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14-18 池の底

 やって来た池の水は濁っており、いくら見つめても底まで見通せない。

 そこでゴローは、『単眼鏡』で見てみることを思いついた。


「どれどれ……うーん……ええと……」


 単に『池の底』を見たいと念じても、それでは底の泥が見えるだけ。

 なのでどう指定したらいいか、ちょっと考え、『池の中』としてみる。


「これならまあまあ見えるか……ああ、それよりもこうしたらどうかな? ……お、いい感じだ」


 思いつきでゴローは『池の水を透過する』という条件を指定してみたのである。

 すると……。


「何か沈んでいるな」

「ゴロー、何が?」

「よくわからない。ちょっと待ってくれ」


 再度ゴローは『指定対象』を変更する。


「お、見えた見えた。……これは……」

「何?」

「何か、『呪具』……みたいなものが見える」

「形は?」

「ちょっと待ってくれ」


 ゴローは落ちていた枝を使い、地面に『呪具』らしき物の見た目を描いていく。

 それは、円の一部がV字状に欠けた形をしており、表面には複雑な文字が刻まれている。


「……表面の文字までは描いてないが、こんな形だ。何だと思う?」


 ゴローはサナの意見を聞く。


「……呪具、だと思う」

「やっぱり?」

「内容については、わからない。ハカセに聞いてみないと」

「じゃあ、どうしよう? 呪具を引き上げようか?」

「準備してこないと無理じゃない?」

「それもそうか。じゃあ、一旦帰ろう」

「うん」


 ということで、ゴローとサナは大急ぎで屋敷へ戻ったのである。


*   *   *


「ふんふん、それは呪具に間違いなさそうだねえ。しかも、悪い意味……負の目的を持っているみたいだしね」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。……まず、円の一部が欠けているっていっただろう?」

