14-13 王都へ行ってみる
日がとっぷり暮れた、夜の9時。
ゴローとサナは『レイブン改』で王都へ向かった。
この『レイブン改』も、さらに手が加えられており、速度が更に上がっている。
『3次元帰還指示器』も備えているので(もちろん王都の屋敷にマーキングされている)、夜間飛行がさらに楽になっている。
* * *
というわけで、午後10時には、『レイブン改』は王都の屋敷に到着した。
いつもの場所に着陸する。
が……。
「来ないな」
「うん」
いつもならすぐにやって来る……いや、到着を待ち構えている『屋敷妖精』のマリーが、いつまで待ってもやって来ないのだ。
これはおかしい、と、ゴローとサナは言葉ではなく『念話』でやり取りをする。
〈何かあったのかもしれないな〉
〈うん……気を付けないといけないかも〉
〈俺は『飛行ベスト』を着ているから、いつでも飛べる。サナも『浮遊ベスト』を着ておけ〉
〈そうする〉
何かあったとき、飛んで逃げられる、という選択肢があるとないとでは大違いであろう、というわけだ。
そして着込んだ2人は、ゆっくりと『レイブン改』から降りた。
〈……何か違和感を感じないか?〉
〈うん、感じる。でも、それが何かわからない〉
〈ゆっくりと屋敷に近付いていこう〉
〈うん〉
『念話』で会話しながら、ゴローとサナはゆっくりと、音を立てないように屋敷に近付いていく。
〈やっぱり、変〉
〈同感だ〉
広い庭からも、何の物音もしないのだ。
〈何かあったんだろうか?〉
〈……でも、魔力は感じない〉
〈俺もだ。……サナ、逆に魔力を感じられないっておかしくないか?〉
〈確かに、おかしい〉
屋敷の庭には『木の精』のフロロがいるし、フロロの配下のピクシーもいるはずなのだ。
〈静か、すぎる〉
〈ああ、そう思う〉
何か予期せぬトラブルがあったのではないかという思いを強くする2人。
そして、屋敷の玄関に近付くと……。
〈……何か、おかしい〉
サナが警戒をあらわにした。
〈うん。……俺にも、感じる〉
〈なんとなく、禍々しい〉
〈屋敷の周りに漂っているのか……?〉
〈でも、何も見えない〉
〈俺もだ。……待てよ?〉
〈どうしたの?〉
ゴローは『飛行ベスト』のポケットをまさぐって、『見る』古代遺物、『単眼鏡』を取り出した。
〈これを使ってみる〉
〈それはいい考え〉
『見たいものが見える』古代遺物である『単眼鏡』で『禍々しい『何か』を見たい』と念じたらどうなるか。
ゴローにもわからないが、やってみるだけの価値はあるだろうと思っている。
〈持ってきてたの?〉
〈というより出してなかった〉
〈怪我の功名?〉
〈……なんでもいいよ〉
そしてゴローは『単眼鏡』で屋敷を覗き……。
〈うわ、なんだこれ〉
何やら小さな黒い雲のようなものが多数、屋敷に取り憑いていた。
〈ゴロー?〉
〈ああ、サナ。……俺が見たものを思い浮かべるよ。…………どうだ?〉
〈……黒い、小さな雲?〉
〈一体なんだろう?〉
〈わからない〉
そこで、もう少しだけ近付いてみる2人。
〈もう一度見てみるか……〉
再度、『小さな黒い雲の正体』が見たい、と念じながら『単眼鏡』を覗いたゴローの目に映ったのは……。
〈……黒いピクシー?〉
〈……何、それ〉
ピクシーなら『木の精』であるフロロの配下のはず、とサナは言った。
〈でも、あれは黒いぞ?〉
〈うん、そのあたりに原因があるのかもしれない〉
〈……なら、次はフロロの様子を見に行きたい〉
〈そうだな。なにかわかるかも知れないな〉
ということで、2人はそっとその場を離れ、フロロの本体である梅の木が立つ庭の一角を目指す。
しかし、そこにも……。
〈いる……〉
〈いるな〉
〈黒ピクシー……邪魔〉
〈黒ピクシー? ……あいつらか〉
〈そう〉
そのままの命名だが、わかりやすくていいか、とゴローも受け入れた。
〈フロロは……〉
『単眼鏡』で梅の木を見るゴロー。
〈…………いた! 根元から1メルくらい上の幹の中だ〉
〈そのあたりは、一番黒ピクシーが集っている〉
〈フロロを狙っているのかな?〉
フロロの魔力を吸収しようとしているのかもしれない、とゴローは思った。
それなら、周囲の魔力を感じない、という理由になるからだ。
〈わからない、けど、その可能性が、高い〉
〈……追い払うにはどうすればいいかな?〉
〈……さあ?〉
