14-07 次の目標
翌日、ハカセたちは『緊急用の脱出用装備』として、背負うタイプの『浮遊装置』を作った。
個人の認証というか、体重の認証として、暫定的に『パンチカード』を使うことに決定。
これなら紛失しても惜しげがないし、悪用もしづらいだろうからだ。
しばらく運用して不具合がなければ正式に採用……というつもりだったが、
「不具合がないかどうか、の実践は墜落時だから、そうそう試せないと思う」
というサナの言葉に、皆頷いたのである。
「まあしょうがないね。緊急用の脱出用装備なんて、使わないに越したことないんだから」
「ですね、ハカセ」
保険のようなものだな、と考えたゴローは、
(保険ってなんだ?)
と自問自答し、『謎知識』内での回答により自己完結したのだった。
そういうわけで、午前中に20人分の『浮遊装置』を製作し、ゴローとフランクによる動作試験を行った結果、すべて問題なく動作してくれたのである(ちなみにゴローは体重62キム、フランクは200キム)。
同時に、前日に洗い出した改良点も全部改造済みである。
* * *
「おお、これで納品か!」
「はい。……そこでですね、陛下と姫様に、1号機と2号機に名前を付けていただきたく」
「名前か……そうじゃのう……」
女王ゾラとリラータ姫はしばし考え、
「ピークス(PICUS)とはどうじゃ?」
「アルデア(ARDEA)というのはどうかのう」
とそれぞれ、候補を挙げた。
ピークス(PICUS)はキツツキ、アルデア(ARDEA)はサギのことだそうだ。
どちらも、船体の先端部が『ANEMOS』に比べて、より尖っているところからの連想らしい。
「では、1号機を『PICUS』、2号機を『ARDEA』ということに」
「うむ、それでよい」
「おお、嬉しいのじゃ」
「では、側面に名前を入れますね」
「うむ、ゴロー、頼むぞ」
そういうわけで、女王ゾラとリラータ姫の見ている前で1号機『PICUS』、2号機『ARDEA』の名前が金文字で書き込まれたのである。
ちなみにピークス(PICUS)はリラータ姫、アルデア(ARDEA)は女王ゾラの命名である。
* * *
そして、緊急用脱出用装備を含め、引き渡しすべてが終了したのは午後3時。
「ハカセ殿、ゴロー殿、サナ殿、アーレン殿、ラーナ殿、ティルダ殿、ヴェルシア殿。これはささやかな感謝の気持ちじゃ」
ルナールとフランクを除く全員に、感謝状と金一封が贈られる。
もちろん建造の礼金とは別枠だ。
「ありがとうございます」
感謝状は、代表としてゴローが受け取った。
「うむ、これで我が国もいろいろと便利になるのう」
2隻の飛行船を見上げ、女王ゾラは嬉しそうに呟いたのである。
* * *
その夜は、飛行船完成記念の大宴会となった。
「おお、ゴロー、サナ、食べておるか?」
「あ、姫、ええ、美味しくいただいてますよ」
「うむ、それはよかったのじゃ」
「このドライフルーツも美味しいですね」
「そうじゃろう。乾燥させた分、甘みが凝縮されておるのじゃ」
「ほんとに。これ、美味しい」
新鮮な採れたてのフルーツの他にドライフルーツも並べられており、甘いもの好きのサナは気に入ったようだ。
「ドライパイナップルじゃな。それは特に甘いじゃろう」
「はい」
「こっちのドライマンゴーも甘いぞ」
「……ほんと、甘い」
「ふふ、気に入ってもらえたようでなによりなのじゃ」
が、ドライバナナはあまり気に入らないようで、
「……バナナは甘いというよりパリパリ、してる……」
という感想であった。
「うむ、それはどちらかというと保存食に近いかもしれないのじゃ」
「うーん……そうだ、姫、『柿』ってありませんか?」
「かき? ……いや、聞いたことはないのじゃ」
「そうですか……」
「ゴロー、その『かき』って、なに?」
ゴローの態度に、サナが疑問を持ったようだ。
