15-04 一夜目
『三連湖』を飛び立ったゴローたちは、西へと進む。
「今夜はどこで過ごしましょうか」
「そうだねえ、明るいうちに決めておかないとねえ」
時刻は午後3時。
まだまだ日は高いが、明るいうちに幕営地は決めてしまいたい。
これが本当の意味での『一夜目』となるのだから、とゴローは考えている。
船でいえば、役割分担的にハカセが船長、ゴローが航海士、サナは助手でアーレンが機関士、フランクが操舵士。
ヴェルシアは船医、ティルダは資材管理員でラーナが事務員、ルナールが調理士といったところだろう。
* * *
眼下は相変わらず緑また緑、密林が続いていた。
「あ、あそこはどうですか、ゴローさん?」
ヴェルシアが進行方向右手にある山を指差した。
「あの低い山、山頂は草原みたいですよ」
「ああ、いいかもな。ハカセ、どうでしょう?」
「うん、そのへんはゴローに任せるよ」
ということだったので、ゴローはフランクに指示を出し、その草原に着陸してみることにした。
* * *
「うん、悪くないな」
山頂はサッカーコートほどの広さで、かなり平坦である。
「ここは、元火口だったのかもな」
ゴローは、そう判断した。
火山の噴火口が風化し、周辺が崩れて中へ落ち込み、こうした平らな山頂ができたのではないか、と考えたわけである。
「『蓼科山』……?」
ふと、『謎知識』が、聞き覚えのない山の名を囁き、岩だらけの広い山頂のビジョンが脳裏に浮かんだゴローであった。
* * *
危険がないか、周囲を調査することに。
「……うん、周りに変な存在はいないわね」
フロロの分体が調べてくれた。
「よし、ポチ、少し運動してこい」
「うぉん」
ここには嫌な臭いもないとみえ、ポチは勢いよく『ANEMOS』を飛び出していった。
あっという間にその姿は見えなくなる。
「危険はなさそうだから、今夜はここで休もうかねえ」
「はい、ハカセ」
ただ1つの欠点は水がないこと。
が飲料水の備蓄は3日分あるし、『水の妖精』のクレーネーも『癒やしの水』を出してくれる。
今日のところは問題なし、である。
「それでは、明るいうちに支度を始めます」
すっかり使用人として馴染んだルナールは、てきぱきと夕食の支度を始めた。
ゴローは周辺の散策がてら、周囲の地形を把握しに出ていった。
ヴェルシアは何か薬草や珍しい植物がないか、着陸地の周辺を調べている。
ティルダはティルダで、何か珍しい鉱物がないか探しに出ていた。
ハカセ、アーレン、ラーナらは『ANEMOS』に残って、サナといっしょにティータイムだ。
「ああ、のんびりするねえ」
「初日からいろいろありましたからね」
「これから先は、未知の土地が広がっているんですよね……」
「クッキー、美味しい」
のんびりした午後のひとときである……。
* * *
大分日も傾いた頃、ポチが帰ってきた。
その少し前にゴローも戻ってきており、ポチを出迎える。
「ポチ、おかえり」
「わふわふ」
ひとしきりゴローに撫でてもらったポチは、走り回れて満足した、という顔で、『ANEMOS』内の自分の犬小屋に入り、丸くなったのである。
ヴェルシアとティルダはその1時間前にはもう戻ってきており、収穫を見せ合っている。
「これ、珍しい植物なんですよ。乾燥させればハーブとして使えます。魚料理なんかには合うと思います」
僅かに甘い香りのする草を3束ほど採取してきたヴェルシア。
それらは乾燥させて、ハーブとして使うことにする。
さて、ティルダであるが、
「この辺の岩は『かんらん岩』と『玄武岩』なのです。なのでごくごく小さい『かんらん石』は見つかりましたが、宝石にはなりそうもないのです」
と報告した。
『かんらん岩』は『橄欖岩』と書き、『橄欖』はオリーブのことである。
(実際にはオリーブとカンランは別の植物で、オリーブはオリーブ科、カンランはカンラン科)
閑話休題。
『オリーブ色』というのはオリーブの実のようなくすんだ黄緑色のこと(オリーブの実は熟すと黒くなるが、それはそれ)。
