14-12 準備開始
昼食後、のんびりと寛ぎながら、旅行について話し合う。
「必要なものをリストアップしていくといいですよ」
「うん、ゴローの言うとおりだね。じゃあゴロー、書記をやっておくれ」
「わかりました」
そして話し合いは続く。
「もし、クレーネーが来てくれるんなら、居場所を作ってあげたいねえ」
「やっぱりプールでしょうか?」
「そうだね。浴槽みたいな水槽に水を張っておけば、居心地もいいんじゃないかねえ」
メモ1。クレーネーの居場所。
* * *
サナ曰く。
「甘いものは必須」
メモ2。十分な食料。
* * *
「未知の国家があるとして、そこではこっちの通貨が使えるかどうかわかりませんよね?」
「うん、ヴェルの言うとおりだね。使えないと考えておいたほうがいいだろうね」
「でしたら、物々交換ができるよう、何か価値のあるものを持っていく必要があるのではないでしょうか?」
「宝石とか、金銀とかかねえ?」
「アクセサリーのような加工品もいいかもしれません」
メモ3。物々交換用の貴重品。
* * *
「あとは……空を飛ぶ魔物に出会ったらどうしましょうか」
「ラーナの心配もあながち的外れじゃないよな。『亜竜』にでも囲まれたら……」
「速度なら多分負けませんけどね」
「でもゴロー、囲まれたらどうするかだよねえ」
「以前『閃光弾』と『音響弾』、それに『トウガラシエキス』を作りましたけど……」
「ゴローさん、『銃』はやめておいたほうがいいでしょうかね」
アーレンが難しげな顔で言った。
「そうだなあ……やめとこうよ」
「そうですね」
「そのかわり『クロスボウ』を備えておくのはどうだろう? 狩りにも使えるし」
「くろすぼう? なんだい、それ?」
「あれ、ハカセが知らないってことは……」
この世界にクロスボウってないのかな、と気付いたゴローであった。
「『謎知識』だね? 教えておくれ。さあ! さあ!!」
「わ、わかりました」
ハカセの圧に少し気圧されながら、ゴローは紙にクロスボウのスケッチを描いた。
「ほうほう、なるほど。この弓の部分は板ばねで作るんだねえ」
ハカセはすぐに構造を理解した。
「まあ、魔法が効かない相手だっているかもしれないし、作っておいてもいいかもね」
メモ4。護身用クロスボウ。
* * *
「他にも連れて行くことはできませんか?」
「ヴェルはどう思うんだい?」
「ルルさんとか、ミューさんとか……」
「うーん……マリーは『精霊棚』でなんとかなりそうだけど……そういえば、マリーを最近見ないねえ」
「確かにそうですね」
マリーは王都の屋敷に住んでいた『屋敷妖精』で、ゴローたちに懐いている。
そして、ゴローの『哲学者の石』からの『マナ』と『オド』を受けた結果、条件付きではあるが取り付いていた屋敷を離れることができるようになったのだ。
その条件というのは、『屋敷に使われている建材の一部』があれば、ということ。
この研究所には、そうした『精霊棚』あるいは『祭壇』と呼ぶべきものが設えてある。
が、気が付いてみると、ここしばらくマリーの姿を見ていなかったのである。
「本体が憑いている王都の屋敷に何かあったのかな?」
「ゴロー、気になるから今夜、行ってみよう?」
「そうだな」
かなり長いこと放置しているので、王都の屋敷も気になっている。
ゴローとサナは今夜、王都へ行ってみることにした。
「ついでにお砂糖を取ってこようね」
サナはやはりサナであった。
* * *
「で、話を戻して、ミューは連れていけるかもな」
「どうやって? ……もしかしてまた、植木鉢でかい、ゴロー?」
「もう少し大きいプランターか、水槽に『テラリウム』っぽいものを作って、ですね」
「てらりうむ? ……ああ、前に言ってた、あれかい」
『ANEMOS』が完成した頃に、そんな話をしていたわけだ。
「ええ。どういう風に作るのが一番いいか、決めかねているんですけどね。……今の案は……」