「え? ……ああ、『柿』っていうのは果物で、木に生る実なんだ。甘柿と渋柿があって、渋柿の方は干しておくと甘くなって、それを『干し柿』っていうんだよ」
『謎知識』が教えてくれた情報を、そのまま説明するゴローであった。
「……食べてみたい」
「だから、その『柿』が見つかっていないんだって」
「……残念」
「どこか、遠い国にはあるのかも知れないけどな」
「いつか、見つけよう」
「まあ、そういうことだな」
「妾も、その『かき』には興味があるのじゃ」
「見つかったらお知らせしますよ」
「うむ、楽しみにしているのじゃ」
干し柿の話はここまで。
「それより、ドライフルーツは日持ちがするから、飛行船に積んでもいいかもな」
「あ、それ、いい」
ゴローの言葉に、サナも賛成した。
「じゃあ、ドライフルーツをたくさん仕入れていこう」
「うん」
更にサナは、
「ゴロー、果物を美味しいまま保存する方法って、他にはないの?」
と聞いてきた。
「うーん……『瓶詰め』とか?」
「瓶詰めはそれほど保たないのではないのか?」
ずっと話を聞いていたリラータ姫が意見を口にした。
「そんなはずは……あ、もしかして、瓶の殺菌をしてないとか、シロップに漬けていないとか?」
「さっきん? しろっぷ? 何じゃ、それは?」
「あー……そういうことですか」
どうやら『瓶詰め』があるとはいえ、それは単に瓶に果物などを詰めただけのようだ、とゴローは察した。
「ゴロー、なにやら工夫をすれば、瓶詰めの果物を長持ちさせられるようじゃな?」
「ええ、そうですね」
「ゴロー、作ってもらおう」
「……まあ、そうだな」
サナにもせっつかれたゴローは、翌朝、『長持ちする瓶詰め』の作り方を説明することにしたのである。
* * *
一方、ハカセやアーレンはどうしていたかというと。
「ハカセ、この前『ミラー湖』へ行ったじゃないですか」
「うん、それが?」
「ああいう時、小型のボートがあるといいな、と思ったんですよね」
「ああ、いいねいいね!」
「それに、何かあった場合、地面の上より水の上の方が、不時着した場合に危険が少ないと思うんです」
「確かにそうだねえ」
海や湖に着水した際にも小型ボートがあると役立ちそうだ、とハカセとアーレンは意見が一致した。
「うーん、ボートかい。『研究所』にはボートを浮かべられるような池も湖もなかったから、失念していたねえ」
「考えてみるのも面白そうですよ」
「だねえ」
などと、次の製作物に関する目標が決まりつつあった。
「そうすると、研究所よりも、こっちの方が実験しやすいかもねえ」
『ジャンガル王国』の周囲には川が流れている場所もあるし、先日訪れた『ミラー湖』のような場所もある。
それよりなにより、いまハカセたちがいる首都『ゲレンセティ』の南側にも大きな湖があるのだ。
「長距離移動をしない前提なら、平底の船がいいと思います」
「作りやすいし、安定もよさそうだねえ」
「あまり大型は作れないでしょうけど」
「せいぜい、あたしたち全員が乗れればいいよ」
およそ10人乗りまでだろう、とハカセ。
それを、女王ゾラが聞きつけた。
「ハカセ殿、アーレン殿、興味深い話をしておるのう」
「あ、陛下」
さり気なくアーレンの影に回り込むハカセ。
「ボートか。小型で持ち運びができるようなものであれば、製作を依頼したいが……どうじゃ?」
「いいですね。ね、ハカセ」
「……そうだねえ」
研究開発費を『ジャンガル王国』が持ってくれるというのは魅力的だった。
おまけに、実験をする水辺も近くにあるというのは便利だ。
首都『ゲレンセティ』の南には、大きな湖……ゴローが見れば『カルデラ湖』と言うであろう……があるのだから。
こうして、次の製作物がきまったようである……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月29日(木)14:00の予定です。