で、かんらん岩に含まれる『かんらん石』は、その黄緑色の外観から鉱物名を『オリビン』、宝石名を『ペリドット』という。
余談だが、地殻を構成する主な岩石は花崗岩と玄武岩、マントルを構成するのはかんらん岩であると言われる。
更に余談だが、地球での体積比率はかんらん岩が82.3パーセント、玄武岩が1.62パーセント、花崗岩が0.68パーセントというデータがある。
「それは残念だが、ペリドットは研究所にもあるからなあ」
「そうなのです」
つまりここでは、めぼしい鉱石・宝石は見つからなかったということである。
* * *
「それじゃあ、明るいうちに夕食にしましょう」
ゴローが言うと、全員が頷く。時刻は午後5時頃。
西へ向かっているので、元々の時刻(標準時)とは変わってきているはずなのだ。
「こういう時、日時計が一番正確なんですよね」
そもそも太陽の位置で時刻を決めていたからである。
「南中時刻……って言っていたっけね? この先、それを使って補正していくしかないかねえ」
「そうですね……」
基準は、太陽が真南に位置し、見かけの高度が最も高くなった時を『正午』と決めること。
その後、更に西へ移動するとまたずれては来るが、1日のうちであれば許容範囲である。
そんな会話をしながら夕食の支度は進んでいく。
もちろん『ANEMOS』の中で、である。
献立は野菜と乾燥肉のスープに乾パン。
乾パンはさくさくであるが、スープに浸すと軟らかくなる。
食感を変え、味も変わるのだ。
そして締めはお茶(サナだけ純糖付き)。
もう真っ暗だが『ANEMOS』の中は明るい。
魔導ランプが煌々と灯っているのだ。
「明日も西へ行くわけですが」
ゴローが切り出した。
「地図を作成しながらなので時速50キルくらいで飛んでもらいたいんですが」
航海士的役割のゴローとしては、ただ飛ぶだけでなく地図の作成も必要だと考えている。
「あたしゃそれでいいと思うよ」
別にただ飛んでいくのが目的ではないのだ。
「途中、なにか面白い物があったら見てみたいしねえ」
「でしょうね。そのあたりも考えています」
時速50キルで1日に10時間飛ぶとすれば500キルを移動することになる。
仮にこの世界が惑星上にあると仮定し、その惑星の大きさが地球と同じだとすると1周は約4万キル、80日間で世界を1周できるわけだ。
『謎知識』がどこかで聞いたような日数だ、と囁いているのを無視し、ゴローは説明を続ける。
「気になる場所があったら『単眼鏡』で見てみることもできますしね」
「そうだねえ」
「あともう1つ、これはハカセに」
「何だい?」
「地表を写し取る魔導具を作ってもらえれば、もっと飛ぶ速度を上げられますが」
要は『カメラ』がほしい、というわけである。
「なるほどねえ……ちょっと考えてみようかね」
『ANEMOS』内にもちょっとした魔導具を作れるくらいの資材は用意してあるのだ。
「で、どういう原理なんだい?」
ハカセにはゴローの提案が『謎知識』によるものだとわかっていた。
「問題は、見える風景を記録する方法ですね」
なにかいい魔法はありませんか、と逆にゴローがハカセに尋ねた。
「そうだねえ……『焼き付け』という、絵を紙に焼き付ける魔法ならあるよ」
「そんな便利なものがあるんですか」
「便利でもないよ。焼き付けたい絵を正確にイメージしないとぐちゃぐちゃになるからね」
「じゃあ、例えば文章を焼き付けることは?」
「できるだろうけど、手で書いたほうが早いねえ」
「なるほど……」
「何かいい方法のヒントを『謎知識』で考えてくれないかねえ?」
「そうですねえ……ああ、あれはどうかな?」
「うん? 何かいいアイデアが見つかったかい?」
「はい」
果たして、ゴローが思い付いたアイデアとは……。
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次回更新は1月29日(木)14:00の予定です。




