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14-27 緑柱石

 リターンコンパスのマーカーの件で勘違いしておりましたため、大幅修正をしました。

 面目次第もございません。

「おや、ゴローさん」


 マッツァ商会の前で、ゴローは商会主オズワルド・マッツァに声を掛けられた。


「ああ、オズワルドさん」

「なにかお買い物ですか?」

「いえ、特に用もなく……」


 と言いかけたゴローは、オズワルドたちが何か情報を持っているかもしれないと思い、


「ちょっと、お話できませんか?」


 と聞いてみた。


「ええ、他ならぬゴローさんですから、いいですよ。その後、こちらの相談にものってください」


 と快諾。

 早速、商会奥の応接室で話をすることになった。

 出されたお茶を一口飲み、ゴローは口を開いた。


「……まず、つかぬことをうかがいますが、通りの東端にあるアパートメントはご存知ですか?」

「存じておりますよ。かなり古い建物で、入居者は10人くらいだと思います」

「つまり、かなり部屋はいているということですか?」

「そうなりますね」

「……」

「あのアパートメントが何か?」

「ええ、何と言えばいいか……不審な人物を見かけたもので」


 詳細を説明するわけにはいかないので、言葉を濁して説明するゴロー。


「不審な? ……もしかして『教会関係者』ですか?」

「そ、そうです」

「なるほど……」


 納得顔のオズワルド・マッツァ。


「私としても、あのアパートメントは怪しいというか……不審に思っているんですよ」

「と言いますと?」

「思えば、『教会騒動』の後、住人が総入れ替えになったり」

「つまり、元々いた住民が出ていって、教会関係者らしき者が入居した?」

「確証はありませんが」


 教会関係者といっても、『助司祭』以上の者は指名手配され、ほとんどが逮捕されているから、アパートメントに住んでいるのは助司祭未満の者ということになる。


「『プルス教』では、確か『修道士』『修道女』となっているはずです」


 『助祭』とか『副助祭』はないんだな、と『謎知識』を参照しながら説明を聞いているゴローであった。


「そうすると、指名手配されていない教会の関係者が住み着いている、と?」

「その可能性は大です」

「通報は?」

「してはいません。確信がなかったので」


 また、今のところ特に罪を犯しているわけではない。

 加えて、商会に嫌がらせなどをされると困る、という打算的な判断もあった、とオズワルドは正直に述べた。


「すると、俺が通報するなら問題はないですね?」

「ええ、ありませんね」


 これでおおよその裏は取れた。


「モーガンさんに知らせてみようかと思います」

「モーガン殿なら頼りになりますな」

「ええ」


 それでアパートメントの件は終了。

 次はオズワルトからの話を、ゴローが聞く番である。


「ゴローさん、今、大きな『エメラルド』は手に入るでしょうか?」

「エメラルドですか? ……うーん、大丈夫だと思いますよ」

「できるだけ大きくて、傷や欠陥のないものが欲しいのですが」

「それは難しいですね」


 エメラルドの鉱物名は『緑柱石(ベリル)』。

 ベリリウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物である。

 なお、ベリリウムを含むからベリルなのではなく、ベリルに含まれているからベリリウムと呼ばれるようになったそうである。


 含む元素によって色が変わる。クロムとバナジウムを含んで緑色に発色したものが『エメラルド』。

 水色の『アクアマリン』は鉄による発色。

 マンガンを含むとピンク色やバラ色となって『モルガナイト』となる。

 3価の鉄イオン(アクアマリンは2価の鉄イオン)を含むと黄色あるいは金色となって『ヘリオドール』。

 純度が高いと無色となって『ゴーシェナイト』と呼ばれる。


 さて、そのエメラルドはその内部に、独特の傷(欠陥)が無数にあり、これが天然ものの証明ともなっている。

 が、今回の依頼は、傷や欠陥のないもの、という条件が付いていた。


 なお、現代日本においては、エメラルドを合成することも可能である。

