泊まりください」

(正)「しばらくは私どもの店にお泊まりください」

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