14-05 2号機試験飛行
1時間ほどの試験飛行のあと、1号機は着陸した。
「ゴロー、ケーン、見事であった」
「すごいのじゃ、ゴロー、ケーン!」
女王ゾラとリラータ姫が2人を絶賛する。
「続いて2号機のテストを行います。これが成功すれば、乗客を乗せての試験飛行ができます」
「うむ、楽しみにしておるぞ」
「はい」
ゴローとケーンは一礼すると、ハカセたちのところへ。
「ご苦労さん、ゴロー。気が付いたところはあるかい?」
「はい。いくつかありまして……」
ゴローは、搭乗者用の『浮遊ベスト』に相当する安全具があるといいな、ということ、それに操縦桿による船体の姿勢変化は10度以内に収めたほうがいいのではないか(緊急時除く)、などを説明する。
「あ、それから、操縦席の優先順位ですが、切り替えられるようにしておくのもいいと思います」
「なるほどねえ。わかったよ」
「では、2号機の試験飛行をしてきます」
「気を付けるんだよ」
「はい」
ハカセへの報告は3分くらいで終了。
ケーンはすでに2号機に乗っていたので、ゴローも急いで乗り込んだ。
「待たせたな。それじゃあ、行こうか」
「はい」
「まずは起動スイッチを入れる」
「はい」
幾つかの計器類に明かりが灯った。
「魔力系は必ず確認するんだ。魔力がないと飛べないわけだからな」
「はい」
「問題がなければ『浮遊レバー』を少しずつ上へ押し上げる」
「はい」
この操作により、『亜竜の翼膜』に魔力が通り、浮力が発生する。
2号機はゆっくりと浮かび上がっていく。
「おお、2号機も飛んだのう」
「2機目も成功なのじゃ」
少し気の早い感想を口にするリラータ姫。
『ジャンガル王国』の技術者たちは、自分たちが主に手掛けた飛行船が無事に離陸したのを見てほっとしている。
* * *
「そう、そのくらいが標準だ。どれもそうだが、レバーは慌てて操作しては駄目だ」
「はい」
ケーンに操縦法のノウハウを説明するゴロー。
運動神経のよい『獣人』だけに、ケーンはそうした操作のコツを飲み込むのも早かった。
「次は斜め上昇だ」
「はい」
今回の『飛行船』の上昇方法は2通りある。
1つは『亜竜の翼膜』に魔力を送り込んで『浮力』を高め、上昇する方法。
これは、船体は水平のまま高度が上がる。
もう1つは、船体の機首(船首)を斜め上に向けて進み、推進器の力も利用して上昇する方法だ。
「そうだ、いいぞ」
「はい」
「今度は旋回だ」
「はい」
1号機を使っての予備訓練が功を奏し、30分ほどの試験飛行で、ケーンはほぼ問題なく操縦できるようになったのである。
* * *
2号機も、1時間ほどの試験飛行を行った後に無事着陸した。
「やったな!」
「ケーンさん、やりましたね!」
「飛行船バンザイ!」
技術者たちが駆け寄ってきた。
「ゴロー、ケーン、試験飛行、大儀であった」
「ゴロー、ケーン、おめでとうなのじゃ」
女王ゾラとリラータ姫も祝福してくれた。
そして当然……。
「母上、妾も乗ってみたいのじゃ」
が、女王ゾラは首を横に振った。
「その気持ちはわかるが、まだ駄目じゃ。もっと安全を確認してからじゃな」
「……」
しゅん、となるリラータ姫。
「次は、飛行船を作った皆に乗ってもらおう」
「……わかったのじゃ……」
搭乗人数は緊急時の上限15名、通常6名(操縦士除く)、という仕様なので、1号機はゴロー、サナ、ハカセ、アーレン、ラーナ、ヴェルシア、ティルダの7人が。
ルナールは残念ながら地上で待機だ(フランクは『ANEMOS』に乗ったまま)。
そして2号機は、技術者たち10名から6名が選ばれ、ケーンが操縦することになる。
この試験も、特筆することはなく、無事に終了。
「今度こそ乗るのじゃ!」
「仕方ないのう……」
娘のはしゃぎっぷりに少し苦笑する女王ゾラだが、その実自分も乗ってみたくてたまらない、という内心を表すように、尻尾がばっさばっさと揺れている。
「リラータはゴローたちの1号機に乗れ。妾は2号機に乗る」
「え? ……う……わかったのじゃ」
万が一のことがあっても、2人一緒に墜落、ということのないようにという計らいであろうか。
リラータ姫もそのことに薄々気が付いており、特に逆らうことなく受け入れたのである。
だが。