 必要な鉱物成分を高温で溶かし、それをゆっくり冷却して結晶を成長させる方法(フラックス法)。

 あるいは高温高圧の環境下(天然の鉱物形成に近い条件)で鉱物の成分を溶かして結晶させる方法(熱水法)。


 だが、ゴローたちの世界ではまだまだ合成は無理である……。


「探してはみますが……あまり期待しないでください」

「それでも、お願い致します」

「わかりました」


 こうして、ゴローとオズワルド・マッツァとの会談は終わった。


*   *   *


「さて、それじゃあ一旦帰るとするか」


 マッツァ商会を出たゴローは、小走りで屋敷へと戻る。

 帰り道、『念話』でサナに状況を説明した。


〈……と、いうわけだ〉

〈うん、わかった〉

〈ハカセに説明しておいてくれ〉

〈うん〉


 そうこうするうち、ゴローは屋敷に着いてしまった。


「お帰りなさいませ、ゴロー様」


 『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーが迎えてくれる。


「変わったことはないよな?」

「はい、ございません」

「なら、いいんだ」


 そして屋敷に入ると、ハカセが待っていた。


「おかえり、ゴロー」

「ただいま帰りました」

「サナから聞いたけど、どうやらケリが付きそうだねえ」

「だといいんですが。……サナは?」

「まだ『帰還指示器(リターンコンパス)』を見てるよ」


 そう言われてゴローもポケットから『帰還指示器(リターンコンパス)』を出し、針の動きを見る。

 針はほぼ東を指したまま動かない。


「あの男は、『マーカー』を仕込んだ荷物をアジトに置くだろうから、その後の動きは追えないよな……」

「それもそうだねえ。サナはまだ『帰還指示器(リターンコンパス)』を見つめているよ」

「あれ? 針が、少しだけ動いてるような……」

「あの男……じゃないかもしれないけど、『マーカー』が動いてる、ってことだろう?」

「そうです。……これは……『無害化した呪具』が動いてますね。ガーゴイルの部品の方は動いていません。……しょうがない、もう一度行ってきます」

「気を付けるんだよ」


 マーカーの方角をより詳しく測定するため、ゴローはもう一度屋敷の外へ出た。

 サナとは『念話』でやり取りをする。


〈サナ、そっちはどんな様子だ?〉

〈動いてない〉

〈そうか、やっぱり『呪具』だけが動いているな〉


 今度は2方向からの方向探知ができないので、ゴローは自身が移動して方向を特定することにした。

 ゴローは北環状4号路では男と鉢合わせするおそれがあると見て、道路1つ分南へずれ、北環状3号路を東へ向かった。

 その結果、『帰還指示器(リターンコンパス)』の針は北を指すようになり、『マーカー』が道路1本分北にあることを確信している。


「よし、今度はこっちが東へ移動だ」


 そうすると、針は北西を向いた。


「これは、町の外へ出ようとしているのかな?」


 自ら移動した位置と針の向きから、ゴローはそう結論づけた。


〈サナ、また池へ向かってるみたいだ〉


 『帰還指示器(リターンコンパス)』の指示方向から、ゴローは『マーカー』が再び『ルサルカのいる池』へ向かっているのではないかと推測を立てた。


〈とすると、持っている『呪具』をもう一度池に運んでいるというわけだな〉

〈『けがれ』をもう一度宿らせたのかも〉

〈しつこい奴らだな……〉

〈うん、同感〉

〈……池が目的地だとしたら、このままじゃ後手に回るな……〉

〈じゃあ、私はここから池へ、向かう〉

〈挟み撃ちか〉

〈うん〉


 屋敷の北側に、城壁の外へ抜け出る隠し通路がある。

 そこを使えば、ゴローよりも早く『池』へ行くことができるはずなのだ。


〈じゃあ、頼む。俺もできるだけ急ぐから〉

〈了解〉


 そしてサナもまた池を目指し、屋敷を出たのである。

*   *   *


 城壁の周囲に張り巡らされた堀の下を抜け道で抜け、ダミーの霊廟れいびょうから出れば、そこは薄暗い林の中。

 林を抜け、北西へ向かえばじきに『翡翠の森(ヤーデヴァルト)』である。

 くだんの池はその南東の一角にある。


 『強化(ホプリゾーン)』2倍で走ったサナは、男が来る前に池に着いた。


