14-23 やって来た謎
「なあ、もう少し聞いてもいいか?」
「……なに」
小首を傾げる『ルサルカ』。
「……この池に、……そう、おかしな物が沈んでいたのは知ってるかい?」
『呪具』と言って通じるかどうかわからなかったので『おかしな物』と表現するゴロー。
「うん、ぼんやりとだけど、おぼえてる」
「それがどういう物か、わかるかい?」
「よくわから、ない。でも、あれはわるい、もの」
「そうか……」
ゴローはもう1つ、聞きたかったことを尋ねる。
「それじゃあさ、この池に、俺たち以外で誰かやって来たかい?」
「ううん、だれもきていない、よ」
「そうか……」
今のところ、『ルサルカ』から手掛かりは得られなかった。
「じゃあ、俺は行くよ。……明日、もう少し『水』、持ってきてやろうか?」
「くれる、の?」
「欲しいなら」
「じゃあ、きょうのはんぶんくらい、ほしい。いえにかえるのは、あしたに、する」
「わかった、じゃあな」
「うん、ありが、とう」
そして『ルサルカ』は水に潜って姿を消したのである。
* * *
ゴローとサナは、戻ってハカセに報告した。
「そうかい、『ルサルカ』は元気になったんだね。……でも、犯人の手がかりはなかったか……」
「残念ですが」
「それは仕方ないねえ。……で、明日、もう1度行くんだって?」
「はい。『癒やしの水』をもう少しだけやる、と約束したので」
「それはいいんだけど、『癒やしの水』で水妖が元気になるんだねえ……あたしゃ、そっちの効果の方が興味深いよ」
「そ、そうですか」
ハカセはマイペースである……。
* * *
その夜のこと。
ゴローとサナの部屋にアラートが響き渡った。
「ついに来たか!」
「ゴロー、これ見て」
「どれどれ……これは……僧服? いや、修道服?」
モニターに映し出されたのは、『聖職者』っぽい格好をした人物。
頭にはフードをすっぽり被っているので、男か女か、判別できない。
そんな人物が池に近付きつつあった。
「手に、何か持ってる」
「だな」
「あ、投げ入れる……あ!?」
手にした『何か』を池に投げ入れようとした人物だったが、その足に取り憑いた手があった。
その手は人物を池に引きずり込もうとしている。
人物は手にした『何か』を地面に落とし、自分の足を掴んだ手を引き剥がそうとしている……が、果たせていない。
その間にもその手は彼(あるいは彼女)を池に引きずり込もうとしていた。
「サナ、俺は池に行ってみる」
「うん、私も、行く」
「そうか。それならハカセに声を掛けていこう」
「わかった」
まだハカセは眠っていなかった。
「ついに出たかい」
「はい。サナと2人で池に行ってみます」
「うん。あたしはここでモニタを見ているよ。気を付けてお行き」
「はい」
「ゴロー、行こう」
「よし。……って、その手の物は?」
サナの手には、0.5リル入りの瓶が4本入った手提げ袋が。
「『癒やしの水』」
「なるほど、何かの役に立つかもな」
『ルサルカ』にやってもいいし、『呪具』に対して対抗できるかもしれない、とゴローは判断。
「大急ぎでいくぞ」
「うん」
2人は屋敷を飛び出すと、『強化』3倍で駆け出した。
視力も強化されているので、月明かりで十分に見える。
3分ほどで池に到着。
先程の人物がいたと思われる岸辺に着くと、そこにはもう誰もおらず、ただ土の上に何かを引きずったような跡が残されていただけだった。
「これ……池の中まで続いているな」
「『ルサルカ』が引きずり込んだ?」
「そうとしか思えないな……」
ゴローとサナがひそひそ話をしていると、池の水面にさざ波が立ち、『ルサルカ』が顔を出した。
「きて、くれた、の?」
「ああ。……今、誰か来なかったか?」
「きた。いけに、なにかわるいものを、なげこもうとした、から、やめさせ、た」
そう言った『ルサルカ』の表情は月の光に照らされて青白く、凄みがあった。
