14-25 真相
「『帰還指示器』で追跡できないかねえ?」
『夫婦石』を使った、マーカーと方向指示器である。
「そうですね……『マーカー』さえうまく取り付けられればいけるんじゃないでしょうか」
が、それはそれでなかなか難しそうである。
「何かを持ち帰らせれば、いい」
サナがそんなことを言い出した。
「持ち帰らせる、かい……」
「持って帰ろうと思うようなものを置いておけばいいですかね?」
「それだろうねえ」
「そうすると……『ガーゴイル』の部品とか、無効化した『呪具』とか?」
「確実とはいえないけど、可能性はありそうだねえ」
「やるだけやってみましょうよ」
そういうことになって、ごくごく小さな『夫婦石のマーカー』を、無害化した『呪具』にちょっと傷を付け、中に仕込んだ。
それとは別に、『ガーゴイル』の『制御核』を2つに切って(ゴローの『ナイフ』で)中もちょっと抉り、そこに『マーカー』を詰め込んでから『制御核』を接着。
切った線が見えるが、むしろ持ち帰って調べてみようとするのではないかと期待した。
「あとは、また『ガーゴイル』が来た場合、目的以外に興味を持たない可能性がありますよね」
「そうだねえ……」
「なのでその場合、『マーカー』を松ヤニか何かで背中とか足の裏あたりにくっつけるのはどうでしょう」
「足の裏だと踏まれて割れそうだね」
「じゃあ、やっぱり背中に」
そこまではいいが、どうやってくっつけるか、である。
いくら『ガーゴイル』が命令以外の動作をしないといっても、近付いて背中に『マーカー』を貼り付けることを許すかどうか。
「そうだねえ……」
「『風魔法』で木の葉なんかと一緒に吹き付けるというのはどう?」
「それならいけるかもしれない」
という話がまとまり、『風属性魔法』である『風の矢』を使って、木の葉と一緒に『マーカー』を飛ばす練習をするゴロー。
サナとハカセは『帰還指示器』を調整した。
「3つの『帰還指示器』、どれがうまくいくか、ですね」
「全部うまく行けばいいんだけどねえ」
「とりあえず『ガーゴイル』の『制御核』と『呪具』を置いてきます」
そのあとはまた、待機となる……はずだったのだが。
「ゴロー、いるか?」
午前9時半、モーガンがやってきたのである。
* * *
「おお、いたな。元気そうじゃないか」
「モーガンさん、お久しぶりです」
応接室で応対するゴロー。
今回は、ローザンヌ王女は一緒ではなく、モーガン1人であった。
ちなみにハカセは屋敷の奥に退避済みである。
「無事『ジャンガル王国』に『双方向夫婦石通信機』を届けてくれたこと、礼を言うぞ」
「いえ、依頼されたことでしたから」
「うむ。依頼完遂については『ジャンガル王国』から『双方向夫婦石通信機』で連絡が来た。その折、こちらへの報告は省略してもよい、となったわけだが」
「はい」
依頼が果たされたことは、『通信』が入ったことで確認できるわけで、王都に戻った際にいちいち王城へ報告に来ずともよい、ということである。
「それはそれとして」
「はい」
「なんでも、『ジャンガル王国』にも『飛行船』を納めたそうだな」
「あ、はい。まずかったでしょうか?」
「いや、問題はない、『ジャンガル王国』は友好国であるし、ゴローはあの国の名誉貴族であるしな」
問題にはならないということでほっとするゴロー。
そこへサナが飲み物を持ってやって来た。
「いらっしゃいませ、モーガンさん」
「おお、サナちゃん、元気そうで何より」
そう言ってモーガンは出されたお茶を一口、二口。
「うん、美味い。……ここのお茶を飲むと、なんとなく胃腸がすっきりするような気がするよ」
『癒やしの水』で淹れたお茶なので、そうした効果があるようだ。
が、さすがにそれは暴露できないので、
「やっぱり『屋敷妖精』が手伝ってくれると違うんでしょうかね」
と誤魔化しておく。
「そうかもしれんな。……ところで」
モーガンも、このことには深く突っ込まず、話題を変える。
「ここ数日、おかしなことはなかったか?」
「おかしなこと、ですか?」
「そうだ」
「それでしたらちょっと……」
実は『穢れ』の件があったわけだが、どう話そうかとゴローは悩んだ。
「話しにくいならいいんだが」
「他にも、何かあったんですか?」
「うむ。……『隠密騎士』から報告があったんだが、元教会の連中が何やら暗躍しているらしい」
「元教会、ですか」