そんな心配は全く必要がなかったと思わせるほどに、1号機も2号機も安定した飛行を行い、無事に着陸したのである。
* * *
「本当に、ご苦労であった」
試験飛行が終わると、女王ゾラはゴローたちを改めて労った。
「陛下、今回の試験飛行で幾つか改善点が発見できましたので、それを直しての納品ということでよろしいでしょうか?」
ゴローが代表して確認を取る。
「内容的には、飛行性能とは直接関係しない部分ですので、この改良によって飛行性能が落ちることはありません」
「うむ。……具体的にはどうするつもりじゃ?」
「はい。1つは、操縦系統の切り替えです」
ゴローは、主操縦席と補助操縦席の優先度を切り替え式にしたいと説明する。
「ほう……なるほど、例えば……操縦者が居眠りでもした場合や、酔っぱらいでもした場合、補助操縦席を優先に切り替えられるようになるわけじゃな?」
「あ、はい、そういうことです」
女王ゾラの理解は早かった。
「なるほど、それはよい。他には?」
「はい。『斜め上昇』時の上昇角度をもう少し抑えようかと。具体的には、通常は10度、緊急時は今の20度、というようにです」
「ふむ。……確かに、床が傾いていると、なんとなく落ち着かぬな。よろしい、やってくれ」
これも女王ゾラは意図をすぐに理解してくれた。
ゴローたちは明日の朝には納品しますと言い、作業に取り掛かったのである。
* * *
そして、その日の夕方。
改造を終え、『ジャンガル王国』の技術者たちが引き上げた後、ゴローたちはもう1つの懸案事項について話し合っていた。
「うーん、ゴローが言った改造は終わったんだけど……」
万が一の時に使う、パラシュート代わりの脱出用器具である。
「『浮遊ベスト』は駄目ですよね……」
ゴローたちが所有している『浮遊ベスト』は『竜の骨』を使っている。
これはゴローが持つ『緑に光る石』(『風の精』からもらった)がないと作れないため、今後のことを考えると使いたくないのである。
「ゴローと『緑に光る石』がないと増産できないんだものねえ」
「あと、『竜の骨』もないと」
「サナの言うとおりだねえ。……とすると、『亜竜の翼膜』でなんとかしたいねえ」
そこで、皆で知恵を出し合うことになったのだが、決め手はやはりゴローの『謎知識』だった。
「考え方を変えましょう。非常時に背負うような形にするんです」
「ふうん?」
「こんな感じに……」
ゴローは絵を描いて見せる。
ランドセルのように背負う。
ランドセル状の本体からは、30セルほどの棒状のアームが左右斜め上に伸び、その先に『積層翼膜式推進器』が取り付けられている。
「なるほど、これなら今の手持ちで作れるし、こっちの技術者にも作れるだろうね」
『飛行船』は、『飛竜』の体当たりでも受けない限りいきなり墜落はまずしないだろうから、こうした装備を装着する時間くらいはあるだろう、というわけだ。
そして重心位置の関係で、頭が上に、足が下になる体勢となれば、上向きの力を発生する『積層翼膜式推進器』により、安全に着陸できるはずである。
「作るのは簡単だろうけど、その前に解決すべき問題が2つあるね」
「推進力の大きさと、制御方法ですね」
「そういうことさね」
起動したら空高く飛んでしまうのはまずいので、ゆっくり地上に下りられる程度にしたい。
が、装着者の体重はまちまちだろうから、多少の制御はできるようにしないとならない、というわけだ。
「背負いベルトの正面に調整ダイヤルか何かを付けるかねえ」
「自動で……は難しいでしょうね」
「調整を失敗して空へ飛んでいったら困りますよ?」
「それもそうだねえ……」
なかなか仕様検討は悩ましいようである……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月15日(木)14:00の予定です。
20250509 修正
(旧)
そして重心位置の関係で、頭が上に、足が下になる体勢となれば、常に下方へ向けて推力を発生する『積層翼膜式推進器』により、安全に着陸できるはずである。
(新)
そして重心位置の関係で、頭が上に、足が下になる体勢となれば、上向きの力を発生する『積層翼膜式推進器』により、安全に着陸できるはずである。