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01-36 保存食作り

 その日の夕食は『大学芋』と焼いた黒パン。

「これも、美味しい」

 サナは大学芋が気に入ったようで、黒パン1に対し大学芋5くらいの割合で食べている。

(まあ、サナが喜んでいるならいいか)

「この端っこのカリカリした部分も美味しいのです」

 ティルダは揚げる際に硬くなった部分も気に入ったようだ。

 輪切りでなく乱切りにするのには、そういう意味もある。

 斜めに切られた先端は肉が薄いので揚げるとカリッとなるのだ。

 カリカリの端っこと、ほくほくの本体、両方味わえるのである。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまなのです」

 サナもティルダも満足したようだった。


 食後のお茶を飲みながら、ゴローはティルダに尋ねる。

「そういえば、耳飾りを作っていたと思うんだけど、できたのか?」

「あ、はいなのです。見てみますです?」

「うん」

 そこでティルダは席を立って工房へ行き、すぐに戻ってきた。

「これなのです」

「ふうん……」

 銀で作られた台に、小さな猫目石が付いている。

 白銀の本体と蜂蜜色の猫目石がいい対比になっている。

 デザインは比較的シンプルなので飽きが来ないのかな、とゴローは感想を持った。

 それをそのままティルダに伝えると、

「えへへ、ありがとうございますなのです。ゴローさんにそう言っていただけると、少し自信がつくのです」

 と言って笑ったのだった。


「さて、明日の昼頃には馬車が来て、荷物を積み込むことになるわけだが」

 ゴローが場をまとめる。

「工房の道具はいいとして、家財道具をまとめてしまうと……」

「……どうなるの?」

「料理が作れない」

「それは一大事。困る」

 思ったとおりの反応を返したサナに、苦笑するゴロー。

「だから明日の午前中は、日持ちする食べ物を3日分くらい作っておこうと思う」

 翌日の昼と夜、それに王都まで1日半くらいと言うので、余裕を見て3日分だ。

「うん、わかる。で、何を?」

「それなんだよな」


 食料を長持ちさせるにはコツがある。

 一番は水分を飛ばすこと。水分がなければ微生物も繁殖できず、長持ちする。

 それから温度を下げること。低温では微生物の繁殖速度が低下するからだ。


「まあ、この2つだな」

「理屈は、わかる。具体的には?」

「まずはラスクと……芋チップかな」

 芋チップは、ティルダも大学芋のカリカリの部分が美味しいといっていたので思いついたのだ。

「美味しいの?」

 それが一番大事、とばかりにサナが尋ねる。

「そこそこ美味いと思うぞ」

「なら、それにする」

 そういうわけで翌日の予定が決まったのだった。


*   *   *


「それじゃあ、バターを買いに行こう」

 翌日ゴローは、ラスクを作るために買い物に行くことにした。

 バターは、今後料理やお菓子作りをするに当たって必要になりそうだからだ。

 そしてティルダには、木製のコンテナを作ってくれるように頼んでおく。

「木工はあまり得意ではないのです」

 と言っているが、ドワーフの基準で言っているので大丈夫だろうとゴローは思って任せたのである。


 そういうわけでやって来た、お馴染み『食欲館』。

「開いたばかりだといているな」

 大抵お昼時に来ていたので、こんな空いている店内を見るのは初めてだったのだ。

「ゴロー、バター買おう」

「うん」

 サナは特に何の感慨もないようで、すたすたと乳製品が置いてあるコーナーへ向かった。

「これでいいな」

 無塩バターを3キム(kg)ほど買っておく。

 多いようだが、サナの食欲を考えるとこのくらいあっても1ヵ月もたないだろうとゴローは目算している。

「ああ、チーズもあるんだな」

「甘いの?」

「いや、甘くはない」

「なら、いい」

 ゴローは苦笑した。そして、買うか買わないかちょっとの間、検討する。

(うーん、どんなチーズかわからないから、今日はやめておくか。試すのなら王都でいいものな)

 結局、今回はバターだけ買うことにしたのであった。


 あとはパンを買えば材料は揃う。

 今回は、2日経って硬くなったパンを多めに買い込んだ。

 ゴローの経験上、ラスクにするなら乾燥気味の方がいいからだ。

(経験上……?)

 謎知識による認識に、またもや首を傾げるゴローであった。


*   *   *


「さて……サナは、このパンを切り刻んでくれ。大きさはこのくらいだ」

 パンは全てコッペパン型。それを厚さ8ミル(mm)くらいにスライスしてもらう。

「おお、けっこうあるな」

 大きめの皿3つに山盛りになった。

 それをフライパン上に広げた。

「これを軽く焼いて、と。『(カロル)』『ゆっくり(レンテ)』」

 こうして水分を飛ばす程度に軽く焼いたパンに無塩バターを塗る。

「サナも手伝ってくれ。ティルダも」

「うん」

「はいなのです」

 ゴローがパンを焼き、サナとティルダがバターを塗っていく。

 3人がかりで行ったので、山盛りあったパンになんとかバターを塗り終えることができた。

「こんどは砂糖を振りかけて、と」

 これもまた、3人がかりで行う。

 ゴローは隙あらば砂糖を舐めようとするサナを止めるのに忙しかった。


「で、もう一度、焼く。『(カロル)』『ゆっくり(レンテ)』」

 今度は先程以上にじっくりと焼く。熱で砂糖が溶けてパンの上に流れれば完成だ。

「あとは熱を冷まして終わり」

 これを5度ほど繰り返し、山盛りのラスクができあがった。

「さて、試食してみよう」

「うん、楽しみ」

 試食なので1切れずつだ。

「うん、まあまあできてる」

 カリッとした歯応えと、さくっとした噛み心地。バターの風味と砂糖の甘味もほどよくマッチしている。

「美味しいのです!」

「……もっと食べたい」

「サナ、気持ちはわかるが、これは明後日まで保たせなきゃならない食料なんだから我慢してくれ」

「むう……仕方がない」

 サナは食いしん坊だが、決してわがままではない。理由を話せばちゃんと聞き分けてくれるのだ。


「冷ましたら、四分の三は明日以降の分だから保存しておこう」

「むう……」

 名残惜しそうな顔で、サナは冷めたラスクを袋詰めしていくのだった。


「よし、次は芋チップスだ」

 まずサツマイモならぬ甘芋を薄くスライスし、水にさらす。

 その後油でからっと揚げ、砂糖で作った蜜を絡めてできあがりとなる。


 砂糖を水で溶かして煮つめるその傍らで、芋をどんどんスライスしていくゴロー。

 サナはそれを水にさらしていく。

 よく水を切って油で揚げるのはゴロー。

 蜜を絡めるのはティルダ、ということで、芋チップスもまた3人で作ったので、短時間で作り終えたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月1日(火)14:00の予定です。


 20191216 修正

(誤)それをのままティルダに伝えると、

(正)それをそのままティルダに伝えると、


 20200606 修正

(旧)サナはそれを水でさらしていく。

(新)サナはそれを水にさらしていく。

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