14-30 事の顛末
ゴローはサナにバックアップしてもらい、王城の魔導士たち3人にコーチを行った。
その結果、全員無事『浄化』の魔法が使えるようになったのである。
「ゴロー殿、感謝する」
王城筆頭魔道士ローノウス・グレド・ジャッジはゴローに握手を求め、ゴローもそれに応じる。
「この歳になって、新しい魔法を覚えられるとは思わなかったわい」
「……お耳に入っていると思いますが、旧教会の連中が『穢れ』を王都にばらまこうとしているようです。どうかお気を付けください」
「うむ、王城の守りは任せてもらおう。町中の方も、事件が生じたらすぐに対処する」
筆頭魔導士が受け合ってくれたなら安心と、ゴローは胸を撫で下ろしたのである。
* * *
「ゴロー、ありがとうな」
モーガンは礼を言い、
「借りていた魔導書だ。それから今回のコーチに対する礼金だ」
と言って、丁寧に梱包した魔導書の1ページと、袋に入った金貨を渡してくれた。
「えーと、ありがとうございます?」
「なに、礼を言うのはこっちだ」
モーガンは笑ってゴローの肩を叩いたのだった。
* * *
「……無事済んで、よかった」
「まったくだ」
ゴローとサナは徒歩で屋敷へと向かっていた。もう夕暮れ時である。
「お昼を食べそこねたな……」
「……うん」
ゴローとサナは『人造生命』。
基本的に食事の必要はない。
ハカセの方も、『屋敷妖精』のマリーがいるから問題ないだろうと思われた。
……が。
「ゴロー、帰ったら、甘いもの」
「わかってるよ」
サナにとって、嗜好品としての『甘味』はまた別のようである……。
* * *
「ただいま」
「ただいま帰りました」
「おかえり、ゴロー、サナ」
2人が屋敷に帰ると、珍しくハカセが出迎えてくれた。
マリーはちょうど食事の支度の真っ最中だそうだ。
3人揃って食堂へ行くと、
「お帰りなさいませ、ゴロー様、サナ様。お出迎えできず、申し訳もございません」
「いや、いいんだ」
と、恐縮するマリーに微笑みかけ、ゴローも手を洗ってから配膳を手伝う。
「おそれいります」
とはいえ、もうほとんど手伝うこともなく、支度はすぐに済んでしまう。
「それじゃあ、食べようかね」
「はい」
「いただきます」
3人は温かい夕食を口にする。
献立は大麦のリゾット、ベーコン入りのクリームシチュー、マスの塩焼き、プレーンオムレツ、それに青野菜のサラダ。
サナだけはプレーンオムレツの代わりに甘い卵焼きである。
ゴローたちは王城で魔導士たちに『浄化』の魔法をコーチしたことをハカセに話した。
「ふうん……今の魔導士はレベルが落ちたねえ……それともこの王国に限ってのことなのかねえ……」
嘆かわしい、とハカセは小さくため息をついた。
そんなこんなで食事も終わり、お茶で締めくくる。
「ところでハカセ」
このタイミングで、ゴローは気になっていたズーラの話をした。
「ふうん……『穢れ』らしき物を飲んで化け物に、ねえ……」
「で、『浄化』の魔法を掛けたら元に戻ったんですよ」
「興味深いねえ」
「ああいう変化って、可逆なんでしょうか? なんか気になって」
ゴローは、この点がずっと気になっていたのだ。
「肉体が作り変えられると仮定したら、元に戻るのはおかしいでしょう?」
「そうだねえ……ということはだよ、作り変えられていないのかもね」
「え?」
「例えば、『穢れ』が擬似的な肉体を作り出していた、とか」
肉襦袢みたいなものかな、とゴローは想像してみる。
「でも、見たところでは、肉体が膨れていましたけど……」
「うーん、そう見えただけかもしれないよ? 考えてもごらん、そんなやり方で肉体を膨らませようとしても、破裂するだけだろうさ」
「それは確かに……」
ハカセの言うことは正論だ、とゴローもそれは理解できる。
「あんたたちが使う『強化』とは全く違うからね」
「……でも、身体に青筋が浮かび上がるのも見ましたし……」
だがゴローとしては、まだ納得ができなかった。
「あたしゃ、実際に見ていないからねえ……あと可能性があるとしたら……」
ゴローの疑問に、ハカセは改めて考えていた。
「だとすると、『浄化』に、何か特殊な効果がある、という可能性かねえ」
「特殊な効果……ですか?」
「ああ、そうさ。例えば、『治癒』とかね」
「それで、異常な状態になった肉体が元に戻ったということですか……」
「あくまでも可能性さね」
『穢れ』に肉体を急速に変貌させる効果があるなら、その反対の『浄化』にも、肉体を急速に癒やす効果があってもおかしくない、とハカセは言う。
そう言われると、ゴローも反論はできなかった。
「まあ、一度その変貌を見ないと……いや、見たくないけどさ……推測以上のことは言えないよ」
確かなことがわかるとも言えないけど、と言って笑うハカセであった。
* * *
ゴローたちは、それ以上旧教会の悪さについて話しても仕方ないので、今度のことを話し合うことにした。
「早く『大遠征』に行きたいよねえ」
「ですね。ただ、『旧教会』の件が片付かないと不安ですね」
「まあ、それもそうだねえ」
「我々で、何かできることって、ある?」
「うーん、残党を一掃すること……かな?」
「どうやって?」
「さあ……」
そうそう急に思い付けるものでもない……。
が。
「例の捕虜……ズーラっていったっけ? そいつが白状すれば、事態は進展するんじゃないかねえ?」
「あ、そうかもしれませんね」
「うん。あと、そいつが出てきたアパルトマンについても、ゴローが報告しているなら、そっちにも何か手を打ってあるんじゃない?」
「その可能性はあるか……」
ガサ入れ、などという単語が『謎知識』から流れてきたが、それを流したゴローは、
「それで一網打尽にできたらいいですね……」
と、淡い希望をいだいたのである。
* * *
その希望は、意外と早く現実になる。
明けて翌日の午前9時、モーガンが屋敷にやって来た。
「ゴロー、いるか?」
「はい、おります。おはようございます、モーガンさん」
「おはよう。……朗報をもってきたぞ」
「とにかく、中へどうぞ」
「おう」
モーガンを応接室に通すと、すかさずマリーがお茶を淹れてくれる。
そしてサナもやって来た。
「おうサナちゃん、おはよう」
「おはようございます」
簡単に挨拶をしたあと、モーガンはお茶を一口。
「うん、いつもながら美味いな」
そしてモーガンは来訪の目的を口にした。
「ゴローのお陰で旧教会の残党を一網打尽にできたよ」
「そうなんですね」
「昨夜、隠密騎士隊で急襲したからな」
モーガンの説明によると、昨夜遅く、隠密騎士隊20名で例のアパートメントを急襲し、旧教会の残党5人を捕らえたという。
無抵抗なら逮捕しづらかったが、全員が反抗し、隠密騎士隊に攻撃を加えてきたため躊躇することなく逮捕できたそうだ。
うち2人は『穢れ』の入った小瓶を使おうとしたが、同行した王城魔導士のライテス・ケンス・スカラーズがすかさず『浄化』を使い、事なきを得たという。
「早速役に立ったぞ」
「ですねえ。よかったですよ」
「捕らえた連中はこれから……というか今現在も尋問中だ。他にも仲間がいるかもしれんしな」
「そうですね」
とにかくこれで、一応王都の危機は去ったと思われ、ゴローたちもいよいよ旅立てそうな気がしてきたのである。
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次回更新は11月6日(木)14:00の予定です。




