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14-17 原因究明

 ゴローは自動車で王都を一巡りしたが、特に異常は見つからなかった。

 道行く人も、たまにすれ違う馬車や自動車にも、変わりはない。


「異常がないのはいいことなんだけど……さて」


 ぐるりと環状道路を1周して屋敷に戻ったゴロー。


「屋敷の外にも何も変わりはないしな……」


 本当に、今回の騒動……『黒ピクシー集結』の原因がわからないまま、ゴローは屋敷に戻ってきたのである。


「ただいま」

「お帰りなさいませ」


 ゴローが帰ると、『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーが出迎えてくれた。


「皆様、食堂でお待ちしております」

「ああ、もうそんな時間か」


 王都を巡ってきたため、時刻は午前11時50分。


「ただいま帰りました」

「お帰り、ゴロー。ご苦労さま」

「おかえり、お疲れさん。で、どうだった?」


 食堂にはサナとハカセがいて、ゴローをねぎらった。


「ええ、何も変わりはないようでした。異変はこの屋敷だけのようです」

「そうかい……」

「ゴロー、午後になったら、もう一度フロロのところへ行ってみよう」

「そうだな……」

「フロロには悪いけど、この異変の原因を、突き止めないと」

「だねえ。あたしも行くよ」

「お願いします、ハカセ」


 そういうことになった。

 が、まずは腹ごしらえである(主にハカセのため)。


 昼食はマリーが用意してくれた。『ミルク粥』である。


「へえ、美味しそうだ」

「おそれいります」


 丁寧に作られたミルク粥である。

 お米、水、ミルク、塩だけで作られている。


 作り方は……。

 まず、お米を水から煮る。土鍋がおすすめ。

 煮立ってきたら、焦げ付かないようゆっくりかき回す。弱火から中火の間くらいで20分。

 ミルクを入れ、ゆっくりと混ぜ、最初は中火、煮えてきたら弱火にして10分。

 表面にできた膜を取り除き、塩で味付けをし、蓋をして5分蒸らす。

 お好みで粉チーズを掛けたりベーコンを添えたりする。


「ああ、優しい味だねえ」

「美味しい」

「うん、いい味だよ、マリー」

「ありがとうございます」


 実は、水には『癒やしの水』を使い、塩も岩塩を使っているため、旨味が増していたりする。

 甘いもの好きのサナであったが、このミルク粥には満足したようだ。


「ああ、美味しかった。ごちそうさま」

「うん、美味しかった。ごちそうさま」

「マリー、美味しかったよ。ごちそうさま」


 ハカセ、サナ、ゴローである。


 食後には温かいはちみつレモンが出され、サナもさらに満足したようである。


*   *   *


「さて、それじゃあフロロのところへ行ってみようかねえ」

「はい、ハカセ」


 というわけで、ハカセ、サナ、ゴローら3人は、連れ立って『木の精(ドリュアス)』のフロロの本体である梅の木へと向かったのである。


「フロロ、疲れているところ、悪いけど、出てきてくれない?」


 サナが呼びかけると、梅の木の幹からフロロが顔を出した。


「どうしたの、サナちん?」

「ゴローが王都を見回ってきたけど、ここ以外に異変はなかった。だから、この屋敷内のどこかに異常があるんだと、思う」

「それがどこか、わからないかねえ?」

「疲れているところ悪いんだが、異常をなんとかすれば、フロロも安心できるだろう?」


 3人でフロロに頼み込む。


「うーん、そうね。……休みながら周囲を探ってみたら、なんとなく、だけど『気脈』に異常があるような気がするのよ」

「気脈?」

「そう、ゴロちん、気脈。この屋敷の地下を通っているわ。……どうやらそこが汚染されているみたいね」


 それを聞いたハカセが仮説を口にする。


「それゆえ、気脈と縁の深いフロロ、そして屋敷に影響が出、それを察知した『黒ピクシー』が集まってきた……ということかねえ?」

「うーん、ちょっと違うかな? もう1つ、気脈の泉みたいなところがあって、『黒ピクシー』はそこで生まれた、あるいは汚染されたんじゃないかと思う」

「なるほど。で、その泉ってのはどこなんだ?」

「以前サナちんがピクシーを集めてきた池……だと思う」

「あ、あそこ」


 どうやらフロロは休みつつもその探知網を広げ、異変の原因を探っていたようだ。


「あたしにわかるのはそこまで。なんとかする力もないし……サナちん、ゴロちん、お願いね」

「うん、わかった、フロロ。ありがとう、ゆっくり休んで」

「それじゃね…………」


 フロロは梅の木の幹に吸い込まれるように姿を消した。


「……1歩前進したね」

「1歩どころか、3歩くらい前進したよ」

「あの池が『黒ピクシー』の発生場所……」

「とりあえず、今後の方針を話し合いましょう」


 ゴローの提言により、3人はもう一度屋敷の食堂に戻った。