「そうか。……で、そいつは?」
「いけの、そこ」
「そうなのか……」
『ルサルカ』は人間を水底に引きずり込む魔物、というのは本当なんだなあ……とゴローは少し背筋を寒くした……のだが。
「にんげんじゃない、から」
「え?」
「にんげんなら、おぼれかけたところではなしてやろうと、おもった。でも、あいつはにんげんじゃ、ない」
「そうだったのか……」
少しほっとするゴロー。
顔なじみの『ルサルカ』が殺人犯にならなくてよかった……と、少しピント外れの感想を抱きつつ。
「いけのそこにいても、うごいてる。きもち、わるい」
『ルサルカ』に気持ち悪がられるとはどんな奴なんだ……とゴローは呆れた。
「そいつって、もう出てこないのか?」
「いまは、みずくさでしばってる、から、だいじょうぶ」
でも水草が枯れると、きっと浮き上がってくる、と言う。
「まあそうだろうな」
どうするべきか、考え込むゴロー。
と、そこにサナの声が。
「ゴロー、『呪具』が落ちてた」
「池の中に落ちなかったか」
「うん」
暴れた時に手からすっぽ抜けた後、蹴ってしまい遠くに飛んだらしいそれを、サナが見つけたのである。
素手で触らず、木の棒を2本、箸のように器用に使って運んできた。
「それ、きもち、わるい」
『ルサルカ』に気持ち悪いと言われるとは……と、ゴローは内心で苦笑する。
「ここで浄化してしまおう」
「うん。……καθαρση『浄化』」
『呪具』は一瞬光ると、黒い靄を吐き出しはじめた。
「それ、わるい、もの」
『ルサルカ』に言われなくとも、これが『穢れ』だというのはゴローたちにもわかる。
そこでゴローとサナは、
「καθαρση『浄化』」
「καθαρση『浄化』!」
2人一緒に『浄化』を掛けた。
この魔法には、さしもの『穢れ』も抗うことはできず、きれいさっぱり消滅したのである。
「終わった……」
「うん」
「すごい、ふたり、とも」
褒める『ルサルカ』。
「あとは池の底のやつか……『ルサルカ』……いちいち『ルサルカ』って呼ぶのも面倒だな……『ルー』、引っ張り上げてくれないか?」
「あ」
サナが短く声を上げた。
「『ルー』……って、あた、し?」
「うん」
「ルー……ルー。あたし、ルー!」
「え、そうなるのか?」
ゴローが短縮形のつもりで呼んだ『ルー』だったが、『ルサルカ』に『名付け』をしたことになったようである。
『ルサルカ』の存在レベルが少し強固になったようである。
「うん、ゴロー、いま、もって、くる」
そう言うと『ルー』は池に潜っていった。
「ゴロー、またやってる」
「まさかあれで名付けになると思わなかったんだよ……」
「まあ、害にならないから、いいけど」
そこへ、ルーが姿を現した。
その腕には修道服っぽいものを着た人型のものが抱えられている。
今はピクリとも身動きをしない。
拘束していた水草はほどかれていた。
「こいつか……間違いないな」
「うん、間違いない」
「今は動いていないな」
「でも、いつ動き出すかわからない。縛っておこう」
「縛るといってもなあ……」
縄も紐もない。
「これ、つかう?」
そこへルーが、水草のつるで編んだ紐をくれた。
濡れてぬるぬるするが。ないよりはマシとゴローはそれで人型を縛ったのである。
「さて、こいつの正体は……」
フードの紐をほどき、顔を顕にする。
その正体は、果たして……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月18日(木)14:00の予定です。
20250911 修正
(誤)暴れた時に手からすっぽ抜けた後、暴れた時に蹴ってしまい遠くに飛んだらしいそれを、サナが見つけたのである。
(正)暴れた時に手からすっぽ抜けた後、蹴ってしまい遠くに飛んだらしいそれを、サナが見つけたのである。




