13-29 分配と次の探検
「無事戻ったな、ご苦労じゃった」
その日の午後4時半、ゲレンセティに戻ったゴローたちはそのまま宮殿へ連れて行かれた。
といっても、堅苦しさが若干ましな『小宮殿』に、である。
そこには女王ゾラが一同を待っていた。
「おかえり、リラータ」
「母上、ただいま帰りましたのじゃ」
「うむ、元気そうで何よりじゃ。……ゴロー、そして皆の者、娘のお守りご苦労であった」
「はっ、もったいなきお言葉」
その他、簡単な報告を行い、解散となった、
* * *
……はずであった。
「さあさあ、遠慮のう食べてくれ」
「ゴロー、このパイナップルは熟して甘いのじゃぞ」
「は、はあ……」
夕食の席に、女王ゾラとリラータ姫も同席しているのである。
「ほう、『ミラー湖』で『赤い斑』の石を見つけたと?」
「そうなのじゃ、母上!」
「ゴロー、重ね重ね、娘のお守り、ご苦労じゃったのう……」
「い、いえいえ」
リラータ姫が母である女王ゾラに旅の様子を語り、時々ゴローがそれを補足。あるいは女王ゾラからの質問に答える、という形で夕食会は進んでいった。
「ほう、『飛竜の巣』は、今はそういう様子なのか」
「はい。キールンさんから明日、報告書が出ると思いますが」
「そうじゃのう。じゃが、別の者たちからの視点も聞いておくのも悪くない」
「そういうものですか」
「そういうものじゃ」
とはいえ、ほぼゴローが応対しているのだが。
サナは無口だし、ハカセやアーレン、ヴェルシア、ラーナらとは女王ゾラとの馴染みが薄いので、残るティルダにも質問が投げ掛けられる。
「ティルダ、珍しい石も見つかったと聞いたが?」
「は、はいなのです。希少な金属の鉱石が」
「ほうほう」
ちなみにルナールはまだジャンガル王国国内では罪人扱いなので夕食会に同席は許されていなかった。
「……そうそう、ゴロー、『飛行船』は作れそうかや?」
「うーん、今のところ難しいですね。やっぱり『亜竜』の抜け殻がほしいところです」
「そうか……そうなると……うむ、1箇所だけ心当たりがあるぞ」
「本当ですか!?」
女王ゾラは220歳を超えて長生きしているので、そうした情報も持っているようだ。
「あくまでも『心当たり』であって、『飛竜の巣』のように確実性はないぞ?」
だから前回教えなかった、と女王ゾラは言った。
「そういうことでしたか」
「しかも、生きた亜竜もいそうじゃし」
あ、それは危険だな、とゴローは納得した。
そんな場所にリラータ姫を連れていけるわけはない、とも。
「母上、それはどこなのじゃ?」
「姫、教えてもよいが、そなたは行ってはならぬぞ? それでも聞きたいか?」
「う……聞けば、行きたくなるのじゃ……聞かない方が、よいかもなのじゃ……」
「うむ、そうじゃぞ」
なかなか聞き分けのよい姫様であった。
「では、後ほど場所を教えよう」
「はい、お願いします」
『亜竜』素材はいろいろと有用なので、探しに行くだけの価値はあるのだ。
それからは、他愛もない話、世間話などをして夕食会は和やかに終わったのであった。
* * *
その夜。
「どうやら女王様には『亜竜』の生息地について心当たりがあるようだねえ」
ハカセが言い出した。
「ですね」
ゴローが応じる。
「『亜竜素材』は使い道がたくさんあるから、この機会に手に入れておくのも悪くないね」
「やっぱりそうですよね」
ここでアーレンも話に加わる。
「飛行船を作るにせよ、円形翼機を作るにせよ、素材は必要ですものね」
「アーレンの言うとおりさね。……あたしとしては、飛行船よりも円形翼機を作った方が、ここの人たちには便利かもと思うねえ」
「離着陸の場所が少ないからですね」
「そうそう、そういうことさ」
「いずれにせよ、素材を手に入れないと」
「あとは、今回見つけたものの分配だねえ」
個人で拾った石はともかく、『飛竜の巣』……『岩棚』で見つけた素材は山分けということになるだろう。
それも頭割りではなく、ゴローたちとジャンガル王国と、の半々になればいい方だとゴローは考えていた。
「まあ、それも明日だねえ」
その日は、皆なんとなく疲れていたので風呂に入った後、早めに就寝したのであった。
* * *
翌朝。