実際の『テラリウム』は、『ガラスなどの光が通る密閉されたケースの中で、陸上の生物を育てる方法』というような定義がある。
『苔テラリウム』は苔を育てて鑑賞するもので、同様に『キノコテラリウム』を作れば、『エサソン』であるミューも居心地がいいのではないかとゴローは考えたのである。
「なるほどねえ。『ANEMOS』なら十分に積めるものねえ」
「いいと思いますよ」
「いいと思うのです」
メモ5。キノコテラリウム。
* * *
「同様に、『木の精』のルルの『分体』も連れて行きたいですね」
「それも『テラリウム』かい?」
「大きなプランターでもいいんじゃないでしょうか。あるいはミューと同じテラリウムがいいかもですね」
「それはルルに聞いてみる」
「そうだな、サナに頼もう」
メモ6。『木の精』の『分体』。
* * *
「……ゴロー、ポチは連れて行かないの?」
「ポチか……大丈夫かな?」
「一度試してみればどうだい、ゴロー?」
『ANEMOS』に乗せてみればいい、とハカセは言った。
「そうですね。その場合、寝床はどうしましょうか……」
「……ルルに、聞いてみる?」
「そうだなあ……」
今のところ、精霊に関する知識は、『木の精』であるルルが一番なのだ。
「じゃあ、それも聞いておく」
「頼んだ」
メモ7。ポチの寝床。
* * *
「なんかどんどん、本来の旅行の準備から遠ざかっている気がするのです」
「確かに……ねえ」
ティルダのつっ込みが入り、ハカセも同意する。
「ええと……あ、そうだ、推進器を増設するんでしたっけ?」
『積層翼膜式推進器』を増設し、飛行のサポートをさせようという話である。
メモ8。『積層翼膜式推進器』増設。
* * *
「また訪れたくなる可能性がありますから、『3次元帰還指示器』と『マーカー』は多めに用意しておきましょう」
「それは必要だろうねえ」
メモ9。『3次元帰還指示器』と『マーカー』。
* * *
「長期間の旅行になるなら、もう少し寝心地の良い寝台がほしいかねえ」
「それはそうですね」
メモ10。寝台の改良。
* * *
「あ、小型の折りたたみボートを持って行こうと言ってましたよね」
「そうだったねえ」
水上では『ANEMOS』では探検できない場合もあるかもしれない、ということである。
「もう少しブラッシュアップしたいですよね」
「うんうん」
ハカセとアーレンは改良する気満々である。
メモ11。折りたたみ式ボート改良版。
* * *
「薬も必要でしょうね」
「材料も持っていこうか」
メモ12。薬品類。
* * *
「そういえば、個人用の防御手段ってないんですよね……」
「そうだねえ。ゴローの言うとおりだよ」
「ハカセ、『空気の・壁』を発生させる魔導具を作ることはできますか?」
「うーん……まあ、できそうだね。作るとしようかねえ」
「そのほうがいいと思います」
とはいえ『空気の・壁』では、強力な物理攻撃は防げない。
せいぜいが矢を弾くくらいである。
また、魔法も防ぐことはできない。
「『障壁』の魔法ってないんですかね?」
「聞いたことがないねえ……」
さすがのハカセも『障壁』は張れないようだった……。
* * *
その日はそうした話し合いで暮れたのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月3日(木)14:00の予定です。
20250705 修正
(旧)
「てらりうむ?」
「ええと、まあ、『箱庭』みたいなものと思ってください」
(新)
「てらりうむ? ……ああ、前に言ってた、あれかい」
『ANEMOS』が完成した頃に、そんな話をしていたわけだ。
「ええ。どういう風に作るのが一番いいか、決めかねているんですけどね。……今の案は……」
12-17ですでにテラリウムの話は出ていました。