サナにも、この場合どうすればいいかわからないようだ。
〈いろいろやってみるしかない〉
〈といっても、多分物理攻撃は効かないだろうし、魔法攻撃もフロロに当たるからまずいしな……〉
〈確かに〉
打つ手がない、と悩む2人。
〈あ、もう1つ手がある〉
〈何?〉
〈……おびき寄せるのはどうだろう?〉
フロロの持つ『何か』、また、屋敷にある『何か』、が黒ピクシーを惹きつけているのかもしれない、とゴローは考えついたのだ。
その『何か』とは『オド』である可能性が高そうだ、とゴローもサナも考えている。
そしてフロロはサナに懐いている、つまりサナの『オド』との親和性が高い。
〈……なら、私が、やってみる〉
〈頼むよ、サナ〉
〈……じゃあ、魔力を少し開放してみる。ゴローは『単眼鏡』で黒ピクシーを観察していて〉
〈わかった〉
サナは、体内の『哲学者の石』の稼働率を上げる。
最新型であるゴローには劣るとはいえ、フルパワーを出したら通常の魔導士数百人分にもなるという、ハカセ謹製の逸品である。
〈稼働率、1パーセント〉
普段は0.5パーセントくらいで人並みの生活ができている、その2倍。
〈お……!〉
黒ピクシーがぴくりと反応した。
〈稼働率、2パーセント〉
〈黒ピクシーが、そわそわしているみたいだぞ〉
『単眼鏡』を覗きながらゴローが言った。
〈3パーセント〉
〈黒ピクシーが少し離れたみたいだ〉
〈なら、少し多めに。5パーセント〉
通常の魔導士十数人分の『オド』が放出された。
〈お……! 離れた離れた〉
黒ピクシーはフロロの本体から離れ、サナに向かってふよふよと飛んでいくのが『単眼鏡』越しに見えている。
〈一気に行く。10パーセント〉
〈おっ! 一斉にこっちに向かってくるぞ〉
そう言っている間に黒ピクシーはサナに集りだした。
〈サナ、大丈夫か?〉
『単眼鏡』でみると、サナの姿が見えなくなるほどに黒ピクシーが取り憑いている。
〈大丈夫。……何となく、何かが寄ってきているのが、わかる〉
〈魔力は?〉
〈問題ない〉
そうこうしているうちに、フロロに取り憑いていた黒ピクシーは全てサナに集ってしまった。
当然フロロは解放される。
「ああ、ひどい目にあったわ……サナちん、ゴロちん、ありがと」
フロロが現れたが、少し元気のない声をしている。
「フロロ、大丈夫かい?」
「まあ、なんとか……ね。極力魔力を出さないよう、閉じこもっていたから」
「ならいいんだが、サナに取り憑いている黒ピクシー、どうにかする方法はないか?」
「黒ピクシー? ……言い得て妙ね。……どうにかする方法ね。あるにはあるけど……うまくいくかどうか?」
「とにかく教えてくれ」
「ええ。……1つはそのまま『オド』を与え続けること。サナちんの魔力量なら、まる1日掛ければ黒ピクシーたちも満足して散っていくと思うわ」
「なるほど。……だが、まる1日こんなことをやっていたくないな……まだあるのか?」
「もう1つは、『浄化』して黒ピクシーから普通のピクシーに戻してやることね」
「浄化? ……『浄化』じゃないよな?」
『浄化』は、汚れた服や身体などをきれいにする生活魔法である。
「それじゃないわ。……光属性魔法……になるのかしらね。『浄化』という魔法よ」
「知らないなあ……」
〈サナ、『浄化』って知っているか?〉
サナの返答はいかに……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月10日(木)14:00の予定です。
20250703 修正
(誤)ゴローにもわからないが、やってみるだけの価値はあるだろうと思っている。。
(正)ゴローにもわからないが、やってみるだけの価値はあるだろうと思っている。
(誤)差新型であるゴローには劣るとはいえ、
(正)最新型であるゴローには劣るとはいえ、
(誤)『浄化』は、汚れた服や身体などをきれいにすす生活魔法である。
(正)『浄化』は、汚れた服や身体などをきれいにする生活魔法である。
(誤)
〈……なら、私が、やってみる〉
〈……じゃあ、魔力を少し開放してみる。ゴローは『単眼鏡』で黒ピクシーを観察していて〉
〈わかった〉
(正)
〈……なら、私が、やってみる〉
〈頼むよ、サナ〉
〈……じゃあ、魔力を少し開放してみる。ゴローは『単眼鏡』で黒ピクシーを観察していて〉
〈わかった〉