「はい。それははっきり見えました」

「完全なものをわざと不完全にする、というのは負の呪法の1つなんだよ」

「そういうことですか」

「それから、表面の文字が読みにくかったようだけど、『鏡文字』じゃなかったかい?」

「あ……そうだったかもしれません」

「やっぱりね。それは効果を反転させたい時の定法だからね」


 これで、その『呪具』が、まず間違いなく池の水や気脈ををけがした原因だといえるよ、とハカセ。


「それで、その『呪具』を取り出せば、気脈のけがれはなくなるんでしょうか?」

「なくなる、とはいっても時間が掛かるだろうね。やっぱり、積極的に『浄化』しないと」


 とはいえ、それについてはゴローもサナも『浄化(カタルシス)』を使えるので問題はないだろう。

 それよりも、どうやってその『呪具』を池から引き上げるかが問題である。


「それともう1つ。引き上げた『呪具』も、できれば封印したいねえ」

「ああ、そういうことですね」

「ハカセ、封印って、どうするの?」

「そうだねえ……溶かした鉛に沈めてやろうかねえ」


 鉛は魔力を封じる働きがあるのだという。


「容器はどうします?」

「耐熱性があれば何でもいいよ。素焼きのつぼでもね」

「わかりました。あとは鉛ですが、これも買ってこないと」


 研究所にはあるが、こちらには鉛のストックはほとんどない。

 ティルダのアクセサリー作りで、刻印を打つための鉛の台があるだけである。


「マッツァ商会に行けば手に入るでしょう。……あ、『呪具』を引き上げるにはどうすれば?」

「網ですくうか、長い針金か何かで引っ掛けるしかないかねえ」

「網だとゴミも一緒にすくってしまいそうですね。針金の場合は……うまく引っ掛けられればいいんですが」


 『呪具』のところまでは『単眼鏡』で見ながら誘導できるだろうから、その先が問題である。


「ああ、『呪具』の大きさってどれくらいだい?」

「直径15セル(cm)くらいに見えましたが」

「結構大きいねえ。で、1つだけかい?」

「あ、それは……調べてませんでした」

「複数見つかる可能性もありそうだね」


 なかなか難しそうである……。


「俺が潜って取ってくるというのは?」

「うーん、ゴローなら出来そうだねえ……」

「その場合、必要なものは? 『水中メガネ』とか?」 

「なんだい、その『水中メガネ』って?」

「え? ああ、こういう形で、顔に装着して目を守るメガネです」


 ゴローはそのへんにあった紙に『水中メガネ』のイメージを描いて見せた。


「ほうほう、面白いねえ。要するに『ゴーグル』の防水性を高めればいいわけだね。うんうん、汚れた水の中でなくても、水に入る時に使えそうだね」

「泳ぐときには有効ですよ。あと、目にゴミが入りません」

「それはそうだね。……こっちにある材料で作れそうだね」


 ガラスをはじめ、必要な素材は少量だが屋敷にも置いてあるのだ。


「とりあえずゴロー用のものを1つ作ってみようかね」

「お願いします」


 ということで、ハカセはティルダの工房へ。


 そして、1時間ほどで『水中メガネ』(スイミングゴーグル)を作り上げて持ってきた。


「これでどうだい?」

「あ、いいですね」


 それを受け取ったゴローは、早速装着してみる。


「よく見えますし、気密性もよさそうです」

「おお、それはよかった」

「……ちょっと風呂場で確認してきます」


 ゴローはそう言って、『水中メガネ』をしたまま風呂場へ。

 そこで水桶に水を貯め、顔を突っ込んだ。


「うん、水漏れもないし、これでいいな」


 戻ってそう報告すると、ハカセは満足そうに頷いた。


「これで潜って探せますね」

「ゴローは呼吸する必要がないからね。……でも念の為、命綱は付けておくんだよ」

「はい、サナに持っていてもらいます」

「それなら安心だ」

「それじゃあ、これからもう一度行ってきます」

「あ、拾い上げた『呪具』は、これに入れて持ってくるといいよ」


 ハカセが手渡したのは手桶バケツのようなものである。


「中に水を入れて、水と一緒に持っておいで。その水は1度『浄化(カタルシス)』を掛けておくのさ。そうすれば、持って帰ってくる間くらいは、外に影響が漏れることはないだろう」

「わかりました。それじゃあ行ってきます」

「気をつけるんだよ」


*   *   *


 そうして、ゴローとサナはもう一度池にやって来た。

 持ってきたのは手桶、命綱、タオル。『水中メガネ』はゴローが装着済みだ。手袋もはめている。

 屋敷で水着を着て、上着を羽織ってきたので脱げば即水に入れる。

 ちなみに水着は、膝までのズボンタイプで、上半身にも半袖のシャツタイプのものを着る。

 さらに、腰に命綱を巻き、端を太い立木に結びつけたゴローは、もう一度『水中メガネ』を確認した。


「それじゃあ、行ってくる」

「気を付けて。『強化(ホプリゾーン)』は掛けた?」

「もう3倍で掛けてる」

「うん、それじゃあ、行ってらっしゃい」


 サナは預かった『単眼鏡』で、対象をゴローに指定し、水中を見つめた。


*   *   *


 池に潜ったゴローは、強化された視覚で底を探っていく。

 潜ってしまえば、水の濁りもそれほど視界を妨げることはなく、5メル()程度なら見通すことが出来ている。

 ゴミは浮いているが、生き物の姿は見当たらない。

 皆『けがれ』のせいで逃げたか死滅したかしたのであろう。

 ゴローはさらに底を目指す。

 おおよその見当はつけていたので、目指す『呪具』はすぐに見つかった。


〈サナ、見つけたぞ〉

〈うん。気を付けて、慎重に手に取って〉

〈わかった〉


 手袋をはめた手で『呪具』を手に取るゴロー。


〈思ったよりも重いな〉

〈もう『呪具』はない?〉

〈見える範囲にはないな。そっちで探してみてくれるか?〉

〈わかった。ちょっと待ってて〉


 サナは『単眼鏡』の指定対象を『呪具』に変え、池を観察する。


〈ゴローの手にしてる『呪具』以外は見つからない〉

〈そうか。それじゃあ、これから戻る〉

〈うん〉


 そしてゴローは水面へ。


 問題もなく、岸辺へ。

 そのまま陸に上がろうとしたその足に、しがみついたものがあった。


「!?」

「ゴロー!?」


 とっさにゴローは、手にしていた『呪具』を岸辺に放り投げた。


 サナは、ゴローの腰に結んだ命綱を力いっぱい引っ張る。


〈ゴロー、大丈夫?〉

〈大丈夫だ。だが、こいつ、何だ?〉

〈どうなってるの?〉

〈俺の右足を掴んで、水底に引きずり込もうとしている〉

〈頑張って。私も、手伝う〉

〈頼む〉


 サナもまた『強化(ホプリゾーン)』を掛け、命綱を引っ張る。

 ゴローも、自分の腰に巻かれた命綱を掴み、手繰り寄せていく。


 2人の力により、ゴローは再び水面へ。

 そして、ゴローの足を掴んだ『それ』の正体が明らかになる……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月14日(木)14:00の予定です。


 20250808 修正

(誤)『呪具』のところまでは『単眼鏡』で見ながら誘導できるだろうから、その先が問題でsる。

(正)『呪具』のところまでは『単眼鏡』で見ながら誘導できるだろうから、その先が問題である。

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― 新着の感想 ―
> 単に『池の底』を見たいと念じても、それでは底の泥が見えるだけ。 > なので   まずは潜っt o...みt...rz ゴ「ホムンクルスだって汚いところに飛び込みたくないからな###」 ←いあゴロー…
ここまで徹底しているとたまたま落としたとかではなく泉を穢すのが目的って感じですよねえ どこのどいつが仕込んだのやら
更新お疲れ様です! > やって来た池の水は濁っており、いくら見つめても底まで見通せない。  そこでゴローは、『心眼』で見てみることを思いついた。 ゴロー『アレ?そんな技、身につけてたっけ?w』…
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