ゴローとサナは眠る必要がないので、明るくなった5時頃には寝床を出て、迎賓館の外を散歩していた。
「あー、静かだな」
「うん。……ここの庭は、手入れがされていて、好き」
「だなあ。……暖かい土地を好む花が多いし」
「うん、研究所じゃ見られない」
ジャンガル王国は亜熱帯。北方系の植物が多い研究所とは植物相が大きく異なる。
「ルルに相談すれば、研究所でも栽培できるかもな」
「うん……」
「あとはでかい温室を作るか」
「それも、いいかも」
そんな会話をしながら、ゴローとサナは皆が起き出すまで散歩を続けたのである。
* * *
そして朝食の後は、調査行の収穫を分け合う打ち合わせである。
女王ゾラの前で行うことになり、ジャンガル王国側はキールンとネア、ゴローたちはゴローとサナ、ティルダが出席する。
とはいえ、ごねるような内容もなく、単純に折半で話がついた。
「いいんですか?」
「もちろんじゃ。……これとは別に、ゴローたちには娘の面倒を見てくれた礼金も出すぞ」
「いえ、そこまでしていただくわけには」
「遠慮は無用じゃ。これは親として、妾がすべきことじゃからな」
「……そういうことでしたら、ありがたく」
「うむ。後ほどネアに持って行かせよう」
これで分け前の話は終わり、キールンは下がっていった。
「……それでじゃな」
一旦言葉を切ったあと、女王ゾラは話題を変えた。
「『亜竜』の生息地に関してじゃが」
「はい」
「あくまでも『心当たり』として聞いてくれ」
「わかっております」
女王ゾラはそう念を押してから、説明を始めた。
「今回目印にした『双子山』があったじゃろう?」
「はい」
「そこから北へ向かう線より少し東に向かって進むと、『亜竜』の生息地があるはずなのじゃよ」
「距離はどのくらいでしょう?」
「そうじゃな、『ミラー湖』までと同じくらいではないかと思うが」
「でしたら確認だけなら日帰り、素材を採取しても2日で往復できますね」
「うむ、ゴローたちならそうなるじゃろうな」
「皆と相談し、行けたら明日にでも行ってみていいでしょうか?」
「もちろんじゃ。我が国用の飛行船を作ってもらうためじゃからな」
「ありがとうございます」
「それはこちらの言う言葉じゃ」
これで話は終わり。
……なのだが、この機会にゴローは聞いておきたいことがあった。
「あの、陛下」
「うん? 何じゃ?」
「1つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「何じゃ? 答えられることなら答えよう」
「ありがとうございます。。……ええと、『メグロム遺跡』という遺跡があると聞いたのですが」
「おお、あれか。……さだめし、キールンあたりに聞いたな?」
「あ、はい。……秘密でしたらもういいのですが」
だが女王ゾラは首を横に振った。
「いや、別に秘密ではない。あそこは、大昔……といっても妾がまだ小さかった頃だが……大規模な崩壊が起きて、それ以降遺跡としての価値はなくなったのじゃ」
「価値……ですか?」
「うむ。あそこの地下には壁画があってな。過去の出来事のようなものが記されておったのじゃ」
「記録は取っていなかったのですか?」
「我らはそういったことに無頓着でのう……」
「残念ですね」
「まったくじゃ」
「なにか覚えていませんか?」
「なにぶん小さかったからのう……」
これは無理もないので、残念だがそれ以上は聞くことをやめたゴローであった。
* * *
女王ゾラとの会談後、皆のところへ戻ったゴローは、『亜竜』の生息地について話したところ、皆乗り気である。
「それじゃあ、明日、行ってみよう」
「楽しみだねえ」
ハカセは素材の入手に期待を寄せ、
「食料を用意しないと。特に甘い果物」
サナは食事に思いを馳せるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月20日(木)14:00の予定です。
20250313 修正
(誤)「1つ、お聞きしたいことがるのですが」
(正)「1つ、お聞きしたいことがあるのですが」
20250330 修正
(誤)「記録は取っていなかったのですが?」
(正)「記録は取っていなかったのですか?」