 すかさずマリーが3人分紅茶を淹れてくれる。


「『黒ピクシー』の発生場所らしきところはわかったね」

「でも『気脈』が汚染されている、というのは?」

「そこがわからないんだよねえ」

「ハカセ、汚染理由に何か心当たりはありませんか?」

「あるっちゃあるけど……」

「聞かせてください」

「そりゃあもちろんさね」


 紅茶を一口飲み、ハカセは説明を始めた。


「1つ目は、『気脈』に『けがれ』が交じる」

けがれですか……」

「例えば、大量の死体を埋めた場所が、ちょうど気脈の場所だった、とかね」

「ああ……」

「でもその場合は、いきなりけがれが強まったりはしないと思うんだよねえ。じわじわとむしばんでいく感じだろうね」

「なるほど、そういうものですか」


「2つ目は、そうした『呪物じゅぶつ』……呪われたものを埋めた場合。これなら即、けがれが強まってもおかしくないねえ」

「ははあ、そうですね」


「3つ目は『誰か』が、『気脈』に『のろい』を掛けた」

「呪い? ですか?」

「まあわかり易く表現したんだけどね」


 ハカセが言うには、考えられるのはその3つ、ということである。


「うーん……状況から、2つ目と3つ目がそれらしいですが……」

「動機がわからないよ」

「ですね……」


 ここで、サナが発言。


「ハカセ、以前ピクシーがいた池に、何か異常があったら、どう?」

「え? うーん……どうやらそこも『気脈』が通っているようだから、影響を受けるかもねえ」


 ゴローも思いつきを口にする。


「ハカセ、池に何かを捨てる可能性って、高いんじゃないですか?」

「なるほど……その可能性は思いつかなかったね」

「これから、ちょっと行ってみる」

「俺も行くよ」

「うん、行こう」


 と、出発しようとする2人にハカセは、


「通信機を持ってお行き」


 と声を掛けた。


「『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』ですか?」

「ちょっと大きいけど、ゴローたちなら大丈夫だろう?」

「じゃあ、『夫婦石(カップルストーン)通信機』の方にしますよ」

「まあ、それでもいいか」


 双方向だと電話のように、そうでない方はトランシーバーのように使うことになる。

 こちらに用意した『夫婦石(カップルストーン)通信機』の大きさはティッシュの箱くらいなので、一応携帯可能だ。

 余談だが、もっと小型のものをハカセは開発中である。


「じゃあ、これを持っていきます」

「うん、気を付けて行くんだよ」

「はい、ハカセ」


 ゴローとサナは屋敷を出、以前サナがピクシーを連れ帰った池へと向かった。

 方向は屋敷の北西。つまり王都の北西。

 森の中を、ゴローたちのペースで30分ほど進む。

 そこに、陸上競技のグラウンドくらいの広さの池があるのだ……が。


「え……?」

「何これ……」


 岸辺には湿性の花が咲き、水面にはスイレンかハスのような花も咲いていた池が、荒れ始めていた。

 周囲の木々は葉を落とし、水草は茶色く変色し、澄んでいた水は赤く濁っている。


「この様子……ここが原因みたいだな」

「うん」

「ハカセに連絡しよう」


 ゴローは持ってきた『夫婦石(カップルストーン)通信機』を起動した。


「ハカセ、聞こえますか? 今、池に着きました。オーバー」

『ああ、よく聞こえるよ。池の様子はどうだい? オーバー』

「それが……」


 ゴローは状況を説明した。


『なるほどねえ。原因がそこの池にある可能性は高いね。『黒ピクシー』もいるんじゃないかい? オーバー』

「えーと……!?」


 ハカセに言われて、ゴローが周囲を見回すと、10体ほどの『黒ピクシー』がサナの『浄化(カタルシス)』によって浄化されるのが見えた。


「います。というか、いました。オーバー」

『だとしたら、池の底に何かありそうな気がするねえ。オーバー』

「池の底、ですか……オーバー」


 ゴローは池の水面を見つめたのである。 

 果たして……?

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月7日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
> ゴローは自動車で王都を一巡りしたが、特に異常は見つからなかった。 良k o...った良かっt...rz ゴ「まだなにひとつ解決していないだろうが(呆」 ←いあだってべつにゴローのとこだけなら力業で…
>>特に異常は見つからなかった フラグ「くっくっくっくっく」 >>作り方は 仁「メシ〒□?」 明「TKG・・・・・」 56「養鶏か・・・・」 >>吸い込まれるように姿を消した 仁「フェーdゲフンゲ…
おお、気脈に問題ありでしたか 屋敷そのものに異常がなかったのは良かったですが周囲でこんな異常が起きているのも良くないですねえ
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