「そうだ。今は取り潰されたが、ゴローにも関わりがあったからな」
「ご心配、ありがとうございます」
ゴローは礼を言った。
「それで、そいつらの目的は? 何かわかったんですか?」
「ああ。復讐だ。逆恨みとしか言いようがないがな」
「復讐……」
サナの予想が当たったようである。
「逃げおおせた『大司教』ではないかと睨んでいる」
「ありそうですね。でも実際に行動しているのはその手下なんでしょう?」
「まあそうだろうな。大司教は確か60過ぎだから実行犯にはなれんだろう」
「……そういえば、『教皇』はどうなんですか?」
こうした宗教団体のトップは『教皇』と相場が決まっている。
「『教皇』は……ドンロゴス帝国へ逃げ、没したという話だ。当事でも90歳を過ぎていたからな」
「そうでしたか」
となると、『大司教』が今のトップということになりそうだ、とゴローは想像した。
「手下はどのくらいいるんでしょう?」
「うむ、多くはないと思うぞ。10人には満たないだろう」
「そうですか……」
〈ゴロー、モーガンさんにはある程度話しておいた方がいいと思う〉
サナからそんな念話が入った。
〈そうだな……『呪具』とか『穢れ』とか……どこまで話そうか……〉
〈私が、話してみる〉
〈うん……頼むよ〉
ということで、サナから『呪具』に関して話してみることになった。
「実は、先日、こちらに戻ってきた時に、マリーが異常を感じ取りました」
「マリー……『屋敷妖精』だな」
「はい。……そして、調べてみると、『穢れ』が屋敷の敷地内に漂って、いました」
「『穢れ』……聞いたことがあるような、ないような……」
「要は『悪しき気』と、考えてください」
ただし瘴気とは違い、人間に直接の悪影響……気分が悪くなる、昏倒するなど……はない、とサナは補足。
「なるほどな。それで、どうした?」
「マリーが、なんとか祓ってくれました」
「さすが『屋敷妖精』と、いうわけか……」
〈うまいな、サナ〉
マリーのお手柄、ということにしておくことで、他の場所に『穢れ』が生じても駆り出されることはないわけだ。
『屋敷妖精』は憑いた家から遠くへは離れられないのだから。
「その『穢れ』が、教会の仕組んだものだと、したら……」
「うむ。……王家……王城も狙われるかもしれんな」
「はい。あるいは王都、が」
「無差別攻撃が一番厄介だな……」
この場合の拠点の護りには人員が必要であるが、とてもそこまで手が回らない、とモーガンは渋い顔になった。
「『穢れ』を祓うことのできる人っていないんですか?」
「……どうなのだろうな……私は知らん」
「そうですか……」
〈どうしよう、ゴロー〉
〈俺に聞かれても……〉
〈『浄化』って、古代魔法かもしれないとハカセが言ってたよな?〉
〈うん〉
〈そんなものを簡単に教えるわけにはいかないよな?〉
〈うん……〉
「………………」
「…………」
「……」
黙り込んでしまう3人だった……。
* * *
と、そこへ、『屋敷妖精』のマリーがやって来た。
「ご歓談中、失礼いたします」
「お、マリー、どうした?」
「はい、こういうものがございます」
「ん?」
マリーは古い羊皮紙を差し出した。
そこには何やら、複雑な魔法文字が書かれている。
「これは、この屋敷に古くから伝わる魔法書の一部です」
「ほう?」
「そしてこの内容は『浄化』。『穢れ』を払うことのできる魔法です」
「何だって!?」
〈……ゴロー、きっと、ハカセの仕業〉
〈ああ、そうか〉
〈きっと、マリーから会談の様子を聞いて、用意してくれたんだと、思う〉
〈さすがハカセだな〉
いかにも古文書に見える。
実際、古い羊皮紙に古いインクで書いたものなのだろう……。
「こ、これは素晴らしい。……貸してもらえるのかね?」
「はい、モーガン様」
「ありがたい……持ち帰って、複写させてもらおう」
「有効に、お使いください」
「かたじけない」
そしてモーガンは大急ぎで帰っていったのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月2日(木)14:00の予定です。
20250926 修正
(誤 問題にはならないという音でほっとするゴロー。
(正)問題にはならないということでほっとするゴロー。
(誤)そこには何やら、複雑な魔法文字が書かれていkる。
(正)そこには何やら、複雑な魔法文字が書かれている。