〈ゴロー、今、着いた。まだ誰も来ていない、みたい〉

〈俺の方は西北西に向いているから、まず間違いなくそっちへ向かっているな〉


 つまり、サナとゴローの間に『マーカー』がある、ということになる。


〈私は、隠れて池を見張ることにする〉

〈そうか。俺も人目がなくなったから、これから全力でそっちへ向かう〉

〈うん〉


 そして……。


 草を踏む足音が、強化したサナの耳に届いた。


〈ゴロー、来た、みたい〉

〈そうか。俺もあと2分くらいで着く〉

〈うん〉


 30秒後、修道服を着た男が姿を現した……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月16日(木)14:00の予定です。


 20251009 修正

(誤)

〈サナ、どんな様子だ?〉

〈少し、北へ向いた〉

〈そうか〉


 ゴローは北環状4号路では男と鉢合わせするおそれがあると見て、道路1つ分南へずれ、北環状3号路を東へ向かった。

 その結果、『帰還指示器(リターンコンパス)』の針は北を指すようになり、『マーカー』が道路1本分北にあることを確信している。


〈ゴロー、どんどん北へ向いている。今、北東〉

〈こっちは相変わらず北のままだ。……すると、また王都の外へ出たかな?〉

〈その可能性は高そう。針はじりじりとより北を指して動いてる〉

〈こっちは北から北西に向かって動き始めた。こりゃ、また池へ向かってるな……〉


 『帰還指示器(リターンコンパス)』の指示方向から、ゴローは『マーカー』が再び『ルサルカのいる池』へ向かっているのではないかと推測を立てた。


〈とすると、持っているのはやっぱり『呪具』だな〉

(正)

〈サナ、そっちはどんな様子だ?〉

〈動いてない〉

〈そうか、やっぱり『呪具』だけが動いているな〉


 今度は2方向からの方向探知ができないので、ゴローは自身が移動して方向を特定することにした。

 ゴローは北環状4号路では男と鉢合わせするおそれがあると見て、道路1つ分南へずれ、北環状3号路を東へ向かった。

 その結果、『帰還指示器(リターンコンパス)』の針は北を指すようになり、『マーカー』が道路1本分北にあることを確信している。


「よし、今度はこっちが東へ移動だ」


 そうすると、針は北西を向いた。


「これは、町の外へ出ようとしているのかな?」


 自ら移動した位置と針の向きから、ゴローはそう結論づけた。


〈サナ、また池へ向かってるみたいだ〉


 『帰還指示器(リターンコンパス)』の指示方向から、ゴローは『マーカー』が再び『ルサルカのいる池』へ向かっているのではないかと推測を立てた。


〈とすると、持っている『呪具』をもう一度池に運んでいるというわけだな〉


(誤) そしてサナもまた『帰還指示器(リターンコンパス)』を手に、屋敷を出たのである。

(正) そしてサナもまた池を目指し、屋敷を出たのである。


(誤)

〈『帰還指示器(リターンコンパス)』の向きは?〉

〈東南東〉

〈俺の方は西北西だ〉


 つまり、サナとゴローの間に『マーカー』がある、ということになる。

(正)

〈俺の方は西北西に向いているから、まず間違いなくそっちへ向かっているな〉


 つまり、サナとゴローの間に『マーカー』がある、ということになる。

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― 新着の感想 ―
>「おや、ゴローさん   お待ちしていましたよ今度はどんなものを持ってきてくれたのですかそれから今度仕入れた中にまた妙なものg 凹rz マ「ない↑ですよ(呆」そんな毎回(呆 ←あそお? そりわともか…
まぁマリー関係で不審なことが起こって、犯人の手掛かり掴めて、カップルストーン使ってアジト探していたら見つけた………みたいに説明すれば良いのかと思います。カップルストーンのことはモーガンさんも知ってます…
>>住人が総入れ替えに 仁「なりすましで無いだけマシか・・・」 明「そっちだと本来の住人が・・・」 56「恐ろしいことを・・・・・」 >>できるだけ大きくて、傷や欠陥のないもの 仁「相当の太客?」 …
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